2012年
9月号

神戸鉄人伝(こうべくろがねびとでん) 芸術家女星編 第32回

カテゴリ:文化・芸術・音楽

剪画・文
とみさわかよの

藤間流 藤園会主宰
藤間 莉佳子さん

神戸の地で、日本舞踊・藤間流を支える藤間莉佳子さん。毎年舞踊の会に出演し、精力的に活動されている藤間さんですが、舞踊家としてのスタートは遅く、30代半ばでした。3歳から母である藤間琇馨の手ほどきを受けたものの、音大で声楽を学び、神戸山手短期大学で音楽科の助手を勤めておられたそうです。「私はずっと神戸っ子、3歳から須磨の住民です」という藤間さんは、今も須磨の教室を備えたお宅に、ご家族と猫・犬・熱帯魚とお住まいです。「お稽古で疲れても、猫が癒してくれます」と愛猫に目を細める藤間さんに、お話をうかがいました。

―人生の転機は、お母様の病気に始まるとか。
 若い頃は母が健在だったので、跡取りのことなどまるで意識せず、音大へ進み助手の仕事をしていました。ところが母が突然病に倒れ、意識不明で集中治療室へ運び込まれたんです。神戸国際会館のホールで、師籍40周年記念公演を開催する直前でした。母は戦後日本に引き揚げてきてから、漁師さん宅の二階を借りて舞踊の道を歩んだ人で、そういう母の歴史を否定できないと思い、一人娘の私が会を催す決意をしました。お弟子さんたちもまだ頼りない私を支えてくれて、無事公演を終えることができました。

―そしてとうとう、社中を継ぐ決意をされたのですね。
母はその5年後に亡くなりましたが、その間に舞踊の道に進む決意が固まりました。母がすぐに亡くなっていたら、社中を継がずに音楽の道に行ったと思います。伏せってはいても母の存在があったので、弟子たちも母への想いから私を盛り立ててくれました。看病とお稽古で大変な日々でしたが、あの試練があったから今の私があるのでしょう。父が「踊りをやれ!」と励ましてくれたことも大きかったです。そして藤間藤子師(人間国宝)、藤間蘭景師という師に恵まれ、母亡き後も勉強させていただくことができたのは、福運としか言いようがありません。成長するためには良い意味で恐い存在、厳しく指導してくれる師が必要だと思いますよ。自分が向上していないと、人にも教えられませんしね。

―指導する立場として、声楽と日舞の違いは何でしょう?
一番の違いは、日舞には五線譜のように、万人が見てわかる教材が無いということです。今でこそ録画ができますが、昔からこの世界は口伝ですから師匠に習うしかなく、ピアノや声楽のような練習曲もありません。いきなり曲に合わせて踊ることから始まり、振りの少ないものに基本を織り込みながら踊り、次の曲へ。半年もすればひとまず踊れて、1年経つと柔らかく踊れて、2年経つと気持ちが入る。芸が深まるにつれて苦しんだり、目標が上がったりするのは、どの世界も同じですけれどね。

―日舞公演の客席に、高校生や若い女性の姿を見かけますが、おそらくお友達の舞台を見に来ているのでしょう。若い方々は、どんなきっかけでこの世界へ?
この頃、インターネット、タウンページで見ました、と問い合わせてくださる方が多いんですよ。動機は「着付けを習ったので、着物を着て何かしたい」「和物文化が好き、弓道をやっていたので」「歌舞伎を見て」「三味線音楽がカッコイイと思って」とか、様々です。まずは作法から入りますが、今の生活にはふすまの開け閉めや座って挨拶する機会などがないから、かえって新鮮みたいですね。舞台を見たお友達が興味を持って、体験にいらしたりもします。

―「日舞の演目は長い」と言われますが、どうなのでしょう?流派によって、よく演じられる演目などがあるのでしょうか?
日舞の演目は、短いものは3~4分ですが、長いものは30分~50分も掛かります。公演はお客様が退屈しないよう、15分くらいのものが多いでしょうか。最近は新舞踊をなさる方も大勢いらっしゃいますが、藤間流は古典舞踊。「歌舞伎踊り」「関の小万」「槍奴」の三曲から習い始め、古典舞踊の基本を身に付けます。そして師範試験もこの曲です。初心者でも踊れる曲ですが、きちんとやろうとすると難しいんです。私たちももちろん、創作もすれば新しい振りも付けますし、他流との交流も行ないますが、それはあくまで新たな勉強としてですね。

―古典のように「型」のある芸術を、自分なりに表現するというのは、どういうことなのでしょうか。
 どんな芸でも、最終的には自分を出さなくてはいけません。先だって、友人のフラダンス公演を見に行って、ジャンルを超えて通じるものを感じました。表現力の豊かさ、大らかさが舞台一面に溢れていて、そして演者の指先に至るまで神経が行き届いていて、本当にすばらしかった。舞台というものは、人に感動を与えようと思ってそうなるのではなく、踊り手の内なるものが滲み出てきて人を感動させるんだなあ、と感じました。いくら上手くても、得意気なのは嫌味。謙虚さは大切ですが、卑屈になってはダメ。桜梅桃李、それぞれのよさ、自分にしかない個性を出せたら最高です。だから私たち舞踊家は、技だけでなく人間性も磨いていかないといけないのでしょうね。

―舞踊家として、そして女性として、夢かなえた人生と言えますか?
 はい。良い家族、師、友人に巡り会えて、幸せな人生だと思います。夫は舞踊の門外漢ながら、客観的にアドバイスをしてくれる、私のよき理解者です。私は結果として母の跡を取りましたが、これからの指導者は、舞踊界全体のことを考えないといけませんね。自分の社中を継いでくれる人だけを後継者と思わず、舞踊界を継いでくれる人材を育てていかなくては。若い人たちを応援する立場になったのを自覚すると同時に、自分自身も踊れるうちに踊っておこうと思っております。
(2012年7月9日取材)

「都風流」

とみさわ かよの

神戸市出身・在住。剪画作家。石田良介日本剪画協会会長に師事。
神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。
日本剪画協会会員・認定講師。神戸芸術文化会議会員。

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