2013年
8月号
中西さんのデザイン画

神戸鉄人伝(こうべくろがねびとでん) 神戸の芸術・文化人編 第43回

カテゴリ:文化・芸術・音楽

剪画・文
とみさわかよの

日本デザイン文化協会理事
ファッションデザイナー
中西 省伍さん

その仕草は、ちょっとおませで生意気な神戸っ子?ファッションデザイナー・中西省伍さんの描く独特のタッチのデザイン画は、斬新でありながらどこか懐かしくもあり、見る者の心をくすぐります。おしゃれな街神戸のイメージを作ったのは、一九七三年の「神戸ファッション都市宣言」。それまでの造船や製鉄に替わって、ソフト産業で都市の振興を図ろうという画期的な宣言でした。意気盛んな神戸のまちで、ファッションデザイナーとして第一線を走り続け、今もトアロードに居を構える中西さんにお話をうかがいました。

―ファッションデザインの世界に入られたのは?
 若い頃、父が失業するという家庭の事情がありまして、働きながらも悶々としていました。そのうち僕自身も病気をして、2年間療養生活を送ることに。力仕事には就けないし、さて何をしよう?と思った時に、目指したのがデザイナーだったんです。絵は好きだったし、ものをつくることがしたくて。でもいざ勉強しようとしたら、教えてくれるところがありませんでした。

―当時は「ファッション」や「デザイン」の学校は無かったのですか?
 洋裁学校はありましたが、どこもかしこも男子禁制。男の僕は、縫い方すら習うことができません。そこで兵庫県の失業者向けの職業訓練所に入り、洋裁の手ほどきを受けました。僕が基礎を学び終えた頃、日本は成長期に入り、名だたる化学繊維メーカーがファッション・コンテストを始めました。今あるデザイン・コンクールのはしりです。それに応募して近畿地区第1位、東京で3位の成績を収め、デザイナーとしてスタートを切りました。

―コンテストで認められ、業界紙に載って、メーカーから声を掛けられて上京して…というとまるでドラマですが、神戸を離れずに活動する道を選ばれました。
 2年くらいはあちこちで入選・入賞を重ね「コンテスト荒らし」と言われました。コシノジュンコさんとはコンテストで張り合ったこともありましたけれど、彼女はすぐ東京へ行って頑張り、皆様ご存知の通り活躍されています。僕はトアロードの一角にブティックを構え、オーダーメイドのクチュールを始め、オリジナルのプレタポルテなどを手掛けました。またメーカーの新製品開発のアドバイスをしたり、学校でデザインやドローイングを教えたり、神戸市や兵庫県と仕事をしたり、ずっと地域に密着してやってきました。

―神戸はファッション都市と呼ばれています。
 確かにそうです。神戸は昔からオシャレな街、ハイカラな街と言われてきました。ワールドやジャバといったアパレルメーカーが名を轟かせましたが、ファッション産業全体を支える一次産業=糸や繊維の作り手の帝人、東レ、クラレなどは大阪にありました。

―それは意外!神戸と言うとファッション産業の集積地なのかと思っていましたが…。
 神戸市はポートアイランドにファッションタウンを造ってアパレル産業を誘致しました。観光施策とも絡めてファッショナブルなまち、おしゃれなまちを創るという、その戦略は成功したといっていいでしょう。「ファッション都市神戸」のネーミングも、全国ブランドになりました。実際、僕も東京へ行った時にまず「神戸のデザイナーです」と言うと、一目おかれたものです。ただ産業という視点で見ると、残念ながら神戸は大阪に一歩を譲ってきたのですね。

―同時代のデザイナーたちが東京へ移っていく中、「あくまで神戸」だったのは?
 デザイナーが活躍できる要素はマーケットとマスメディアですが、これが充分でない場所には有能なデザイナーも定着できず、結局は東京へ行ってしまう。先程お話したコシノジュンコさん、タカダケンゾウさんもそうです。僕は長男でもあり、父が早くから病気がちだったので出て行けなかったという理由もありますが、生まれ育った神戸が大好きなんです。大阪の業界から何回もお誘いを受けましたが、僕は神戸を離れたくありませんでした。大阪へ仕事には出掛けましたが、僕の拠点はずっと変わらず神戸です。

―新たに「デザイン都市宣言」をした神戸に、どんな期待を?
 ファッションも二次産業だけでは物足りません。幸い神戸には「オシャレな街」のイメージが定着しています。それをベースに、トータルな今日のライフスタイルを打ち出し、日本のファッションリーダーとしての地位を名実ともに確立できれば理想ですね。デザインの方がファッションより幅広い概念だから、軽工業や重工業にも展開できるんじゃないかと期待してます。僕自身は今、ファッションに関しては、後輩を見守り育てる立場です。個人的には映画が大好きで、試写会に出掛けては評論のコラムを連載したりしていますが、これからも日本一素敵なまち神戸でいろいろなことを続けていけたらいいなと思っています。
(2013年6月10日取材)

中西さんのデザイン画

とみさわ かよの

神戸市出身・在住。剪画作家。石田良介日本剪画協会会長に師事。
神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。
日本剪画協会会員・認定講師。神戸芸術文化会議会員。

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