2013年
8月号

食のオアシスへ行こう

カテゴリ:, 経済人

株式会社 阪食
代表取締役社長 千野 和利さん

阪神間でもお馴染みの「阪急オアシス」では、安全・安心で更に地域に根ざしたスーパーマーケットを目指し、改革が進められている。運営する㈱阪食の千野社長にお聞きした。

―「阪食」とは。
千野 エイチ・ツー・オーリテイリング㈱の中にある百貨店事業とスーパーマーケット事業という2つの小売事業の、後者を担っているのが株式会社阪食です。現在、阪急オアシスを中心に68店舗を展開し、グループ会社の阪急フーズ、阪急デリカ、阪急ベーカリーが阪急オアシスのオリジナル商品の供給基地となっています。2020年を目処に売上2千億、約130店舗を目指し、毎年8から9店舗ペースでの新規オープンを予定しています。
―エリアを広げるのですか。
千野 現在、京阪神8ブロック内に展開していますが、今後もこのエリア内に展開していく予定です。
―阪急オアシスのコンセプトを教えて下さい。
千野 スーパー業界は今、価格志向と品質志向に二分されつつあります。更に、コンビニ、DIYショップ、ディスカウントショップ、ドラッグストア等、新しい業態でも食品を扱うようになってきました。このような状況で、阪急というブランドと京阪神という豊かなマーケットを持ってどんな店づくりをしていくかがコンセプトシートです。品揃えや店づくりで「専門性の追求」、対面販売での「ライブ感」のある売り方、そしてお客様に向けての「情報発信」。この3つのキーワードで、コストはできるだけ抑え、しかしながらハイセンスなビジュアルデザインで、名付けて「高質食品専門館」を目指しています。
2009年8月にオープン、その後改装した御影店、今年4月にオープンした神戸旭通店、9月2日オープン予定の阪神石屋川店などで、コンセプトに沿った店づくりを身近に体感いただけると思います。

専門性、ライブ感、情報発信3つのキーワードとは

―実際にはどんなことに取り組んでいるのですか。
千野 農産、畜産、水産という生鮮では産直を強力に進めています。例えば、2千件近くの生産農家さんに入っていただいて作ったスーパーの中のいわば「道の駅」であるおひさん市、長崎県からの産地直送鮮魚、また仕入れた魚を店内で加工し氷温干物として販売するなど、それぞれの売り場にあるコンテンツ一つひとつをブラッシュアップしています。また通常スーパーでは「もの分類」ですが、私どもでは「こと分類」です。どういうことかと言えば、例えば「カレー」。100円から千円以上の高級レトルトカレーまで、カレールーから、本格的なカレーが作れる香辛料や小麦粉、レシピ本まで、カレーを楽しむための色々なニーズが満たされるアイテムを一つの分類の中に集めています。
―ライブ感とは。
千野 いわゆる対面販売です。例えば農産物では、スタッフがマイクを通して売り込みをかけながら、お客様が必要なぶんだけ目の前で量り売りします。お惣菜は、店内加工の様子をお客様に見ていただきながら販売します。ベーカリーは冷凍で入ってくる素材を店内で解凍、焼き上げ、試食をしていただきながら販売します。現在、全店で約230人の食育コミュニケーターが、旬の食材の利用法を紹介しながら販売しています。これらはほんの一例ですが、担当はほとんどが研修を受けたパート、アルバイトスタッフ。彼女たちの力は大きいですね。
―情報発信とは。
千野 店内ディスプレイでの紹介です。メーカーさんや生産者さんの協力を得て、弊社社員たちがコンテンツ制作をしています。時には栽培現場で、また漁をする船の中で、社員が自らカメラを回します。素人ですから手ブレもある出来栄え(笑)。でもこれでいいと思っています。コストはかけず、食材がどんなところから来ているのかという情報発信をしていくことが重要だからです。また、現在7店舗で開設している「キッチンスタジオ」では、料理教室等の講座を設けています。更に年間通して100回程度、親子で参加できる食育イベントも開催しています。
―パート、アルバイトを含め従業員研修が必要ですね。
千野 はい、そこで昨年、「高質食品専門館」を支える人材を育成するための研修センターを開設し、更に今年は増床し整備しました。
―北海道、長崎、イタリアなどの物産展も開催していますが、長崎県とのパートナーシップにはどういう経緯があったのですか。
千野 長崎は物産の宝庫です。2年前に中村法道知事にお越しいただき、パートナーシップを結びました。年に2回の物産展開催で水産品を中心に長崎県の産品を関西に紹介する仲立ちをしようというものです。これからも現地の生産者と交流を持ち、通常ベースでの取り引きまで進化させようとしています。
―基本方針に沿って、バイヤーたちが動くのですか。
千野 私共では、価格にばかりとらわれないお客様層を対象にし、同時に加工度を上げた食品に強い店づくり「街中のデリカテッセン」を目指しています。惣菜類を中心にして、生鮮品を置く。基本方針に沿ってバイヤーたちがどういった品揃えで店づくりをするかを考え、動いていきます。

製造小売りの形態で食品事業を展開

―阪急フーズ・デリカ・ベーカリーは大きな強みになりますね。
千野 これからの小売業はSPA化、つまり製造小売化しなくてはいけません。原産地工場とタイアップして私共がリスクを負って商品化し、中間卸を担い、最終的に店頭販売に至る。その意味で、3社は非常に重要な役割を果たしてくれる存在です。
―阪急の企業力ですね。今後の方針は。
千野 一つは、阪急オアシスを基盤とし、製造小売りの形態を取りながら食品事業をやっていくことですが、それだけでは難しい。そこで、原料の産地へとさかのぼり、生産者とタイアップし、国内外での卸事業も展開していきたいと考えています。もう一つは、TPP加盟により、安いものは海外から入ってくるかも知れませんが、仕入れ元を厳選して、ある一定の基準の中でチョイスして販売しなくてはいけません。これは安全・安心と思っていただけるスーパーマーケットであるためにも重要なことだと思っています。
―さて、今年9月には神戸で第3回新日本スーパーマーケット協会全国大会が開催されますが、千野社長が実行委員長だそうですね。
千野 はい。せっかく神戸での開催ですから、歴史ある「神戸の食文化」を皆さんに理解していただこうと、地元企業に協力していただき、スイーツ、コーヒー、日本酒などの地場産業のブースを設けました。震災から復興した神戸も見て頂きたいですね。宝塚歌劇や六甲山からの夜景なども楽しんで頂きます。
―神戸を全国に紹介いただけるのですね。神戸っ子としては嬉しいことです。成功をお祈りしています。
インタビュー 本誌・森岡一孝


商品を見やすく陳列しているのも阪急オアシスの特徴


畜産の研修を受けるパート、アルバイトスタッフ


長崎県とパートナーシップを結び、年に2回の物産展で水産物を紹介する


今年、9月には第3回新日本スーパーマーケット協会全国大会が神戸で開催される。写真は前回札幌大会


千野 和利 (せんの かずとし)

株式会社 阪食 代表取締役社長
1948年生まれ。1972年、関西学院大学卒業後、株式会社阪急百貨店入社。神戸阪急次長、経営政策室を経て1999年取締役。2001年、㈱阪急オアシス 代表取締役社長就任。現在、㈱阪食 代表取締役社長並びにエイチ・ツー・オー リテイリング㈱取締役。

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