8月号
流通科学大学に託した夢
中内㓛の意志と情熱を受け継いで 2023年に開学35周年を迎える
|中内㓛 生誕100年
流通が機能し、世界中に食料や資源が行き渡れば、人が争い、モノを取り合うことはなくなる…。壮絶な戦争体験を経てそんな信念を抱いた中内㓛は、流通革命の旗手となり生活者のために働いただけでなく、その思いを次世代へ繋ぐべく教育にも力を入れた。
その大きな結実が、流通科学大学の創設だ。「流通を科学的に研究教育することを通じて、世界の平和に貢献し、真に豊かな社会の実現に貢献できる人材を育成する」を建学の理念とし、私財を投じ寄付を集め学園都市に開学したのは昭和63年(1988)のこと。初年度の入試では定員250名に対し、約6千人が受験したという。
流通科学大学は、初の流通の専門大学ということ以外に、「for the Students」や「開かれた大学」といったコンセプトも話題になった。また、「個性主義」を掲げ、枠に合うような人間をつくる画一的教育から脱却し、一人ひとりの個性に応じて自由に学ぶことができる環境を目指した。
そしてもう一つの大きな特色が「実学」。このワードには「実践のための学問」と「実証的な学問」という二つの意味が込められている。そのためにも「流通」を経済学や経営学、商学のみならず、自然科学や人文科学を含めたインターディシプリナリー(学際的)な学問として「科学」していくことに重きをおいた。
さらに、世界にも目を向け、㓛を総隊長として学生と教員で流通調査隊を結成、中国、ソ連、ベトナムを巡った。淡路屋の故寺本滉前社長や小池百合子現都知事らも隊員として同行した。現場主義とグローバルスタンダードを学ぶ機会としただけでなく、現地の人たちとも交流し、彼らが持ち帰った情報に企業も関心を寄せ高く評価した。
ほかにも生涯学習に向けた卒業生への開講、企業トップによる特別講義、学内ローソン実習店での実習、講義など、斬新な取り組みは枚挙に暇がない。
㓛は教える側に立つだけでなく、自らも大学で積極的に学んだ。学習の場は多様である。万人、万物、万象が師。出会いからも学びは生まれる。ともに学び会うことの大切さや楽しさを「メダカの学校」と表現し、流通科学大学の定礎には論語の一節「有朋自遠方来不亦樂乎」が刻まれている。また、仲間と一緒に生涯学び続けることを奨励し、同窓会の名称を「有朋会(ゆうほうかい)」と命名した。
開学当初は年に数回講義をおこないつつ、毎週全学生へハガキを送り、社会や大学のできごとの中で感じたことを伝えた。平成13年(2001)には中内ゼミを開講、「〝ほんまかいな〟の精神を失わない」「情報は自分の手、足、口、耳で稼ぐ」など7つの条文からなる「中内㓛ゼミ憲法」を掲げ、事業の後継者や起業家の育成に心血を注ぐ。その最初のテーマは「小林一三全集百貨店経営」で内容は「小林一三 ライスカレーとすっぽん」だったという。阪急百貨店には食堂があって子供たちはライスカレーが食べられる。一方で大人のランチに高級品であるスッポンスープがついているから阪急百貨店に行くという講義であった。
21世紀を担う次の世代へ託す夢。㓛の意志と情熱を受け継いで流通科学大学はその後も発展し、「ネアカ のびのび へこたれず」の精神で社会に貢献するビジネスパーソンを数多く育成。そして来年、開学35年を迎える。