5月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.9
神戸大学大学院 医学研究科 内科学講座 消化器内科学分野 助教 大井 充先生 神戸大学大学院 医学研究科 内科学講座 消化器内科学分野 講師 星 奈美子先生に聞きました。
範囲が広い消化器内科の中でも最近よく耳にする「炎症性腸疾患」。原因や治療法について大井充先生、神戸大学で進められている研究について星奈美子先生にお聞きしました。
―炎症性腸疾患とは。症状は。
炎症性腸疾患は主に大腸が侵され下痢や血便という症状が現れる潰瘍性大腸炎と、小腸も含めて消化管全体が炎症を起こし腹痛や発熱などの症状が現れるクローン病をいいます。
―患者さんは多いのですか。どの年代が多いのですか。
潰瘍性大腸炎の患者さんは難病指定されている病気の中で最も多く、ごく軽症を含め20万人超、統計を見るとアメリカに次ぎ2番目に多い国が日本です。クローン病については軽症も含め6万人程度といわれています。発症のピークは20代から30代ですが、潰瘍性大腸炎では高齢になってからの発症例も経験します。逆にクローン病は10代から20代での発症が多く、50歳を超えてから発症するケースは稀です。寛解しても根治は難しいこの病気は年を重ねてもずっと付き合っていかなくてはならず、早期に寛解を達成し長期に維持することによって、生涯においてQOLを維持するということが治療目標になります。
―下痢や腹痛が全て炎症性というわけではないのですか。
患者さんはそのようなつらい症状が長く続くために受診されますが、自律神経や腸内細菌の乱れなどで起きているケースの方が多いです。若い患者さんの中の一部に炎症性腸疾患が隠れています。
―腸内で何が起きているのですか。
腸内の壁が炎症で〝荒れている〟状態です。潰瘍性大腸炎は基本的に大腸にだけ発症し、小腸をはじめ他の部分にもさらに根の深い炎症が起きるのがクローン病です。
―診断方法は。
潰瘍性大腸炎は大腸にびまん性の炎症が広がっているので大腸内視鏡検査で比較的簡単に見つけることができます。胃や大腸に異常がないのに下痢や腹痛などの症状が出ている場合はクローン病の疑いがあり、カプセル内視鏡など特殊な検査で小腸内の異常を探します。
―原因は。
まだ特定されていませんが、潰瘍性大腸炎は常在する腸内細菌のバランスが崩れることが原因の一つと考えられます。また最近は、自己抗体と炎症の関係も解明されつつあります(星先生コメント参照)。小腸に病変を伴うクローン病では、小腸が食べ物を吸収し不要なものを排除する役目を果たす役割をもっていること、また入院患者さんでは絶食を行うことによって炎症が落ち着くことが分かっていますので、普段の食事が影響していると考えられます。本来は炎症を起こさない食事の中に含まれているある種のタンパク質や脂肪に対して自身の免疫担当細胞が誤って炎症を起こしてしまっていると考えています。
―治療法は。
最近急速に新しい薬が開発、承認されています。遺伝的要素とさまざまな後天的要素が組み合わさって発症する病気なので、患者さん一人一人の炎症のタイプを判断し、それぞれに合う薬を選び寛解へと導きます。患者さんの人生がこの病気によって大きく変わってしまわないようにコントロールするのが私たち専門医の役目だと思っています。
―どうすれば予防できるのでしょうか。
予防する方法はありませんので、できるだけ早く診断・治療を行う必要があります。診断がついた時点で発症してから半年、1年…と経過しているだろう患者さんがおられます。潰瘍性大腸炎の場合は大腸がん発症の要因にもなります。発症を抑えるためには薬での適切なコントロールが重要です。他の病気と同じで、つらい症状は我慢せず早めに受診して検査を受けることをお勧めします。
神戸大学大学院 医学研究科 内科学講座 消化器内科学分野 助教 大井 充先生
星 先生より 研究のおはなし
腸内細菌のバランスの乱れが炎症性腸疾患に関係していることは世界レベルでいわれ、整えることで炎症を若干は弱めることができると分かってきています。潰瘍性大腸炎では自己免疫疾患との関連を示唆する結果が多くの患者さんで認められています。児玉先生(児玉裕三主任教授)が京都大学時代に所属したグループの研究成果で、潰瘍性大腸炎には自分の体を攻撃してしまう「自己抗体」の一種が存在するという発表がされました。この結果を診断・治療に活用するため、児玉先生をはじめ神戸大学と京都大学が共同で厚生労働省の難治性疾患克服研究事業の一環として始めています。神戸大学が日本の医療をけん引して頑張っている研究のひとつです。
神戸大学大学院 医学研究科 内科学講座 消化器内科学分野 講師 星 奈美子先生
大井先生、星先生にしつもん
Q.なぜ医学を志したのですか。
A.[大井] 現役のときは正直、周りに引きずられて何となく医学部を受験し、失敗しました。それが阪神・淡路大震災の年です。震災の経験で「医者になろう」という気持ちが強くなり、翌年再度受験しました。
[星] 動物が好きなので獣医になろうと考えていました。が、獣医という職業に就くと動物が「好き」とか「かわいい」では済まないという話を聞いて、現実をみて医師に変更しました。
Q.リラックスできるのはどんなとき?
A.[大井] 小学生の娘と遊んでいるとき。今の子どもたちはスマホやタブレットを上手に使って私たちのころとは全然違う遊び方をします。一緒に遊んでいると楽しくて、気がつくとリラックスできています。
Q.健康維持のためにしていることは? 腸活はしていますか?
A.[星] 夕食は野菜中心にして腸内細菌をととのえることを意識しています!他には毎日数分、心拍数をあげるような運動負荷を意識したり(できているかは別ですが笑)、定期的にトレーナーさんのストレッチを受けてメンテナンスしている感じです。