4月号
神戸鉄人伝 第88回 日本画家 熱田 守(あつた まもる)さん
剪画・文
とみさわかよの
日本画家
熱田 守(あつた まもる)さん
切り立った崖の上の大きな石。大地を駆けるダチョウ。森やそこに住む昆虫。シュールな風景かと思えば、写実的な生き物たち。熱田守さんは、ちょっと変わったテーマに取り組む日本画家です。「神戸生まれの神戸育ちですが、阪神・淡路大震災の後に豊かな自然に憧れて稲美町に越しました。住む所によって描くものも変わりましたね」とおっしゃる熱田さんにお話をうかがいました。
―日本画を志したのは?
子どもの頃から絵を描くのは好きでした。中学生の時に兵庫県立近代美術館(現原田の森ギャラリー)で東山魁夷の作品を見て、濃い青がとても美しく印象的だったのを覚えています。それが「日本画」と知ったのは後のことでした。高校の美術部では油絵を描いていましたが、京都教育大学特修美術科で日本画を描くことを決めます。水と膠と岩絵具が自分には合うと思ったからです。
―卒業後は美術教員になられました。
教員生活は多忙で、描く時間を確保できませんでした。このままではいけないと30歳で退職し、描くことに専念しました。それからは公募展への出品を重ね、日展、日春展、小磯良平大賞展などで入選、日春展では奨励賞をいただくなどして実績を積んできました。個人で描いていると独りよがりになりがちですが、幸いにも画塾の青塔社で多くの方から評をいただくことができるので、いろいろと新しい発見があり、刺激にもなっています。
―絵を売ることはなさらずに?
もちろん画廊で個展も開催しますが、あまり売ることには積極的でないかもしれません。どうしても自分が表現したいことと、求められることは違いますから…。売ることを意識すると画題もダチョウや石ではなく桜になってしまい、自分が描きたいものから離れてしまう。贅沢ですが、描きたいものを描くことを優先しています。
―日本画は、あくまで伝統的な画材を用いるべきなのでしょうか。
実は今、古来の画材で描くことは難しくなっています。膠と言えども工業生産なので、昔と違って薬剤が添加されています。紙も、昔ながらのものを求めたら4~5倍の値です。何百年も前の日本画を修復するなら古来製法の材料が必要でしょうが、今の画家は現代の画材で描くのが順当でしょう。「アートグルー」などの新しい展色剤も開発されていますし、工業生産の絵具もあります。ただ新しい画材は危険もある。それらで描いた絵が何十年後にどうなるか、まだわからないからです。これは今後の課題と言えるでしょう。
―今は何を中心に描いておられますか?
私は古めかしいもの、時が刻まれたものに惹かれて描くことが多いのですが、現在のテーマは魚です。ピラルクという古代魚を描いていますが、遺跡のレリーフのような顔をしていて、大きな体でゆったり泳ぐ。歴史を感じさせる顔立ちがとても魅力的ですね。しばらく須磨海浜水族園へ、定期を買って通うつもりです。
―目標とされることは?
とにかく描き続ける、それしかありません。何と言われようと再び勤め人には戻らない。世の中ひとりとして同じ人はいないのですから、いろいろな人生があっていいのではないでしょうか。もちろん順調な時ばかりではないし、絶えず葛藤はあります。でも画業一本の生き方を選んだ以上、覚悟を決めないと。いつも支えてくれる妻には、本当に感謝しています。
(2017年2月5日取材)
内に静かな情熱を秘めた熱田さん。伝統的技法を踏襲しながらも進取の精神で、これからも斬新な日本画を制作されることでしょう。
とみさわ かよの
神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。