7月号
あらゆる場面で発揮できる〝360°看護力〟を育てる ー武庫川女子大学
武庫川女子大学 看護学部・
看護学研究科設置準備室室長
教授 阿曽 洋子さん
1万人を超える学生が学ぶ、全国トップレベルの女子総合大学「武庫川女子大学」に、2015年4月、看護学部と大学院看護学研究科が誕生する(設置認可申請中)。
生活者としての患者さんを看護する
「看護」というと、病院内で患者さんを看護するだけと捉えがちですが、その場面はその人の生活のほんの一部分に過ぎません。患者さんを「患った人」ではなく「生活者」として捉え、退院後の療養を日常生活のライフサイクルの中に上手に組み込める看護を心がけることの大切さを、学生たちに伝えていきたいと思っています。
患者さんのQOL(生活の質)を考えると、やはり自宅で生活をするのが一番です。自宅で療養できるよう家族の方に看護やサポートの方法を伝えないと、自宅に戻ったとたんに療養生活ができなくなり、再入院にもなりかねません。
これは私が専門としている基礎看護学に通じるもので、本学で学生たちに教えることを、今から楽しみにしています。
総合大学にある看護学部の強み
本学は学部・学科間の風通しが非常に良く、先生方の協力体制が整っています。共通教育科目をはじめ、解剖学、生理学、薬学、栄養学など専門基礎教育の分野でも学部・学科の枠を越え先生方に応援いただくことになっています。心理・社会福祉学科や健康・スポーツ科学部、音楽学部もあり、社会福祉やリハビリテーション、音楽療法などを専門とする先生方から学ぶこともたくさんあります。また「初期演習」科目では学部の枠を越えてグループワークすることも可能です。管理栄養士や薬剤師を目指す他の学部・学科の学生と交流することで、一つの職種だけでは成り立たない医療というものを学内で体験できるというのは総合大学の大きな強みです。教員も学部・学科間で共同研究の機会を持てるというメリットがあり、その研究結果を授業にも反映させることができるので充実した教育ができると思っています。
さらに、看護もグローバル化が必要な時代です。本学はアメリカのワシントン州に分校を置き、毎年多くの学生が留学しています。看護学部も参加する予定です。午前中は実践的な英語を学び、午後から協定を結んでいるワシントン州立大学で看護分野の講義を受けるという内容のプログラムを計画しています。その他、近隣の急性期病院やリハビリテーション病院などでも見学実習を予定しています。
実践と研究を看護のレベルアップに役立てる
看護は実践が重要です。実践したことが患者さんに役立ったのかを研究することが看護学の基礎だと考えています。兵庫医科大学病院をはじめ、いくつかの病院、施設、訪問看護ステーションに学部生の実習を依頼するとともに共同研究も一緒に行いたいと思っています。
看護学部と同時に大学院看護学研究科も開設する予定です。修士コースでは、現職看護職のキャリアアップを目指し、専ら夜間開講で、修士論文では現場での看護の問題点をテーマにして研究を行い、教員が指導します。同僚の看護師さんたちにも協力していただいた上での研究となりますから看護現場のレベルアップにもつながると思います。また保健師コースでは疾病予防から保健行政計画まで実践できる質の高い保健師の育成を目指します。
学舎環境も学生を育てる大きな要因の一つ
本学の看護学部新校舎では実習室を充実させています。基礎、母性と小児、成人と老年、精神と在宅の4つの実習室を設け、着任予定の先生方に設計段階から加わっていただきました。知識を行動に変え、実践に役立てるための実習室ができると期待しています。また学年を越えてコミュニケーションを十分にとれるスペースもたくさん備えています。看護にはまず対人関係の構築が必要ですからね。また患者さんの身体の状態をシミュレーションできる高度な人体模型も用意します。
社会貢献としてのリカレント教育も実施する予定です。医療の現場は日進月歩で変化し、医療機器もどんどん変わりますから、一度現場を離れた看護師さんの職場復帰には不安があります。兵庫県、大阪府の看護協会と連携しながら支援していこうと話し合いを始めています。
私が求める学生とは、まず、人が好きな人、そして、しっかりとした人生観を持ち自分を高めたいという意欲を持った人です。ぜひ本学看護学部や大学院看護学研究科で学び、生活者のあらゆる場面で看護力を発揮できる人に育ってほしいと思っています。これが「360度看護力」であると思います。
阿曽 洋子(あそ ようこ)
看護学部長に就任予定。保健師として7年のキャリアを積んだ後、母校でもある大阪大学医療技術短期大学部(当時)にて、基礎看護学・公衆衛生看護学の教育に取り組む。神戸市立看護短期大学助教授、大阪大学医療技術短期大学部助教授、大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻教授を経て、現職。臨床での疑問をテーマに研究し、その成果を教育にも投入。