2020年
4月号
三好先生は今年ブータン旅行を企画中。標高約3000mの断崖絶壁に張り付くように建つ、“虎の棲家”こと「タクツァン僧院」や香りのいい「ブータンの松茸」など、魅力満載の旅になりそう。ブータンへは関西を夜、出発してバンコク経由で翌朝には到着と意外なことに距離的にはそれほど遠くはない!

輝く女性Ⅲ Vol.8 ブータン コーディネーター 西岡 葉子さん

カテゴリ:文化人, 神戸

インタビュアー・三好 万記子

人気料理サロン「ターブルドール」代表の三好万記子さんがホスト役となって、輝いている阪神間在住の女性にお話を伺うシリーズ。
おもてなし上手な三好さんとの対談から、どんなオイシイお話が飛び出すことでしょう。
今回、お話を伺ったのは…

ブータン コーディネーター 西岡 葉子さん

旧き良き伝統を守り、かつての日本にも似ている幸せの国ブータンの素晴らしさを伝えていきたい

「ブータン農業の父」として知られる故・西岡京治氏を父親に持たれる西岡葉子さん。ご自身もブータンと日本の架け橋となるべく、梅田の外資系ホテルのサービス部門で働く傍ら、様々な活動を行っておられます。普段のお仕事では、常にお客様の視線に立つことを心掛け、得意の英語を生かし全ての人々に愛あふれるサービス、まさにホスピタリティの達人のような葉子さんの考え方のルーツを探るインタビューです。

…今日はブータンの伝統衣装でおこしくださり、ありがとうございます。
「キラ」と呼ばれる女性の民族衣装で、縫製されたゴと呼ばれる男性の民族衣装と違い、女性は一枚布を体に巻いて着用するものです。銀細工のブローチを肩口につけることによって布を留め、上着を羽織るのですが、今日は色鮮やかな織りを見ていただこうと思って(笑)上着は着ていません。アジア各国ではとりわけ衣服の伝統が薄れていく中、ブータンでは現在でも人々の民族衣装の着用率も高く、最近は簡素化しながらも下半身のみスカートのように布(ハーフキラ)を巻き、ハンドバッグを持つスタイルが流行っています。

…懐がポケットのようになるんですよね。以前、ポンチュ(竹で編んだお弁当箱)など、ブータンのメニューを紹介する際、色々と教えてもらいました。
蓋がぴったり閉まるため、衣装の懐に入れて持ち歩くのに重宝されていたお弁当箱です。お弁当としてはもちろん、なかにお米や卵などを入れて友人へのおもたせにしたりします。預かった竹籠にまた何かをしのばせて返却するなど、ブータンの暮らしには旧き良き日本の昔の風習に似たところがあります。同じ仏教の国だからでしょうか、慎ましやかで相手を思う気持ちが強いですね。

…また一方でお茶が好きな所も日本人と同じですね。撮影の時に飲んだバター茶の衝撃、鮮明に覚えています(笑)。
驚かれたでしょ(笑)。ブータンのバター茶は、他の国のお茶とは違って塩味のあるお茶なのです。十数年前まではお客様をおもてなしする際には欠かすことのできない、現地の人々に愛されている飲み物でした。バターが入っている塩茶は、農作業で汗をかいた時に失われた塩分、高地生活で不足しがちなビタミン、脂肪分、たんぱく質を上手に補えるようになっています。けれども、最近はブータンでも次第にコーヒー、紅茶を飲むようになってきているようです。

…バターの香りが口のなかに広がる甘いお茶を想像していたので、しょっぱい(!?)鶏ガラスープのような味にびっくりしました。
ブータンでは料理にバターをよく使います。家畜ヤクの生乳を搾乳してバターやチーズ、干し肉を作り、保存食にするんですよ。インドと国境を接しているのにインド料理のようにスパイシーではなく優しい味で、好みで唐辛子を加えたりしますが、基本的には日本人の口にもあう優しい味わいです。

…今あるブータンで栽培されている米や野菜は、葉子さんのお父様、故・西岡京治氏の存在なくしては育たなかったと言われています。栽培技術や新しい品種を持ち込み、農業生産の向上に貢献されたんですよね。素晴らしい功績をたたえて、国王から「最高に優れた人」を意味する「ダショー」の称号を授けられ、現地にはお父様の仏塔もあると伺います。
両親がブータンで定住を始めたのは1964年です。1962年に父は大阪府立大学東北ネパール学術調査隊の副隊長としてネパールに赴き、母は神戸女学院大学卒業後、父と結婚したのですが、やはり東北ネパール学術調査隊に参加してネパールにいました。隊長であった中尾佐助先生を通して、当時のブータン首相ジグミ・ドルジ氏と出会ったことがきっかけとなり、近代化を目指すにあたって農業専門家として夫婦で迎えられました。海外技術協力団(現JICA)として派遣が正式に決定したのは打診されてから2年後でしたが、チベット語ができるということ、夫婦なら長く滞在できるかも…ということで選ばれたのかもしれませんね。父と母2人でブータンに渡り、過酷な状況のなかで頑張る父を、母は根っからの探求心でブータンになじもうと努力し、縁の下で支えていたと思います。

…お父様が農業に専念できたのはお母様のサポートがあったからこそなんですね。
母は私を産むために単身で帰国し、生後6ヶ月の私を連れてすぐブータンに戻りました。私は7歳まで父と母と共に暮らしていたのですが、当時はレストランもなかった時代でアウン・サン・スー・チー氏、マイケル・アリス氏やシャーリー・マクレーン氏など各国の要人がブータンに来られた時には母が家でおもてなしをして、私も料理を運ぶのを手伝いました。今、様々な国からいらした方々に接するサービス業の仕事に就いているのも、当時の楽しかった思い出が私の根底にあるからでしょう。父は計28年間、農法のみならず、産業や生活の基盤改善に大きく寄与しました。大きなプロジェクトのため、父が奥地に数年赴くこととなり、子供たちの教育も考えて…と母と弟と私は帰国しました。

…1992年にお父様が病気で亡くなられたときは外国人として初めての国葬が執り行われ、5,000人もの人が弔問に訪れたとか。
大勢の方から父への感謝の言葉を頂戴し、改めて父のすごさを実感しました。母も日本に住みながらブータンをよく知る日本人として、神戸ポートアイランド博覧会のブータン王国館代表や、神戸貿易促進センターでブータン王国展を手掛けるなど、いろいろな形でブータンを紹介する機会を得てきました。一方私は日本の暮らしに馴染むとともに英語が話せなくなるのが嫌で、30歳の時にイギリスの料理学校に留学しました。料理や西洋文化を学ぶなか、異国の人に対するホスピタリティについて改めて考えるようになりました。例えば、英語は世界共通語ですが、日本人は“th”の発音が苦手とか、スペイン人は“r”の発音が強調されるとか、同じ英語でも英語の使い方や話し方には特徴があり、各国で異なります。異なるからダメと言って排除するのではなく、異なっても意思が疎通できるのであれば問題はなく、それも英語であると互いに認めることが大切だと思います。また、それは相手の歴史や文化を尊重し、人間は同じ人間、と認めることです。そうした考えに基づいて、ブータンと日本、世界各国の人たちと日本の人たちをつなげる活動にこれからも携わっていきたいと考えています。

…葉子さんはグローバルな感覚をもったホスピタリティの達人です。「ターブルドール」のサービススタッフとして働いてもらっていたときも、「何のために料理を出しているのか」など、よく話し合っていましたね。
料理人はただ料理を出すことが目的ではないし、逆もしかりで、お客様も料理を単に食べられたらいいというものではありません。宴は食事を共にして、何かを分かち合う場だと思うのです。例えば、結婚式であれば、皆でおいしい食事を共にしながら喜びを分かち合うでしょう。いかに美味しく召し上がっていただくか、そのために何が出来るのか。おもてなしにおいても、お迎えする方が何を望んでいらっしゃるのかを常に知ろうとすることによって、初めて真のホスピタリティというものが見えてくるような気がします。そうした思いを周りのスタッフにも伝えたいのですが、私の場合、幼少期の海外生活のせいか、オブラートに包んで話すことがあまり得意でなく、ストレートな物言いをしてしまうことがあり、時として摩擦を生んでしまうこともあるのです・・・(笑)。

…これからも世界に向けて、おもてなしの真髄を発信していってくださいね。
(ホテル竹園芦屋にて)

「ターブルドール」の敏腕スタッフとして一時期、活躍していた西岡さん。パン作りに精通する西岡さんにミニバーガーに使用する小さなバンズの製作を依頼したのがお二人のおつきあいの始まり

三好先生は今年ブータン旅行を企画中。標高約3000mの断崖絶壁に張り付くように建つ、“虎の棲家”こと「タクツァン僧院」や香りのいい「ブータンの松茸」など、魅力満載の旅になりそう。ブータンへは関西を夜、出発してバンコク経由で翌朝には到着と意外なことに距離的にはそれほど遠くはない!

三好さんからの質問コーナー

Q.ハマっているグルメや気になるお店はありますか。

A.ブータン料理は唐辛子を多く使いますが、ブータン産の唐辛子は香辛料というより野菜であり、辛さよりも旨味のために加えます。唐辛子が主役のメニューとしては、「エマダツィ」という唐辛子とチーズをさっと煮込んだものがあります。私が家でよく作るのは「ケワダツィ」。ジャガイモと唐辛子のチーズ煮こみです。唐辛子の効いたおかずと主食のご飯をバクバク(笑)食べるのがブータンスタイルなんですよ。


西岡 葉子/ Yoko Nishioka

1968年大阪生まれ。生後半年からブータンで生活、ダージリンで寄宿学校に通う。その後、ニューデリー日本人学校で日本語を学び帰国。神戸海星女子学院大学卒。東京で数年のOL生活を経験した後、西宮の自宅に戻り、渡英、料理の研鑽を積む。帰国後は、カフェ・ラスリーズ(芦屋)で働き始め、飲食業の面白さに目覚める。Table d’or(夙川)での仕事を通して飲食業の新たな可能性を体感。これまでの経験を活かし、現在は大阪の外資系ホテルに勤務。

三好 万記子(みよし まきこ)

株式会社ターブルドール 代表取締役
神戸女学院大学卒。パリに3年間滞在中、フランス料理を学ぶ。ル・コルドン・ブルーにて料理ディプロマ、リッツ・エスコフィエにてお菓子ディプロマを修得。帰国後、西宮市・夙川にて料理サロン「Table d’or」主宰。また出張料理人としてケータリングも展開、料理はもちろんディスプレイを含むトータルコーディネートに定評あり。企業へのメニュー開発、レシピ提供など、「食」を幅広くプロデュース。二児の母。

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