10月号
未来を駆ける神戸の新風 VOL.5|もはやアパレル企業と思うなかれ!
“門外不出”のノウハウを 解禁した「ワールド」の狙い
衣服は値段にこだわらず、良いものを追求し、上品に着こなす神戸っ子。1973年に全国に先駆けて「ファッション都市宣言」を発して以来、街づくりにも力を入れてきた神戸は、“おしゃれの街”として誰もが認知し、我々も自負するところである。
そんな神戸ブランドを培ってきた旗手とも言えるのが、1959年創業の国内アパレル大手「ワールド」(神戸市中央区)である。UNTITLED(アンタイトル)、INDIVI(インディヴィ)やタケオキクチなど62のブランドを擁し、神戸から日本のファッションを牽引してきた。ビジネスにおいては、独自のSPA(製造小売)を1990年代に確立し、同社の代名詞ともなっていた。しかし、近年、“門外不出”とされたその仕組みを開放し、空間設計から接客販売、在庫ロス削減に至るソリューション提供の活用を新規事業として始め、注目を集めている。2017年に立ち上がった「プラットフォーム事業」だ。
今回は、そのリーダーである大峯伊索氏に新規事業にかける想いを伺った。
プラットフォーム事業立ち上げは第4の創業!
最初にプラットフォーム事業の概要についてお聞かせください。
当社は、ファッション関連事業を主軸とする「ブランド事業」と、EC運営などを行う「デジタル事業」、そして今回お話させて頂く「プラットフォーム事業」を3本柱としています。プロジェクトが立ち上がったのは2017年ですが、全社を挙げて推進していこうということで、去年4月に中間ホールディングス会社「ワールドプラットフォームサービス」を設立しました。
この事業は、他アパレルにはない、我々のユニークポイントであり、ワールドがただのアパレル企業ではなく、ファッション総合サービス企業として生まれ変わろうという象徴なんです。
御社は創業時から業界に新しい風を起こしてきましたが、今回も新たな取り組みですね。
はい。ご存知の通り1959年の創業時代から全て自前でサプライチェーンを構築してきました。
当社は卸事業から始まりましたが、当時から直営工場を視野に入れ、自分たちで素材を調達して商品を作り、お客様に届けるという、川上から川下まで手掛けるビジネスを構築してきました。
その後、第2の創業と位置づけ、1992年に百貨店SPA(製造小売)ビジネスモデルを推進します。どういったものかと言うと、アパレルの生産から調達、マーチャンダイジング、売場設計、販売までの全プロセスを全て自前で行うものです。
そして、2000年には第3の創業として、ショッピングセンターやファミリーブランドの開発などを行い、“全て自分たちでやっていく”ということを、ずっとやってきました。
しかし、昨今はいわゆる垂直型の川上から川下までをやる会社だけでなく様々な会社が参入してきています。その中で、全てを自前でやる時代でもなくなってきたように感じました。
つまり、それぞれ企業の競争優位性のコアは自社内で磨きをかけ強めながら、それ以外は、他社の資本も利用したり協業する時代になってきたのです。
要は、必要な業務以外はアウトソーシングすることが増えてきた?
はい。そんな中で、我々が培ってきたSPAのノウハウをオープン化することによって、他社の役に立ち、業界の発展にも貢献でき、それが当社の収益にも繋がるということで、これを第4の創業と打ち立て、プラットフォーム事業を進めているんです。
ファッションと機能を融合させる新たな社会づくり
プラットフォーム事業として手掛けた事例を教えて下さい。
神戸では、ユーハイムさんが日本での創業100周年を迎えるにあたって、ユニフォームのリニューアルに我々の生産プラットフォームをご利用頂きました。
また、中学校の神戸モデル標準服も作りました。
その中で、御社だからこそできたことは何でしょうか?
これまで数々のブランドを立ち上げて培ってきた、企画やデザイン力で、お取り引き先様のDNAを活かした提案ができるという点です。もちろん、製造も行います。
実は、これまで制服業界の考え方としては、“丈夫で安い”というのが大前提で、ファッション性は二の次にされてきたんです。そのため、学校もそうですが、ファッションと縁遠い事業をされている企業さんだと、余計にファッションが遠のく……。
しかし、ユニフォームは、「ここで働きたい、あの制服を着てみたい」と思わせる重要なツール。そこで、ワールドのノウハウをもって、ファッションと機能を融合させることで、企業の個性をアピールすることにもつながり、採用の競争優位性も高めることができるんです。
その中で、我々は素材も熟知していますので、ファッションと機能を融合させることができるのが強みだと思います。
空間設計、店舗設計という点からはいかがでしょうか?
最近では、今年の3月にホンダさんが上海に開業したアンテナショップの店舗設計、空間演出、ビジュアル・マーチャンダイジングを行いました。
我々は、百貨店や路面店など、数々の店舗を作ってきました。それは、小さい坪数から3,000坪に近いものまで様々です。そこで培ってきた、空間のデザイン力や表現力というのも我々の強みです。ショールームやストア、ホテル、オフィスは、ファッション性も大事です。なので、我々のデザインを入れて頂く方が従業員の満足度も高いと思います。
先ほどの制服業界に繋がるところもありますが、オフィスや休憩室などは無機質でコストをかけない、という流れがあります。しかし、これからは差別化の時代。そこにファッションを通じた空間創造力と機能性を合わせた提案ができることで、より働きやすい会社を作れるのではないかと考えています。
プラットフォーム事業は、アパレルという主力事業に捉われない全く新しいものという印象だったのですが、実は、祖業をベースにした事業展開なんですね。
そうですね。祖業が成功事例とか実例になっているので、そこからアピールしていかなかったら、「全く新しく空間デザインを始めました」と言っても説得力がないと思うんです。実際、祖業で培ってきた川上から川下のパーツを、もしくはパーツをプラットホームとしているわけですので、やはり祖業がベースです。
全くの新規事業ではなく、祖業を活かして、祖業以外の業界にも行っているイメージです。
「神戸のワールド」という誇りをもって発展を目指す!
このプラットフォーム事業における、手ごたえはいかがですか?
当社グループにおいて、この事業は成長戦略の中で一つの大きな柱になっています。まず、中期で数百億の目標を立てて、BtoB外販をとにかく頑張っていこうと。それに伴って、ワールドプラットフォームサービス社も設立しましたし、ワールドグループの役員も入って手厚い布陣の中で、トップセールスをかけていこうという思いで臨んでいます。
その意味では手応えもあるし、色々なオファーも頂いていますので、この事業は本当に楽しみです。
御社にとって神戸とは、どのような存在でしょうか?
神戸のワールドという誇りと思いは強く持っています。神戸には震災がありました。あれを全員で乗り越えた先に、先般、新型コロナが流行しまして、市民病院でガウンが無いというときに、淡路島の工場でガウンを作って、車で次の日に届けたり、幾度とない危機を一緒に乗り越えてきた思いを社内全員が持っています。やっぱり神戸を大事にしたいな、と思っていますし、神戸の企業として世の中に貢献しつつ、これからも発展していきたいと考えています。。