12月号
神戸のカクシボタン 第十二回
写真/文 岡 力
「新開地で心温まる駅そば」
いよいよ師走に突入、この時期になると無宗教だが様々なげんかつぎを行なう。まずは、京都にある文筆業のパワースポット「南禅寺」に出向き年中手首に巻いている数珠を納めて新品を購入する。次いでかけ出しの頃から通っている大阪なんばの純喫茶「ロア」でカツカレーをほおばる。しめは、駅構内にある「立ち食いそば」へ立ち寄り独りでそばをすする。そんなロンリー年越しにうってつけのお店がある。
阪急、阪神、山陽、神戸と4社が乗り入れている鉄道の聖地「新開地駅」。駅構内にある「高速そば」は、創業40年の老舗店舗である。店名は、メニューを配膳するスピードではなく駅の名称に由来する。ただ、平均滞在時間3分の通勤客を相手にしているので早い従業員だと10秒で調理される方もいる。お店の名物は、30年前に甲南大学へ通う男子アルバイトが考案した「コロッケそば」。当時、コロッケとそばの融合に誰もが度肝を抜かれた。しかし、「スタミナがつきます! コロッケそば」とマジックで書かれた布切れを従業員エプロンに縫い付け宣伝した甲斐もあり瞬く間にブームとなった。温かいお出汁にじんわり溶け出したジャガイモが絡まり絶妙のハーモニーを醸し出す。店内を見渡すといたるところにサツマイモが栽培されている。女将が花粉症のお客様に配慮しインテリアとして生けている。背筋を伸ばし自立して温かいそばをすする。誰にも拘束(こうそく)されず一年を振り返り、来年に向け闘志をみなぎらせる。
高速そば
神戸市兵庫区水木通1-9
年中無休
(営業時間)
平 日 6時~22時30分
日・祭 6時~20時
岡力(おか りき)コラムニスト
ふるさとが神戸市垂水区。著書「アホと呼ばれた’80S」「噂の内股シェフ」「関西トラウマ図鑑」
連載「大阪ロマン紀行」(大阪日日新聞)
出演「おちゃのこSaiSai」(J:COMチャンネル)
「Oh!二度漬けラジオ」(YES-fm)