10月号
Power of music(音楽の力) 第10回
音楽と味覚
『食卓音楽とテレマン』
上松 明代
今年の神戸の夏は暑かった。猛暑により食欲不振になった方へ、こんな音楽はいかがでしょう。
「食卓音楽」。音楽用語では「ターフェルムジーク」と言う。17〜18世紀にヨーロッパの宮廷や貴族の館で食事や、来賓を招いて催す会合などで演奏された社交音楽のこと。庶民の間でも酒場などでは、世俗音楽が日常的に演奏されていたことからも、食事中の音楽は、昔からニーズがあったことが窺い知れる。
シチュエーションに合った音楽は食卓を素敵に飾り、より一層料理を美味しく感じさせる効果がある。しかし料理や雰囲気にマッチしていないと、居心地が悪くなり、本来の味が楽しめなくなる。例えば、風情ある料亭での食事の場で、もしBGMにヘビーメタルがかかっていたらどうだろう?想像に難くないはずだ。
18世紀ドイツで活躍した作曲家、ゲオルク・フィリップ・テレマンは売れっ子作曲家であった。彼はヨーロッパ各地の流行音楽(民族音楽やロマ音楽)をリサーチし、自らの音楽に取り入れたり、音楽雑誌を創刊し、曲の続きを連載するという斬新な方法で、定期購入してもらおうと努めたり、音楽の才能以外に商才をも持ち合わせていた。また筆も早く、それでいて常に高い水準の音楽を作曲した。
そんなテレマンの代表作の一つが『ターフェルムジーク』。ズバリ食卓音楽という曲。曲のシリーズの出版にあたってドイツを中心に、近隣国、北欧やロシアからも予約注文が殺到。依頼主の好みに合った曲を提供した。まさに職人。
この曲を聴くと不思議と様々な映像が浮かんでくる。荘厳な宮殿の佇まい、その中で祝杯をあげる様子、メイドが忙しなく動いている状況、ロウソクの火の揺らめきなど。食卓以外で聴いても心安らぐ。非常に感受の奥行きが広い楽曲なのだ。
テレマンはどれだけの人の味覚を華麗に彩ったのだろう。音楽によって。ひとまずテレビを消して食卓で是非。
上松明代(フルート奏者・作曲家)
武蔵野音楽大学卒業。在学中にハンガリーの「音楽」と「民族」に魅了され、卒業後ハンガリー国立リスト音楽院へ留学。31歳で知的好奇心から兵庫教育大学大学院で作曲を学ぶ。演奏活動と同時にバイタリティー溢れる作曲活動も展開中。六甲在住。You Tubeにてオリジナル曲公開中。
オフィシャルサイト http://akiyouematsu.com