7月号
一人で抱え込まないで! 「こども・若者ケアラー相談・支援窓口」開設
子どもや若い人たちが家族の世話や介護に自分の時間の多くを費やし、やりたいこと、やるべきことを諦め、我慢しているヤングケアラーの実態が明らかになってきています。6月1日に開設された「こども・若者ケアラー相談・支援窓口」担当課長の岡本和久さんは、「相談できる場所があることをケアラー本人と周りの大人たちに知ってほしい」と話しています。
市内で起きた事件を機に始まった支援プロジェクト
−ヤングケアラーとは。
ケアを必要とする家族の介護や精神面のサポート、大人に代わって家事や家族の世話を行っている子どもを指します。法律などで規定されているわけではなく、一般的には18歳未満とされています。神戸市では問題を抱える年齢層が幅広いという認識から、就学前児童から20歳代の若い人たちも含め「こども・若者ケアラー」と呼び、支援の対象としています。
−神戸市で取り組みが始まった経緯は。
2019年10月、神戸市で痛ましい事件が起きました。当時21歳の女性が同居し介護していた90歳の祖母を殺害したのです。報道や裁判の経過から、認知症が進んだ祖母が介護サービスを拒否し、全ての負担が女性にかかっていたという背景が見えてきました。肉体的、精神的に追い詰められ、夜中も祖母の世話で眠れないまま迎えたある朝、祖母からの暴言に耐えきれず殺害に至ったのです。20年9月、殺人の罪は問われたものの、「強く非難できない」として懲役3年、執行猶予5年の判決が下されました。久元市長は市内で起きたこの事件を重く受け止め、「二度と繰り返してはいけない。行政としてやるべきことがある」とすぐにヤングケアラー支援プロジェクトを立ち上げました。
−迅速な対応だったのですね。
神戸市は昭和30年代に日本で初めて福祉の専門職を採用し、先進的な取り組みをしてきたという土壌があります。私たちの先輩方が頑張ってきたのですが、神戸では、26年前、大震災があり、仮設・復興住宅での孤独死など新たな問題や街やコミュニティの再生など、復旧・復興の面で厳しい状況が長らく続きました。
そんな中、久元市長は新たな課題である認知症診断助成・事故救済制度やひきこもり支援、そして今回のヤングケアラーなどのこれらの新たな問題に着目し、先進的な対策をスピード感をもって対応することを大切にされています。
−いろいろなところでヤングケアラーの支援は始まっているのですか。
イギリスでは1990年代から行政がこの問題に着目し、2014年にはヤングケアラーを把握して支援することが自治体の責務であると「子どもと家族に関する法律」で明確にされました。日本では子どもの虐待やいじめの問題には対策が取られてきましたが、ヤングケアラーの問題はあまり知られていませんでした。しかし専門家や教育現場では数年前からこの問題が認知され、研究も始められていました。国でも厚生労働省と文部科学省がプロジェクトチームを立ち上げ、昨年12月から実態調査を始め、今年4月に結果が公表されています。他都市の中では埼玉県がいち早く20年3月に独自のケアラー支援条例を制定し、対策を始めています。
周りの大人たちが目を向け、声をかけ、支援へとつなぐ
−神戸市ではプロジェクト立ち上げから半年ほどで窓口開設に至ったのですね。
市内76カ所の地域包括支援センターをはじめ、子どもや学校、介護などの関係各所、支援団体等にヒアリングを実施しました。その結果、上がってきた100件ちかくの事例から、ヤングケアラーの存在が大人たちに周知されていない、困っている子どもがどこに相談したらよいのか分からないという実態が見えてきました。そこで、対策の一つとして相談・支援窓口開設に至りました。
−子どもさんからの相談を受けるのですか。
子どもさん自身がケアラーであると認識して、行政の窓口に相談するというのはなかなか難しいものです。学校の先生、行政サービス窓口の職員、福祉サービス業者の方、民生委員を含む地域の住人の方など、必要があれば周りの大人からの相談も受け付ける窓口です。開設から1週間で既に十数件の相談を受け、そのうち3件が具体的な支援につないでいく段階まで進んでいます。
−どんな体制で相談に対応しているのですか。
6名の職員が常駐しています。関係機関との調整を主に担当する社会福祉士、中でも精神疾患に関わる場合は精神保健福祉士、ケアラー本人の心に寄り添い話や悩みを聞く公認心理師、この3名の職員が中心になり電話またはメールで対応します。さらに社会福祉士でもある私と、福祉の領域で仕事をしてきた2名の職員も随時フォローできる体制を取っています。
−相談・支援窓口での今後の取り組みについて。
長いケアから解放されても精神的な負担から自身が体調を崩して、社会に復帰できないというケースも多く、それを防ぐためにも早めにカウンセリングを受けて、ケアの期間をできるだけ短くすることが大切です。相談できる窓口があるということをどうやって広く知ってもらうかが課題です。SNSを使って知らせるとともに、学校の先生方から伝えてもらうという方法を考えています。また、ケアラーだった人の話を聞いたり、当事者同士が顔を合わせて話をしたり、情報交換したりできる場を今年の秋をめどに開設する予定です。
−私たちにできることはありますか。
家庭内のことは他人には知られたくないものです。親から「ケアのことは外で話してはいけない」と言われると、子どもは忠実に守り、友達や先生にも相談はしません。「周りの大人からひと声をかけてもらっただけでも嬉しかった」という元ケアラーの経験談を聞きました。声をかけたり、可能な範囲でのお手伝いをしてあげたり、そんなことから始めてケアが大きな負担になっている子どもや若い人に気付いたら、ぜひ私たちにつないでほしいと思います。まず周囲の大人が、「家庭内で子どもは介護力の一つ」と捉える考え方を改めるとともに、「子どもの権利を守る」という考え方に基づき、声なきヤングケアラーの存在に気づいていくことが大切ではないでしょうか。
こども・若者ケアラーに気づかれた方へ
(神戸市からのお願い)
家族のケアや世話をしている「ヤングケアラー」は、20人に1人と言われています。自分自身が『こども・若者ケアラー』であるということを子どもや若者が認識するのは難しいとされています。また、半数以上の『こども・若者ケアラー』が自分の悩みを周囲の誰にも話していないという調査結果も出ています。地域活動や仕事等を通じて、「もしかしたら、こども・若者ケアラーかもしれない」と感じたときは、ぜひ、こども・若者ケアラー相談・支援窓口にご連絡ください。
こども・若者ケアラー 相談・支援窓口
開所時間:平日9時~17時
(土日祝、年末年始を除く)
場 所:神戸市立総合福祉センター1階
(神戸市中央区橘通3丁目4番1号)
〇電話によるご相談
078-361-7600
〇Eメールによるご相談
carer_shien@office.city.kobe.lg.jp
神戸市HP
こども・若者ケアラー(ヤングケアラー)とは