12月号
私のKOBEデザイン5 パンをつくり 笑顔をつくり 思い出をつくり 未来を創る
「神戸のパンの魅力を日本全国や世界に向けて発信しよう!」と、
パンの街・神戸を中心に若手ブーランジュリーシェフたちが集まった。
勢力的に活動してきた1年間を振り返り、
今後への夢を事務局の満保さんにお話しいただいた。
8人のパン職人たちで始まった
―兵庫精米さんの中に事務局がありますが、お米屋さんとパン職人さん8人とのつながりは。
満保 弊社・兵庫精米は米で起業した会社ですが、昭和30年ごろから日清製粉さんの特約店として、おうどん屋さんや鉄板焼き屋さんなどに小麦粉も納入していました。神戸はパンの街ですから、販路拡大に当たってはパン屋さんにも力を入れていましたので、小麦粉の納入という接点がありました。
―KOBEパンプロジェクト実行委員会が具体化した経緯は。
満保 神戸はパンの街と言われているのに、百貨店で有名なパン屋さんが集まって販売するという催しはあっても、パン屋さんが一般消費者に向けて何かを仕掛けるというパンのイベントが全くありませんでした。3年ほど前から、「神戸でパン職人が想いを伝えるパンのイベントをしたい」との思いが強くなっていました。ところが昨年初めごろ、中央区役所が「KOBEパンのまち散歩」を立ち上げる際に日清製粉さんにイベントを企画できる人を探していると問い合わせたところ、私のこと紹介していただきました。そこからとんとん拍子。「中央区さんからパン屋さんで何かイベントをやってほしいと依頼されている。一緒にやらないか」と同年代の若手メンバーに話すと、5人のメンバーが快諾。さらに、そのメンバーたちが「ぜひ加わってもらいたい」という3人にもお願いして、8人でスタートすることになりました。実はメンバーの中には、現在でもお客さんでないパン屋も入っています。
―お願いしたうちのお一人が、特別顧問の西川功晃シェフですね。
満保 30代の若手だけでやっていると、コンセプトがブレてくる可能性もあります。そこで、「ぜひに」とお願いして加わっていただいたのが北野サ・マーシュのオーナーシェフ西川さんです。日本のパン業界を代表する西川シェフに見守っていただいていると思うだけで、全員の気持ちが引き締まります。普段はとても優しい西川シェフですが、時には厳しい目でご指導いただく事もあります。今のKOBEパンプロジェクト実行委員会があるのは西川シェフのお陰だと思っています。
―具体的には。
満保 今年の11月1日に開催した「Play Table Party」は8種類のテイクアウト惣菜にパンを合わせるという企画だったのですが、事前の準備段階で、一つの惣菜を皆で食べて、西川シェフが「この惣菜に合うパン生地は何か?」とメンバーにランダムに質問します。瞬間的に答えなくてはいけませんし、ありきたりな答えでもダメなんですね。味、香り、食感、完成した時の形など、、色々な要素でこの惣菜に合うパン生地はコレですと答えなくてはいけません。普段から頭をパンのことで回転させていないとできません。私などは「すごいなー」と感心するばかり。メンバーにとってとても良い訓練になっているのと同時に、お互いが良い刺激を受けていると思います。
一つひとつのイベントに〝思い〟がある
―KOBEプロジェクト実行委員会はどういうコンセプトでスタートしたのですか。
満保 決まりごとは、「自分たちのお店のパンを売り込むわけではない。神戸に根付いたパンの伝統を継承し、更に発展させていく」ということです。神戸のパン文化は「パン生地」を食べさせる文化。食事と共に食べるパン文化です。この文化は他の地域ではあまり見られません。開港地のパン文化が今なお残る唯一の街なのではないでしょうか。私たちはこの文化を大切に育てていきたいと考えています。
―パンの街として長い歴史がある神戸だからできるのでしょうね。
満保 神戸はパン屋さん同士のつながりが強いんです。商圏が重なっていても、自分だけじゃなく皆で頑張って地域全体を活性化させ、パン文化を広げていこうという考え方のパン屋さんが多いんです。また、パティシエの方などとも交流があり、尊敬し合いお互いに学び合おうとしているところも神戸ならではですね。
―スタートから約1年。意欲的にイベントを開催していますが、その原動力は。
満保 メンバー全員、しっかり本業を行った上でこのプロジェクトに参加しています。
この1年間だけで行ったイベントは30個近くあり、打ち合わせも含めると90回以上集まっています。大変な事も多いですが、これだけの活動を行ってこられたのは、まずメンバー全員、単純に「パンが好き」ということ。そして、皆が「こんなことをやりたい、でも一人ではできない」と思っていたことが実現できる環境にあるということです。今までのイベントの中には、皆から「ぜひやりたい」と提案されたことも結構あるんです。イベントを開催した時に、参加して頂いた方が笑顔になっていたり、直接感想を伺えたり、反応を感じれる事もモチベーションを維持する大きな要因となっています。
―開催決定の基準はどこにあるのですか。
満保 一つひとつのイベントにきちんとしたテーマを設定できるかということころです。例えば、8月12日に神戸市立青少年科学館で開催した「ベーカリーサイエンスプロジェクト」では、イースト菌を顕微鏡で見たり、温度と湿度を変えてパンの発酵を観察するなど、夏休みの小学生を対象に、パンを科学的に勉強してもらおうというものでした。3月と8月に開催した「親子パン教室」は、自閉症の子どもたちが社会に溶け込み自立するための支援をしているNPO法人で開催しました。パンづくりを通して支援しようというものです。他にも、「パンの日」「あんぱんの日」など、歴史的に意味がある記念の日を知ってもらおうというイベントや、神戸産小麦の収穫、神戸にある豊かな農水物産を知ってもらおうなど、一つ一つにテーマがあります。地域に根付いたパン屋さんができる事、パンだからできる事が基準になります。
一人でも多くのパン職人にスポットライトを!
―基本になっている考えは。
満保 “パンをつくり 笑顔をつくり 思い出をつくり 未来を創る”。パン職人がパンを作るのは当たり前のことですが、そこに何かをプラスすることで思いを伝えたい。美味しい笑顔と美味しい思い出を作れたら、パン職人を目指す子どもたちも増えてパン業界の未来も明るくなります。どんなふうにすれば伝えられるかと、皆で真剣に意見を出し合います。もちろんお互いに主張がぶつかり合うこともありますが、それを後まで引きずらないのがこのメンバーの良いところですね。
―KOBEパンプロジェクトの今後について。
満保 今は目新しさで、ある程度注目をいただいています。しかし私たちの活動は、自分たち8人のお店が注目され繁栄すればいいというものではありません。他のパン職人さんたちの支えになったり、私たちの活動に共感してくれる人が増えたりすることで、将来は他の地域でも同じ思いを持ったプロジェクトが生まれ、一人でも多くのパン職人さんたちに広くスポットライトが当たるようになれば、このプロジェクトとは成功だと思っています。
パンプロジェクト実行委員会事務局(兵庫精米株式会社内)
TEL.078・671・1181
満保 善英さん
KOBEパンプロジェクト実行委員会 事務局
1976年生まれ。2006年、兵庫精米株式会社に入社し、お米マイスターを取得。2013年9月に発足した「KOBEパンプロジェクト実行委員会」の事務局を担当。「明るく楽しく元気良く」をモットーに活動している