9月号
さきどり、秋のマーケティング情報 駅前
「安っ!」は最高のほめ言葉
株式会社 駅前 代表取締役
岩﨑 憲一さん
巨大生け簀で常に新鮮な魚を
この9月中旬、六甲道駅の北側に、JR六甲道店をオープンします。これまでは兵庫区と中央区に出店していましたが、東へ伸ばしていずれ大阪へ行きたいと考えています。
「駅前」という屋号は、もともと一号店が神戸駅の駅前だったことで名付けました。その後、中央市場に店を出すのですが、その時に「駅前」という屋号をそのまま使い、兵庫北店は駅から離れても「駅前」(笑)。よく「駅前違うやろ」と言われるんですけれど。
実は最初、中央区に店を出すことを躊躇していました。それで手始めに海鮮丼の店を出したら、駅前の名前を知ってくださっていたお客様が意外に多かったのです。ちょうどその頃中央市場がリニューアルすることになり、場所を移して24時間営業を続けたいと思っていたのですが、もともと中央市場店には深夜タクシーで三宮から来られるお客様も多かったので、これを機会にサンキタ店を開けさせていただきました。
24時間営業は、いつ来てもお酒が飲めてごはんが食べられるお店にしたいと思ったからです。中央市場は夜中も動いていますので、安心できる場所があればと。市場関係者はもちろん、夜中は同業者さんが多かったですね。あと、三菱重工の夜勤明けの方も、朝方が夕方みたいなものですから、仕事終わりに飲める店があまりなかったのです。最初は朝早く開けて夜遅くまでやっていたのですが、閉めるのが面倒だし(笑)開けてしまえと24時間になったのです。でも、一番のネックになったのは、夜通し働く職人の覚悟です。
出店地域が集中しているのは、新鮮な材料を届けられ、人のやりとりをするのに便利だからです。中央市場周辺にセントラルキッチンと配送センターがあり、時化があっても商品を提供できるように4トンの生け簀を2つ備えています。
赤字覚悟!「海鮮丼480円」
価格もコンセプトのひとつです。レジで「おいしかった」と言わせるな、「安っ!」と言わせろと。「安っ!」には「ごちそうさま」も「おいしかった」もすべて入っているのですよ。週に2回来られるのを3回来てもらおうという値段設定なんです。神戸で最初に生ビールを安く売り出したのもたぶんうちですよ。
魚は水産業者からも仕入れますし、価格を抑えるために直取引もあります。努力はしていますが、それでもここ数年で魚の価格は高騰しています。10年前と比較して、倍以上になっていますので、申し訳ないのですが、一部商品は価格を改定させていただきました。そのかわり商品のグレードをしっかり上げて切り替えさせていただいています。いつまでも安いだけではやっていけないのはわかっています。でも、駅前のコンセプトは安さなので、海鮮丼並の480円はたとえ赤字になっても崩したくありません。
もちろん、安くても質が悪ければ意味がありません。お客様が何を食べたのか覚える商品を提供したいのです。ですから素材は生を使っています。私はもともと板前で、職人として商品力を重視してきました。でも商品力だけではなく、接客などにも力を入れていきたいですね。
職人気質な親心が成長の鍵
私はもともと神戸の出身で、大阪の調理学校を出てから京都の柊屋やたん熊で17年くらい修行しました。われわれの時代の修行は厳しかったですよ。1日の平均勤務時間が16~17時間、最初4ヶ月は休みなし、それで給料は手取りで2万8千円(笑)。1年目は足袋すら履かせてもらえず、しんしんと雪が降っても裸足でした。やがて職人として東京や海外へも行くようになったのですが、自分としては料理を覚えたいだけでなく、いろいろなことをやりたかったので、大阪の大手外食チェーンの料理開発部門に入りました。そこで板前ではできないマネージメントの勉強とかをさせていただき、いろいろな学校へ勉強にも行かせてもらったことが財産になりました。実は、不動産の経験も少しあって、今の物件検討にすごく役に立っています。独立は13年前です。
店の立地について、マーケティングはそんなにしません。情報は常に入ってきますが、勘といったらおかしいのですけれど、実際に「これだ」と感じる物件は100のうち1つくらいです。
いま10年目ですが、11店舗で売上げが10億8千万円まで来ることができました。今後、5年後で20億、さらにその5年後で30億という目標を持っています。大阪に24時間営業を1店舗出したら、そのまわりに数店舗出店したいと考えています。
でも、店を増やしていくのは売上げのためではありません。若い子が育っていくじゃないですか。彼らが踊る舞台を作りたいのです。そうしないと給料は上がらないし、ずっと同じ店にいると職人がサラリーマンになってしまいますから。
岩﨑 憲一(いわさき けんいち)
株式会社 駅前 代表取締役
1960年生まれ、大阪あべの辻調理師学校卒業。京都の老舗料亭にて17年の修行を経て、外食産業チェーンにて商品開発に携わる。2009年株式会社駅前 代表取締役に就任、現在に至る。