12月号
私のKOBEデザイン1 キャンパスは街全体 目標は神戸をもっとステキな街に
〝学友〟たちが〝先生〟と一緒にステキな街づくりに取り組んでいる。最近、そんなウワサを耳にする「神戸モトマチ大学」。
どんな大学?代表の村上さんに紹介していただきました。
自分の街のためにできることは何か?
2010年、日本青年会議所(JC)発行の書籍「人の絆がまちをデザイン」制作にあたって、編集責任者として関わりました。街づくりの成功事例として、長野県小布施、島根県隠岐など、日本全国いくつもの街を取材して歩きました。翌年も地域の街づくりを支援する役に就きましたが、その矢先に東日本大震災が発生。そこで気付いたのが、全国の街づくりについていろいろな勉強をさせていただいたけれど、自分の街では何もできていないということです。
人と人がつながることで何かが始まる
そこで思い浮かんだのが、縁あって何度も訪問していたスウェーデン・ストックホルムの街です。人口150万人、神戸と同じような規模でありながら、何故ここまで世界に対するインパクトや影響度が違うのだろうか?と考えてみると…あちらは一国の首都であり、1300年もの歴史をもちヨーロッパに位置する等々、今さら神戸にはどうしようもない条件以外に、あの街に行くと「30代から40代の若い世代で頑張っている人たちが、みんなつながっている」という感覚があるんです。つながっていれば、いつでもチームワークを発揮できます。神戸は?と考えてみると、全くこんなふうにはつながっていないんですね。特殊なテクニックを使って街を良くすることはできません。でも、人と人がつながることで何かが始まるのではないかと思いました。
もう一つ参考にしたのが、同じく人口150万人、海と川のある街、アメリカ・オレゴン州ポートランドです。多くのクリエイティブな人たちを惹きつけています。車優先ではない歩行者優先の街をつくる、工場・学校・住宅などを都心にコンパクトに収めていろいろな用途を楽しめる街にする、郊外の緑を保存するなど、ごく普通のことを30年間かけて着実に実行してきた街です。現地へ行き、行政や大学関係者、ビジネスマンなどいろいろな方にお話をお聞きしました。驚いたことに、「どんな街にしたいか?」という質問に対する答えが一貫しているのです。まず環境優先、それがビジネスにつながる、〝consume〟より〝create〟、車より自転車、全米チェーンのお店より地元のお店…目指すところが同じなんですね。この街の魅力の原点を見て、これを神戸の街に生かしたいと考えました。
〝学ぶ〟ことを介して人と人のつながりが生まれる
友達というのは学校でできるものです。そこで思いついたのが〝学校のふり〟をすることです。入学資格も試験もなし。毎回500円で誰でも関心のある講義に参加できます。正直なところ、1時間程度学んで専門的知識が身に付くというものではありません。しかし、同じことに関心を持つ人たちの間に、学ぶことを介してコミュニケーションが生まれ、つながりができます。講師として来ていただく人がもつネットワークとも、うまくつながるのではないかと思うのです。ネーミングは「街づくり研究会」「環境都市研究会」などを考えたのですが、なんだかつまらないし、お金儲けのにおいがする(笑)と、「神戸モトマチ大学」に決定し、2011年に開校しました。
3年半続けてきて思うのですが、ネットワークを使ってお金儲けをしようとか、婚活の一環で参加しようとか、物を売ろうとかいう人たちはほとんど集まってきていません。街のことを考えながら自分のビジネスに一生懸命取り組んでいる人たちが集まり、とてもいい形でネットワークが構築され始めています。
講師役はネットワークづくりのきっかけ
講師をお願いするのは、既にご自身で大きなネットワークを持っておられる著名な方というよりは、とてもおもしろい活動をされているのに私たちとはあまりネットワークがつながっていない人たちです。今までお願いした講師の皆さんには、非常にユニークで興味深いお話をいただきました。観光タクシー運転手の讃岐吉雄さん、神戸R不動産の小泉寛明さん等々、大勢います。最近で特に印象深いのは、臨床美術士の木野内美里さんですね。臨床美術とは認知症の医療現場から始まったもので、私も体験したのですが、絵を描くことで心が解放される思いでした。「日本発の臨床美術を世界に広め、神戸をその拠点にしたい」という木野内さんにも、神戸モトマチ大学のネットワークをいい意味で利用して、一つの踏み台にしてもらえるといいですね。
便利使いしてもらえる〝街のプラットホーム〟に!
最近、神戸モトマチ大学で知り合いになって「新しいプロジェクトを始めることになった」「意気投合して、仕事を一緒に始めることになった」などと聞くことが、結構増えてきました。そういった話をもっと加速度的に聞きたいというのが希望です。講義には毎回50人ほど参加いただいていますが、まだそこまでのつながりを作れていないのがほとんどのようです。もっと何かいろいろなツールを作れないかと模索中です。「まちライブラリー」(※)もその一つで、名刺情報ではなく、本に付けるメッセージを通じてつながりができたらいいなあと思っています。もう一つ計画しているのが、3~4人が15分間のプレゼンテーションをする「Sparks!」というイベントを半年に1回のペースで実施しているのですが、このプレゼンテーターを10人程度に増やし、人と人のつながりを加速しようというものです。
逆に、考えていないことは、神戸モトマチ大学としてプロジェクトを立ち上げることです。皆さんにはつながりを活用して、新しいプロジェクトをどんどんスタートしていって欲しいと思っています。そのためにどんどん便利使いをしてもらえる〝街のプラットホーム〟に「神戸モトマチ大学」がなるのが理想だと思っています。
※まちライブラリー=自宅・店舗・オフィス・病院・大学など、街のあちこちに設置する共有本棚に、メッセージを付けた本を持ち寄る。次に読んだ人が感想を連ねていくことで、交流や人の輪が生まれる街のコミュニティ。
神戸モトマチ大学
http://www.kobemd.com
神戸モトマチ大学
代表 村上 豪英さん
1972年神戸生まれ。京都大学大学院理学研究科修了。シンクタンクに勤務。現在は株式会社村上工務店の代表取締役社長。2012年、神戸青年会議所理事長。2011年より神戸モトマチ大学代表。趣味はフライフィッシングとサッカー、
トレッキングなど。