4月号
ノースウッズに魅せられて Vol. 21
木々の言葉
シラカバの樹皮がめくれ、風にたなびいている。こすれてカサコソと鳴るその音を聞くたびに、ふと誰かがこちらに語りかけてくるように感じる。木の精の呟きだろうか、それとも遠い昔に生きた人間の囁きだろうか。
ノースウッズの数ある樹木の中でも、シラカバほど先住民によって多用途に利用されてきた木はないだろう。
まずはその樹皮。英語でPaper Birchとも呼ばれ、何層にも重なった薄い「紙」のような構造をしている。好きな厚さに簡単に剥がすことができ、油分が豊富で、倒れて幹が腐っても、樹皮だけは形が残るほど。実際よく燃えるので、焚き付けにしたり、棒の先に巻きつければたいまつにもなる。
剥がした樹皮の小さなものは折り曲げて箱状にし、トウヒの根で縫って固定して、ベリーやワイルドライスなどを入れるバスケットを作る。秋には樹皮を丸めたメガホンで、オスのムースを呼び寄せて狩りをする。大きな樹皮は耐久性や防水効果も高いため、ウィグワムやティーピーなど住居の外壁や、カヌーの船底を覆う素材として重要だ。
幹はしなやかで加工がしやすく、衝撃にも強い。そのため細長く削って曲げ、スノーシューの外枠にしたり、薄い板に仕上げてトボガンの底板として用いられる。
食器、住居、移動や狩りの道具、さらには暗闇を照らす明かりにもなるシラカバ。しかし現在、その多くは石油由来の新素材に代わり、制作技術や利用する知恵を身につけた人は減った。森で一本の木を前にして、何を聞き取ることができるのか。一度失われた言葉を取り戻すのは容易ではない。
写真家 大竹英洋 (神戸市在住)
1975年生まれ。一橋大学社会学部卒業。2021年3月、写真集『ノースウッズ 生命を与える大地』(クレヴィス) で第40回土門拳賞を受賞。
<第40回土門拳賞受賞作品展> 主催:毎日新聞社
ニコンプラザ東京 THE GALLERY 2021年4月27日(火)~5月10日(月)10時30分~18時30分 日曜・5月3日(月)~5日(水)休館、最終日は15時まで
ニコンプラザ大阪 THE GALLERY 2021年5月27日(木)~6月9日(水)10時30分~18時30分 日曜休館、最終日は15時まで