2021年
7月号
7月号
特集|最近読んだ一冊|寺本 督
時間軸を共有した
人生の伴侶のような小説
宮本輝「流転の海」は、1984年から2018年まで30年以上かけて書かれた、9部からなる大作です。私も読んでいるうちに、20代前半から、60歳近くになったわけで、言わば時間軸を共有した人生の伴侶のような小説です。神戸御影から、大阪、南予、富山、但馬などを舞台に、戦後の貧しい時代から高度成長期まで、商人である主人公と家族、それを取り巻く市井の様々な境遇の人たちが、時代に翻弄されながらも、力強く生きていく様を描いた物語です。人々は、自然や政治、家族、人間関係、健康など、自らは抗えないことが原因で様々な苦難を背負っており、そこに関わった人々がお互いに影響しあって、人生が形づくられていくものだなあと痛感させられました。
『流転の海 第一部』
著 宮本輝
出版社/新潮社 2,090円(税込)
株式会社 淡路屋
代表取締役社長
寺本 督さん