5月号
大地の匂いがする画家 中西勝画伯生誕100年|記念館「無字庵」ではスケッチブックを特別公開
今年は神戸の画壇で長らく活躍した洋画家、中西勝画伯の生誕100年だ。
中西画伯は1924年大阪で生誕。幼い頃から絵が好きで、18歳の頃から名門、大阪中之島洋画研究所で田村孝之介らの薫陶を受ける。その後、帝国美術学校(現在の武蔵野美大)で充実した日々を送るもそれは短く、一転、学徒動員で戦線へ送り込まれ地獄を見た。大陸で終戦を迎え1946年に復員すると大阪市立美術館付属美術研究所へ。小磯良平らの指導を受けて腕を磨き、25歳の時に神戸へ。若手の洋画家と新神戸洋画界を立ち上げるなど神戸の芸術界に新風を吹かせ、西村功や鴨居玲らと切磋琢磨した。
そして1965年、足かけ6年にもわたる破天荒な世界一周旅行へ出発。アメリカ、メキシコ、ヨーロッパ、モロッコなど23か国を糟糠の妻、咲子さんが運転する自動車でめぐり、旅先で描いた千点以上の絵画とともに帰国すると1972年、メキシコで出会った黒いキリスト像にインスピレーションを得て描いた「大地の聖母子」で「絵画の直木賞」と評される安井賞を受賞、全国にその名を轟かせた。
その後も2015年に91歳で大往生を遂げるまで絵筆を握り続けるとともに、神戸の文化振興や芸術家の育成に尽力するなど多方面で活躍。兵庫県文化賞、神戸市文化賞、神戸新聞平和賞のほか、日本とモロッコの交流への貢献でモロッコ大使館からも表彰を受けている。本誌でも表紙や司馬遼太郎の連載の挿画を担当するなど、創刊の頃から協力を惜しまなかった。
そんな画伯が1960年代から生涯過ごした東灘区鴨子ヶ原のアトリエと邸宅は、記念館「無字庵」として2019年にオープン。健在の頃の雰囲気そのままで、「よく来たな!」と画伯がひょっこり顔を出しそうな空気感に満ちている。
その無字庵では生誕100年を寿ぎ、画伯が亡くなるまで「手もとに置いておきたい」と居間の棚で大切にしていたスケッチブックが特別に公開されている。水彩やパステルなどで描かれた風景画や人物画が多数収められており、多彩な画風やタッチなどに「世界の過去の美術の遺産を放蕩しつくすつもり」と語った画伯の貪欲な姿勢や、画業への情熱がうかがえる。
数々の作品のみならず、絵の具が染み付いたアトリエの床、80代の頃に制作した趣味の回文、プリミティブな収集品、ポルトガルタイルのトイレ、咲子夫人の染め付けコレクションなど、無字庵は見どころがいっぱい。ぜひ一度訪ねて、土臭さとヒューマニズムに満ちた「中西ワールド」に浸ってほしい。
中西勝記念館 無字庵
神戸市東灘区鴨子ヶ原3-4-12
開館日 金曜・土曜・日曜・祝祭日
開館時間 11時~17時(最終受付時間16時)
入館料 無料 TEL.078-811-8118
阪急御影、JR住吉、阪神御影各駅より神戸市バス⑲鴨子ヶ原2丁目行きで鴨子ヶ原3丁目バス停下車、すぐ。
駐車場はありません。