12月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第一〇二回
第19回 西宮市医師会市民フォーラム
「在宅医療・緩和医療ってなぁに?
~住みなれた地域でいつまでも~」について
─西宮市医師会市民フォーラムとはどのようなものですか。
北垣 西宮市医師会は毎年、身近な医療問題をフォーラムのテーマに掲げて、市民の皆さんへの情報発信、情報交換をおこなっています。以前は医療政策や医療制度をテーマにしていましたが、近年はより身近なテーマを採り上げ、一昨年は「見直しませんか?生活習慣病~守ろうあなたの腎臓~」、昨年は「ひょっとしたら認知症?~これからどうする?~」と題して開催しました。
─今回のテーマは何でしたか。
北垣 第19回を迎える今年度の西宮市医師会市民フォーラムでは「在宅医療・緩和医療ってなぁに?~住みなれた地域でいつまでも~」をテーマに設定しました。超高齢社会を迎え「老後不安大国」とまで言われている現在、高齢者の医療費削減を目的とした病院の病床数削減が進められ、高齢者の入院医療は否応なく在宅医療へとシフトしています。また一方では「住み慣れた地域、自宅で入院医療の継続を受けたい」と在宅医療を希望される患者さんやご家族も増えてきているのも現実です。そのため各種メディアが在宅医療に関する情報を数多く取り上げているのですが、残念ながら市民の皆さんは在宅医療を十分に理解されていないのが現実です。このような状況を踏まえて在宅医療にフォーカスし、去る9月29日に西宮市フレンテホールで開催しました。
─どのようなプログラムでしたか。
北垣 第一部と第二部に分け、3名の講師を招き講演をしていただきました。まず第一部では「緩和医療とは~正しく理解していただくために~」をテーマに、緩和医療を専門にされている共和マリナホスピタル緩和ケア内科部長の浦浜憲永先生にご講演いただきました。市民のみなさんのほとんどが緩和医療をホスピスでの終末期医療や看取り医療だと誤解されているようですが、日本緩和医療学会は緩和医療を「重い病を抱える患者や家族の身体や心などの様々なつらさを和らげ、より豊かな人生を送ることができるように支えていくケア(医療)」と定義しています。つまり緩和医療は終末期のみの医療ではなく、診断された早期、身体状態の良い時期からも提供されることもあります。その対象も身体的苦痛のみではなく精神的苦痛、スピリチュアルな苦痛を含めた全人的苦痛であり、患者さんとご家族、並びに医療チームの共同作業でおこなわれているというお話でした。
─第二部はどのような内容でしたか。
北垣 まず、数多くの在宅医療に関わっておられる臨港クリニック院長の榎原良一先生より、「在宅医療とは~大好きなお家で過ごしていただくために~」と題し、在宅医療についてお話していただきました。在宅医療では人工呼吸器管理や中心静脈栄養管理、超音波検査など多くの医療行為が可能ですし、外来通院、入院医療に次ぐ第三の医療として通院が困難なすべての病気が対象となります。先生は患者さんが住み慣れた自宅でご家族や友人と過ごすことが可能である反面、ご家族に負担がかかったり、急変時の対応に苦慮したりするなど、在宅医療のメリットとデメリットをわかりやすく説明してくださいました。また、在宅での看取りも選択枝の一つとなるため、患者さん自らがどのような医療や介護を受けたいのか、ご家族や医療、介護従事者とアドバンス・ケア・プランニング(人生会議)を通じて十分に話し合うことが必要だという課題も挙げられました。
─訪問介護のお話もあったそうですね。
北垣 はい。最後に訪問看護ステーションネットワーク西宮の清舩久見子会長より「知っていますか?訪問介護~上手に使って元気に暮らそう~」というタイトルで、訪問看護について解説していただきました。団塊の世代がすべて後期高齢者(75歳以上)になる2025年問題に向けて、これからは自宅が療養の場所となる在宅医療、在宅介護が急増することは必須です。そこで、かかりつけ医の指示のもと、自宅に看護師が伺って患者さんの治療の継続、病気や障害に応じた看護や介護予防を行う訪問看護が非常に重要かつ必要になりますが、「自宅で自らが望む生活を送るためにも上手に訪問看護を利用することが必要」とアドバイスをいただきました。
─市民の反応はいかがでしたか。
北垣 今回のフォーラムも300席の会場がほぼ満席になる盛況ぶりで、市民のみなさまの在宅医療、緩和医療への関心の高さを強く感じましたね。
─西宮市医師会ではフォーラム以外にどのような情報発信をおこなっていますか。
北垣 地元のコミュニティラジオ「さくらFM」に広報番組を持っており、さまざまな医療情報、健康情報を市民のみなさまへ毎週発信しています。また「かりつけ医」としての主治医機能をもとに訪問看護、訪問介護と密な連携のもと、西宮市とも協働で「望む暮らしをわがまちで」という西宮市在宅療養ガイドブックを作成し、積極的に在宅医療、介護へのサポートも行っています。西宮市医師会は今後も、「住みたい街、NO・1の西宮」から「住んで良かった街、NO・1の西宮」を目指して、市民のみなさまに医療、介護に関する情報提供を積極的におこなっていきます。