12月号
縁の下の力持ち 第18回 神戸大学医学部附属病院 IVRセンター
診療科を横断し、画像診断とIVRで信頼を得る
患者さんにとって縁の下の力持ち、診療科の先生方から信頼される存在がIVRセンターです。患者さんの負担が少ない治療法の一つを広く知ってもらうことで治療効果のエビデンスにつなげ、IVRの可能性を広げようとしています。
―IVRの意味は。
山口 CTやMRIなどを使う検査で画像診断する放射線科の仕事から派生したもので、画像を使って治療をするInterventional Radiology、直訳すると「介入的放射線医学」、日本語では「画像下治療」と訳しています。分かりにくいですね…そこで日本ではIVRに統一して知ってもらおうという方針で進めています。
―どんな治療法ですか。
山口 レントゲン、CT、超音波などの画像診断装置を使いリアルタイムに体の中を見ながら、細い針やカテーテルを使う低侵襲治療です。切ることなくほとんどの場合、局所麻酔で行われます。
―具体的には、どういう疾患にどんな方法で行うのですか。
杉本 最も症例数が多い塞栓術は、カテーテルを血管内に挿入し局所の血管を「詰める」方法で、出血や腫瘍に対する治療法です。逆に拡張術は、狭くなった血管をステントやバルーンを使って「広げる」方法で、冠動脈や頸動脈、足の血管などで行われています。これは血管以外の管腔臓器と呼ばれる消化管や胆管、気管などにも応用され、拡張後にステントを挿入するのが一般的です。針を「刺して」膿などを排出させるドレナージ術、細胞を採取する生検、ラジオ波を使って肝臓がんなどの病変を「焼く」、骨にセメントを「注入する」など非常にたくさんあります。血管系と非血管系、管腔臓器と非管腔臓器などと分類され、もちろん全ての疾患とはいえませんが全身の多くの臓器の病変に対する治療法といえます。
―IVRセンターの先生方が主に担当されるのですか。
杉本 通常は血管造影室に、IVRセンターと放射線診断・IVR科の医師、看護師や診療放射線技師、各診療科の担当医師などが集まり、協力して治療にあたります。神戸大学では冠動脈は循環器内科医、脳血管内治療は脳神経外科医が主に携わっています。
―救急対応も?
山口 例えば事故で腎臓から出血している場合、カテーテルを入れて出血箇所をピンポイントで止めます。産後に大量出血した場合、子宮の動脈だけを詰めて止血します。こういったケースでは救命はもちろん、臓器を温存することができ、患者さんの後々のQOLにも関わってきます。
―各診療科の先生方と密接に連携しているのですね。
山口 病院内に数ある診療科を縦糸に例えたら、私たちはそれをつなぐ横糸。全体を俯瞰しながら、縦糸から上がってくる依頼をキャッチして、より強い医療の実現を目指しています。患者さんから見れば舞台上の黒子のような存在、各科の先生方とは信頼関係で結ばれている存在です。さらに信頼を高めるために24時間365日、必要とされたら迅速に対応できる体制を取っています。
―IVRの可能性は今後どのように広がっていくのでしょう。
杉本 治療効果のエビデンスが証明できるかどうかにかかっていると思います。確実な効果が科学的に証明されている疾患については必ず依頼が来ます。まだ証明はされていないが他に手立てがなく、比較的効果があるだろうという場合も受けます。逆に、他に治療方法がある場合は担当医師の方針で決まります。IVR専門医が各科の医師と同じ方向を向いて治療にあたり、どれだけ信頼を得られるかにかかっていると思います。
―医学の道に進み、放射線科でIVRを選んだのはなぜ?
杉本 理系でも機械相手はつまらないなと医学部を選びました。ちょうどCTやMRの黎明期で画像診断技術の進化は確実、低侵襲も注目され始め、IVRに将来性を感じたのがきっかけでした。
山口 医学部5年になった頃、少し疲れていたんです。道に迷ったというか。そんな時に放射線科の仕事が進歩する分野に思え、魅力を感じたんです。携わっていくうちに意外と内容は幅広く、IVRと出会いました。結果的に、医学を志した当初の気持ちが戻ってきて、現在に至ります。
―縁の下の力持ちですね。
杉本 患者さんにとっては縁の下、医療のプロから認められる存在であり続けることが理想です。傷口が小さく、術後の影響を最小限にとどめ治療期間を短縮できるIVRですが、黒子に徹し過ぎて誰にも知ってもらえなければ将来の可能性は広がりません。これからはもう少し目立とうと考えているところです(笑)。