1月号
パンヲカタル 浅香さんと歩く | パンさんぽ |番外編
美味しいものは、作る人も食べる人も笑顔にする
コム・シノワ 荘司 索さん × インタビュアー 浅香 正和さん
パン屋さんを訪ねる「パンさんぽ」。歩いていると、あちらこちらで耳にする〝しょうじさん〟のお名前。どんな方なのでしょう?今回は荘司索さんに会いたくて、「コム・シノワ」を訪ねました。
料理もパンも〝食〟という
大きな輪の中の一部分
―コム・シノワは神戸南京町から始まったのですね。
35年前、まだ若くて、いつも何かに追われているような気持ちで神戸に来ると、精神を開放してくれるような自由な空気を感じました。ご縁があったのでしょうね。神戸南京町でフランス料理店を始めることになったのですが、朝からクロワッサンやブリオッシュを焼き、ランチタイム、ティータイム、そしてディナー…夢を詰め込み過ぎてぶっ倒れ(笑)、普通のレストランの営業形態に変えました。
―レストランから、なぜパン屋さんをはじめられたのですか。
大きなきっかけは震災です。お店に「パンないですか?」とお客さんが訪ねてきました。神戸の人たちにとってパンはとても大事なものだと分かってから。自然の流れです。「食」は健康に生きていくためにとても大切なもの。その輪の中に、料理もパンも、お菓子も、食材も、サービスも…全てが含まれ、それぞれが補填し合い、季節ごとにいろいろなものが入れ替わり完結すると思っています。ただし、「いつかパン屋さんをやらなくてはいけない」という思いはずっと持っていました。
―それは何故ですか。
昭和という時代、日本はまだ貧しくて食べるものも今のように豊かではなく、でも心の豊かさがありました。私が育った家庭も貧しくて、2軒隣のベーカリーで毎日パンを焼く怖い顔をしたおじさんが、パンのミミを届けてくれていました。母親がミルク粥にしてくれると、たまにハムの切れ端が入っていて嬉しくて、毎日でも飽きないほど美味しくて、子ども心に「天使のパン」だと思いました。だからコム・シノワにはいろんなところに天使がいるんです。
すごく努力して、追い越していく若い職人たち
―そこへ、西川さん(「サ・マーシュ」オーナーシェフ西川功晃さん)がやってきた?
彼はレストランのお客さんで、話をすると「俺にパンを焼かせろ」モードでグイグイ迫ってきていましたからね(笑)。その後、震災があり予定通りにはいかなかったものの、「コム・シノワ」オープンに至りました。
―それ以来の師弟関係?
今や師弟逆転ですよ(笑)。若い職人たちはみんな努力して私を追い越していきます。嬉しいのと同時に、私もまだまだ坂の途中ですから、いい意味でジェラシーを持ったり、感心させられたり…。
―伝説のポテトパンはパン屋さんを開いたときから?
レストラン時代から続いているパンで、切ってまわりがちょっと焦げる程度に焼くと食事の前のいいおつまみになっていました。元々はフランスアルザス地方のパンで、初めて食べたときに「まさしく料理パンだ!」と。どんなジャガイモが合うのか研究し、あまり混ぜないで作るという方法に辿り着きました。季節によってジャガイモの美味しさが変わるし、農家さんから送られてくるその時季の野菜を混ぜて焼くファーマーズブレッドにもなっています。
職人自身が美味しさを知り
お客さまと共有する
―どんなふうに後進のパン職人を育ててこられたのですか。
特に育てたという意識はないですが、一番大事にしているのは従業員のまかないです。昔から必ず私が作ります。食べることの大切さを教えるのが私の役目、これだけが私の経営理念です。
―いい会社ですね!
「コム・シノワってどんな会社?」と聞かれ、「まかないが美味しい会社!」と答えた子がいるとか(笑)。美味しいものを食べると仕事に対するモチベーションや姿勢が変わってきて、笑顔が生まれます。適当に作ったものを食べていると、気持ちがささくれてきます。料理人ですからどんな食材を使っても美味しいものを作れます。忙し過ぎて手を抜くこともありますが守るべきところは守っています。私のさじ加減や考え方、美味しさの本質は伝わって共有できていると思っています。そして、美味しさや心の豊かさはお客さまとも共有できなくてはいけません。ですから、レストラン時代はサービススタッフにもパンを焼いてもらいました。自分が焼いたパンをお出しすると、心のどこかに生まれた誇らしげな気持が表情に現れ、お客さまにも伝わると思ったからです。
―愛が伝わるのですね。
モノづくりは、愛する誰かに思いを馳せること。モノが何であれ共通することだと思いますよ。
―これからのパン職人に望むことは。
健康な生活を支えるのがパン。だから私は若い子たちに「パン職人は偉いんだぞ」と言います。もっと誇りをもっていいと思います。でも私生活すらストイックにならなくてはいけないほど大変だからか、目指す子が減ってきているのは残念ですね。
―ご自身の楽しみと、これからの夢は。
楽しいのは仕事をしているとき。先日も「パン屋さんに入ったら、豚まんの蒸し器から湯気が上がっているって素敵だな」などと考えて(笑)。そんな楽しいことを許してくれる雰囲気が神戸にはあるのかなあ。夢は、「カラダに届け!」と作った料理を、「よーく噛んで食べると美味しくなるんだよ」などと言いながら出す。すると、「何でもいい」などと言っていた子どもが「これが食べたかったんだ!」と喜んでくれる。そんな「食堂」を開くことです。
―ぜひ夢を叶えてください。私たちも楽しみにしています。
コム・シノワ
(三宮ビル南館地下)
神戸市中央区御幸通7-1-16
三宮ビル南館地下
TEL 078-242-1506
営業時間 8:00~19:00
水曜定休日
https://www.comme-chinois.com/