1月号
人が暮らして働く、賑わいのある街、神戸を!
久元 喜造 神戸市長
人が暮らして働く、賑わいのある街づくりを目指し、神戸市では民間事業者と協働で次々と新しい取り組みを進めている。現在の状況や今後について久元市長にお聞きした。
三宮駅周辺整備の具体化に向け、幾つもの社会実験を開始
―三宮駅周辺整備事業はどんな計画ですか。
久元 神戸は震災後、復旧・復興、財政再建に取り組み、街づくりにはなかなか取りかかれない状況でした。その間に西宮北口駅や梅田駅、姫路駅周辺も大きく変わり、神戸に来ておられたお客さんの足がそちらに向くようになりました。そこで三宮・元町周辺は商業機能を優先し、ショッピングやグルメ、アートや街歩きを楽しんでいただけるようなエリアにしようとしています。
そのための玄関口である三宮駅の利便性を高める必要があります。中心にクロススクエアを設けて6つの駅の乗り換えをスムーズにし、点在しているバス停を集約してターミナルを作り利用しやすくする計画です。
―三宮周辺のあちらこちらで新しい試みを見かけますね。
久元 整備事業は長期的な計画です。まず「街の賑わいと回遊性」を実現するためにできることから始めようと、東遊園地の芝生化実験に着手しました。民間事業者の皆さんにもご協力いただきいろいろなイベントを開催し、週末のファーマーズマーケットは、2016年に30回実施しました。
三宮中央通りでは、車道に一部せり出す形で花壇やテーブルを置き、市民の憩いの場所にするパークレット実験を開始、またフラワーロード東、葺合南54号は車道を狭めて、歩行者優先の道路に生まれ変わりました。
港とウォーターフロントに賑わいを
―今年は開港150年を迎え、神戸港も盛り上がりますね。
久元 2月には様々な港湾都市を招聘する国際会議を開催します。5月には、神戸開港150年記念式典で神戸港の未来をにらんだビジョンの発表等を予定しています。7月には、日本最大の海の祭典「海フェスタ」を開催し、国内外から約10隻の帆船が集まる「帆船フェスティバル」や、開港150年記念花火大会等を実施します。国際コンテナ戦略港湾への取り組みや客船誘致も努力が実ってきました。3月にはクイーン・エリザベス号初の日本発着クルーズが神戸で実現します。港に客船が入港すると街が華やぎます。期待しているところです。
―ウォーターフロントの賑わいづくりについては。
久元 メリケンパークはもっとたくさんの人に来てもらえる立地です。そこで再整備に着手し、まず屋外展示していた実験船2隻を撤去し、海と空が広々とつながるようにしました。芝生化をして桜並木をつくり、神戸とは今年で姉妹都市提携60周年を迎えるシアトル発祥のスターバックスを誘致しました。9月には、海外から神戸に入り、やがて全国に広がった様々な食文化を楽しめる「秋の『食』のイベント」の開催が予定され、来街者も増えると思っています。
若者に選ばれ、誰もが活躍できる街の実現
―若い人たちに住んで、仕事をしてもらうためにはどんな取り組みをされていますか。
久元 住みやすい街はもちろんですが、事業を起こす街ということが非常に大事です。世界的なスタートアップ育成支援団体「500 Startups(ファイブハンドレッド スタートアップス)」を今年度、神戸に誘致しました。また、ミント神戸に「神戸スタートアップオフィス」を開設し、コンテストで選ばれた若者にアドバイスをし、デモデイにはファンド関係者や大企業の皆さんを前にプレゼンテーションを行い、支援を得られる機会を提供しています。若い人たちに神戸で起業して神戸で展開してほしいというだけでなく、神戸を起点にして、世界へ羽ばたいてほしいという思いです。
―神戸市の人口減少に歯止めをかけるためには。
久元 変わることを拒んでいては、どんどん人口は流出していきます。行政側にも発想の転換が必要なときだと考えています。例えば、フェリシモさんの協力を得て実施している神戸暮らしの体験プログラム「リブ・ラブ神戸」。移住への動機づけのひとつになるのではないでしょうか。
また、神戸には広大な里山があり、かやぶき民家も日本で一番たくさん残されています。大都市にいる必要のないIT企業に移ってきて住んでビジネスを展開してもらえないか、今注目されている都市からの新規就農の受け皿にできないかなど、これからは利用する方法を考えなくてはいけません。自然や文化遺産に恵まれた都市に近いエリアという強みを最大限に活用していきたいと思っています。始めたばかりの取り組みですが、ファーマーズマーケットに野菜や果物を出品されている農家さんの中にも、北区や西区に移り住んだ就農者もおられます。
―子育ても積極的に支援されていますね。
久元 2015年10月に、「こうべ子育て応援メール」を開始しました。母子手帳をお渡しするときに案内しており、登録いただいた方に、妊娠中の悩みや子どもさんの成長過程について、産婦人科や小児科の医師、助産師、栄養士の監修のもと作成したアドバイスや、行政が行っている支援サービスや子育てイベントの情報を発信します。妊娠中と生後100日までは毎日、1歳の誕生日までは3日に1回、2歳まで週1回、3歳まで月2回とかなりの頻度で配信しています。
核家族化し、近所付き合いもあまりなく相談相手がいない若いお母さん方がたくさんおられます。そういう状況に対処するための取り組みですが、2016年8月にアンケートを取った結果は、93パーセントのお母さんに「とても良かった」「良かった」と回答いただいています。一定の効果は出ているものと思っているところです。
民間の知恵と力を活用して明るく元気な街づくりを
―ITを活用したライフスタイルに合わせた働き方の支援もしていますね。
久元 GMOペパボ株式会社が運営するハンドメイドマーケットは、自宅で作ったクラフトなどの作品をインターネットで販売します。神戸で主に若い女性の活躍を支援する施設をつくってほしいとお願いし、2016年4月に世田谷に次いで2カ所目となるminneのアトリエを、デザイン・クリエイティブセンター神戸KIITOの中に作っていただきました。子育てと仕事の両立がしやすい街になるきっかけになるものと期待しています。
―民間事業者と連携を進めているのですね。
久元 神戸市は民間事業者だけでなく、兵庫県や近隣都市など外部との交流がほとんどありませんでした。そこで、民間からIT分野やデザイン分野の人材、P&Gさんからは人材育成アドバイザーを起用、英国出身の女性ルイーズ・デンディさんを広報専門官に起用するなど、多様な人材に入っていただき職員と一緒に仕事をする環境づくりをしています。専門的な見地からの知恵を出していただき、アイデアを採用しながら、これからの神戸市はプロの仕事をしていかなくてはいけないと考えています。
―健康ビジネスの拠点という構想もあるようですね。
久元 平成27年度に、神戸、京都、大阪の大学・企業と共に理化学研究所がリサーチコンプレックス推進プログラムの指定を受けています。関西全体で進めようというプログラムですが、神戸では医療中心に進めてきた医療産業都市を予防も含めた健康全体に広げようとしています。具体的な展開は現在検討中ですが、研究開発、事業化支援、異分野横断の理解ができる人材育成を三位一体で進めていく予定です。
―他にも、神戸の食の魅力発信、神戸・インターナショナル・クラブの海外都市での立ち上げ、水素サプライチェーン機構実証事業等々、新しい試みがたくさんありますね。
久元 現在、進めている試みが具体化し開花していくと、神戸の街の姿は大きく変わっていく可能性があります。その可能性を市民の皆さんをはじめ、日本全国へ、さらに世界に向けて発信していきたいと考えています。
―神戸の明るい未来に期待しています。本日はありがとうございました。
神戸市長
久元 喜造(ひさもと きぞう)
1954年、神戸市兵庫区生まれ。1976年、東京大学法学部を卒業し、旧自治省入省。札幌市財政局長、総務省自治行政局行政課長、同省大臣官房審議官(地方行政・地方公務員制度、選挙担当)、同省自治行政局選挙部長などを歴任。2008年、同省自治行政局長。2012年、神戸市副市長。2013年11月に第16代神戸市長に就任