7月号
神戸大学医学部附属病院整形外科 第3回 多くの人が悩まされる「腰痛」のはなし
子どもからお年寄りまで多くの人が腰に痛みを抱えています。その原因や治療、予防について角谷賢一朗先生にお聞きしました。
―「腰痛」にはどんな原因があるのですか?
大きく分けて2つあり、1つは背骨自体や周辺の筋肉が痛みの原因になっているケースです。
子どもから青年期にかけては、疲れによる腰痛のほか、椎弓と呼ばれる腰の骨の一部に亀裂が入る腰椎分離症、また、それが進行した腰椎分離すべり症、軟骨が突出する椎間板ヘルニアなどが挙げられます。また、年齢を重ねると背骨の内部が狭くなり神経が圧迫される脊柱管狭窄症、椎間板や椎間関節が傷んでくる変形性腰椎症、骨粗鬆症による腰椎圧迫骨折、背骨が曲がってくる側弯症などが見られます。どの世代でも腰痛に悩まされる人は多く、それによる社会全体の経済損失も莫大であると考えられています。
―もう一つの原因は?
内臓疾患からの腰痛です。腎結石による腰痛はその代表格ですが、すい臓がんや大動脈瘤破裂による腰痛もあります。また、最近増えているのが、“がん”の骨への転移による腰痛です。“がん”の治療中に、ある日突然、背骨を骨折することで発見される場合や長引く腰痛で受診したら気付いていなかった“がん”が初めて発見され、既にステージ4に達していることもあります。
―そういうケースは多いのですか。
大学病院は重症度が高い患者さんが受診される特殊な病院ですので少なくはありませんが、一般的には決して多くはありません。しかし、見逃すと命にも関わります。3カ月以上症状が改善されず、日に日に痛みがひどくなる場合や、就寝中に痛むような場合には、専門医を受診してください。整形外科では「腰が痛い」と来院されたら、病状を聞いて、体を押したり、動かしたりする理学所見をとり、更にレントゲン、CT、MRIなどを使って腰痛の原因を究明します。もし、これらの過程で内臓関連痛が疑われる場合には、全身の検査を進めます。
―背骨に問題がある場合は?
先程の検査で、痛みの原因になっている部位を正確に突き止めます。次に、いわゆる痛み止めと呼ばれる炎症を抑える薬を使用します。また、最近では神経の痛みに特化した薬も開発されています。飲み薬で痛みが治まらない場合は、筋肉を緩め背骨にお薬を集中的に行き渡らせるブロック注射をします。併せて患部を温めて血流を良くしたり、けん引したりするリハビリテーションも大切です。
―改善しなければ手術?
余計な骨、椎間板を取り除く、背骨にネジを打ち固定するなど切る手術はいろいろありますが、切らない低侵襲治療も進歩していますよ。例えば椎間板ヘルニアでは、注射で薬を注入し椎間板を徐々に溶かす治療や骨折では背骨の中に“風船を入れて膨らませ”できた空間に“セメントを流し込み固める”というイメージの「BKP(バルーン椎体形成術)」が多くの症例で取り入れられています。
―根本的な治療法や予防法はありますか?
様々な種類の腰痛がありますが、多くの原因は椎間板の傷みにあると考えられています。椎間板は背骨のクッションの役割を演じていますが、それが傷むことにより、ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症、変形性腰椎症に発展します。この椎間板を補修、再生する方法は広く世界で研究が進められていますが、どれも実用化には至っていないのが現状です。
そこで重要なのが体重コントロールです。重みが負担になるのはもちろん、内臓脂肪の蓄積により椎間板を健康な状態に保つ重要な物質が減少するという研究結果も出ています。また、「体が硬い」といわれる人は腰痛が悪化しやすく、筋肉の柔軟性、中でも太ももの裏側のハムストリングの柔軟性を高め、股関節を緩めることも予防法の一つです。
―子どもの腰痛で注意点は?
骨格が成熟する前、特にスポーツをしている子どもさんに多いのが腰椎分離症です。早期の段階なら3か月程度練習を休みコルセットで固定すれば回復しますが、進行し亀裂が入ってしまうと治療が難しくなります。指導する大人が、子どもさんの傷みを放置せず、本人も我慢しないで2週間以上続くようなら受診してください。また、静養中、練習に戻る前に必ず腰や股関節、太ももの柔軟性を高めるトレーニングを強化してください。