2014年
12月号
「久しぶりやなぁ。10年ぶりかなぁ」と宇賀住職。須磨ヨットハーバーにて

〝昭和の寺子屋〟で学んだこと

カテゴリ:文化人, 経済人

浄徳寺住職 宇賀 芳樹さん(写真右) × 須磨学園高等学校・中学校 学園長 西 和彦さん(写真左)

秋晴れに恵まれた10月のある日、須磨ヨットハーバー。
宇賀住職の愛艇「No Other」で久しぶりに再会したお二人。
好奇心旺盛な少年と、彼に大きな影響を与えた
住職との縁の始まりは50年前に遡る。

強烈な思い出 サバイバルキャンプ

―ボーイスカウト神戸第23団、入団のきっかけは。
宇賀 彼のお母さんから「頼みます」と言われて…入団させたお母さんは偉かったな(笑)。
西 小学4年生のときですから、カブスカウトに入りました。毎週活動があって、月1回はキャンプ。それがだんだん増えてきて、毎週キャンプ。そうなると要らないものは持って行かなくなり、荷物がどんどん少なくなる。あるとき、持ち物は米1合と大豆と塩、あとは釣り針とナイフだけ。みんなで、「さて、どないしよ?」「魚釣るしかないか」と、須磨海岸で釣りを初体験。ご飯をこねて餌にして、5人で天コチ5匹釣って、ありがたかったなあ。ご飯と大豆の煮たのと、味噌汁と焼いた天コチを食べました。その後はキャンプファイア。宇賀さんが話すとみんな神妙に聞くんです。いろいろありましたよ、ちょっとここでは言えないようなことも…サバイバルキャンプですから。強烈な思い出が残っています。そんな中で、団体行動のルールや野外活動等々、きっと今の子どもたちに欠けているだろうことを教えてもらいましたね。

―どんな少年だった?
宇賀 子どもの頃から、この人には不可能はない。秀才というわけじゃないけれど、好奇心旺盛で、そこにあるモノは何でもすぐに解体してみる。それで「なーんや、こんなんか」と言う。無線機を改造して、とんでもない通信まで受信できるようにしてしまって、あれはびっくりした。もう時効かな?電車が磁気の切符になった当初、どこまででも乗れるように作り変えて…15歳の子どもが電鉄会社の大人たちのリスク管理より上をいってしもたんやから仕方ないな。
西 当時、そんなことに関する法律もなかったですから、今なら問題になるでしょうね(笑)。

「何でもやってみよう」発想の原点は〝技能章〟

―ボーイスカウトの経験が今に生きている?
西 ボーイスカウトの全国大会へ行くと、階級が自分たちより上の団が威張っていて、子どもながらに悔しい。何とか階級を上げたいと宇賀さんに相談したら、「よし!いけ」と。そのためには資格要件がいろいろあるんですね。その中に技能章というのがあって、通信章、野営章、自転車章など50以上の項目あるんですが、「できないのに技能章を付けるのは恥ずかしい。何でもいいから頑張れ!」と激励され、挑戦しました。結果、20個の技能章を取り、タスキを貰ってバッジを付けました。中学生でしたから学校では英語、数学、理科、社会と全員が同じ科目をやらされる一方、ボーイスカウトでは「一人ひとりが自分で選んでやる」です。僕の中学時代の勉強の半分は学校、半分はボーイスカウトの技能章と、自信をもって言えます。バッジ20個を貰って気付いたのは、貰うまでの過程に意味がある、ということ。バッジをたくさん付けて威張っているのが大切なことではないと学びました。でも、やってみなければわからない。
 技能章はその後の僕の人生での「何でもやってみよう」という発想の原点になっています。これは教育現場でのプロジェクト学習の基本ですね。自由に選ばせて子どもの興味を伸ばし、それを応援するシステムです。
宇賀 「何でもやってみよう」という人だとは知っていたけど、一級船舶免許も取っているとは知らなかったなあ(笑)。
西 ちゃんと取りましたよ(笑)。もう一つ…、ボーイスカウトは、学校にはない上下関係も厳しく、上の人には必ず敬礼ですから、「この人は敬礼するべき人なのか?」という瞬間人間観察力が付きましたね。

大切なのは経験すること それが次につながる

―中学生のとき、アジア各国へ行ったのは何故?
西 技能章20個を取ったこともあって、マレーシアで開催される世界スカウトジャンボリーに「日本代表派遣団で行って来い」と言われ、台湾、香港、タイ、フィリピン、シンガポール、マレーシア6カ国を回ってきました。
宇賀 45年前、15歳の少年の持論が、「アジア各国が一つになったらすごいことになる」。いま、ヨーロッパがそうなっているからね、彼の先見の明はすごかった!ある意味では怖いくらいの存在やった。
西 当時、何故か英語が喋れたんです。
宇賀 お祖母ちゃんが偉かった。日豪協会の会長もやってはったからね。
西 神戸にあったころの神戸女学院出身でしたから、子どもの頃から家の中にも英語があって、胡瓜を「キューカンバー」なんて言っていたので、普段は「なんか変や」などと友達にからかわれたりしていました。ところが、アジア6カ国へ行くとどこでも英語で話せる。ショックでしたね。出発前には東京へ、おのぼりさん。ボーイスカウト日本連盟本部へ行って、「こんなところがあるんや!」とびっくりしたり、ジープに乗せてもらって文部大臣(当時)表敬訪問に連れて行かれて「僕もジープが欲しい!」と思ったり、いろんな経験をしました。
 現在、須磨学園では中2の研修旅行8日間でアジア5カ国を回ります。保護者の中には「何も見られない」という声もありますが、何かを見るだけが旅行じゃなく、「行った」という経験が大事です。この経験で、また次に行けるようになるものだと考えています。
宇賀 彼のすごいところは、私立校は今、どこも押しなべて同じになっているけど、須磨学園を特徴のある学校にしている。勉強もスポーツも何でもやる。彼の頭の中と一緒やね。

いろんなことを教えてもらった住職は〝人生の師〟

―やんちゃな子どもたちの隊長。苦労もあったのでは?
宇賀 ボーイスカウトで隊長…と言っても自分では隊長とは思ってないけどね、長いことやってきたけど苦労なんて思ったことないな、一緒にキャンプ行ったりして楽しかったよ。小学生から大学生になるまでずっと見ているわけやから、みんな子どもみたいなもんや。今でも一人ひとりの顔が浮かんでくる。偉くなった子や活躍している子やたくさんいる。世界で注目を浴びる救難飛行艇「SU-2」の開発に携った石丸寛二君、大阪大学大学院の教授になった菊池章君…。皆、面白い子供やったなぁ。
西 僕たちにとってボーイスカウトは浄徳寺の浄東会館。ちょっと他の団とは違う存在だったと思いますよ。言ってみれば〝昭和の寺子屋〟です。
宇賀 わりと近代的な、ね。
西 実は、不惑の年40歳で、チベットまでダライ・ラマ法王様に会いに行きました。
宇賀 私と同じような所へ行って、同じようなこと考えてる。似てるんやと思う。考え方が密教的なんやね。だから、何でも取り入れる。
西 日本人にとってお坊さんは葬式の時にお目にかかるだけの存在です。でも、僕のそばには子どものころからお坊さんである宇賀さんが居てくださって、宗教というものが身近だったことはありがたいことだったと思います。今になって思えば、「日常性と仏様」というようなことを教えてもらったと思いますね。僕にとっては人生の師です。
宇賀 そんなに言ってもらうほどのもんじゃない。ほんまにすごく楽しかった…こちらこそ感謝。

「久しぶりやなぁ。10年ぶりかなぁ」と宇賀住職。須磨ヨットハーバーにて


ボーイスカウトの大会にて。この頃、西さんは電話級アマチュア無線技士の試験に最年少で合格する


1989年、日本ボーイスカウト兵庫連盟とアメリカ連盟シアトル第53隊との友好親善のため渡米した宇賀住職


ボーイスカウトでの体験が、個性を伸ばす須磨学園の教育方針に生かされている


アジア・アメリカ・ヨーロッパ。価値感の違いを学ぶため、世界一周の修学旅行は3度出かける


コンピューター関連の「株式会社アスキー」を立ち上げた早稲田大学3回生のとき。
ビル・ゲイツ氏(中央)、ポール・アレン氏(右)とともに


宇賀住職は、神戸ブータン協会副会長として、山林火災に遭ったタクツァン僧院を訪れ、梵鐘を寄贈した


宇賀住職が所有する「No Other」にて。西さんは、一級船舶免許の資格をもつ


「西君は、ええ坊さんになるで…」と宇賀住職。隊長と隊員の話は尽きない

宇賀 芳樹(うが よしき)

須磨区にある月見山「浄徳寺」住職。2004年、高野山から僧侶の最高位である大僧正を贈られる。2003年には、密教の故郷、ブータンの山岳地帯にあるタクツァン寺院が山火事で焼失、神戸ブータン協会副会長として梵鐘を寄贈するなど復興再建のために尽力。長年、ボーイスカウトの活動を通して青少年の育成に務める。2007年には、モスクをイメージさせる納骨堂を完成させ、現在も「平成の寺」をめざす。

西 和彦(にし かずひこ)

1956年、神戸市須磨区生まれ。育英幼稚園、板宿小学校、飛松中学校、甲陽学院高等学校を経て、1975年に早稲田大学理工学部機械工学科に入学。大学3年時に株式会社アスキーを創業。アメリカに渡りマイクロソフトでパソコンの設計により米国本社取締役副社長。アスキー社長を経て工学院大学から博士号(情報学)を得て、2001年より須磨学園学園長に。

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