12月号
フランク・ロイド・ライト その思想と建築を今に Vol.6
インテリアの心地よさ
我々はみな、よい服を着たときの気持ちがどんなものか、その結果引き起こされる意識の変化がどういうものかよく知っている。我々の行いは確かに変わる。これと同じ感覚を、あなたが住む家からも受け取るべきだ。これは倫理的にも有益な効果がある。それと気付かないような心の奥底での影響だが、その確かな基盤の上に気高い生活が実る。自分自身にふさわしい家に住めば、人はよりよき社会の気高い務めに従い、あなた自身の信念に従って生きていることを知る。
ここでいう「よい服」とは何だろう? 空間の快適性を追求し、華美な装飾を嫌ったライトの姿勢から鑑みると、着心地のよさと洒脱なデザインが融合した服と解釈するのが適当ではないだろうか。
服の着心地を家に置き換えると、暮らし心地ということになるだろう。我々は自分の家を眺めて暮らしているのではなく、自分の家の中に居て暮らしている。つまり、心地よさを大きく左右するのは、建物のフォルムではなく、インテリアということになるのではないだろうか。
19世紀末から20世紀初頭にかけ、シカゴはアメリカでのアーツ・アンド・クラフツ運動の中心だった。ライトはちょうどその頃シカゴを拠点としていて、シカゴ・アーツ・アンド・クラフツ協会の創立メンバーの一人であった。「生活のための美術」を模索したアーツ・アンド・クラフツ運動には機能と美の融合を目指すという側面があり、彼が「愛する師」とあがめたルイス・サリヴァンは「形は機能に従う」という言葉を残している。ライトがこの運動に影響を受けていることは間違いない。
ライトの思想を継承するオーガニックハウスのインテリアには、さりげない装飾が施されて機能と美が見事に融合している。例えば書斎。作り付けの机はラウンド状で機能的なだけでなく、やさしいカーブが美しい。何気なくあしらわれたステンドグラスから柔らかい光が注ぎ、読書に耽るにはこの上ない空間だ。
必要な機能から造形を生み、それが自ずと美へと昇華し、あくまでも生活に寄り添う。居心地や使い心地がよいだけでなく、さり気なく自然な美をまとったインテリアが、まさによい服を着たときのような幸せな感覚へと導いてくれるに違いない。