11月号
対談/個性を育む私立中学の教育 第4回 啓明学院中学校
日能研関西 代表 小松原 健裕
×
啓明学院中学校・高等学校 校長 安福 朗
関学スピリッツを持ちながら、啓明らしい教育を
名門私立中学校に多くの塾生を合格させている日能研関西代表の小松原健裕さんと関西名門校トップとの対談シリーズ第2弾。第4回目は、啓明学院中学校・高等学校校長の安福朗さんにご登場いただきました。
女子教育校として開校し、中高大10年一貫共学校へ
小松原 「啓明学院」は女子学院として長い歴史を持ち、情操教育がしっかりした学校というイメージを持っていました。95年前、どういう経緯で設立されたのですか。
安福 J・W・ランバス先生が神戸で開いた「読書館」に、キリスト教を学び英語を習得しようと多くの若者が集まり、息子さんのW・R・ランバス先生が男子学生を連れて原田の森で開校したのが関西学院です。女子学生にも教育が必要と献金を募ったメアリー夫人にW・Bパルモアさんが応え1923年、「パルモア女子英学院」が開校しました。ここを創立と考えると2023年が100周年です。「啓明」は戦時中、聖書の言葉から名付けたものです。
小松原 その後、関西学院大学と教育協定を結び中高大10年一貫教育校となりましたが、その経緯は?
安福 ランバス先生の建学の精神を持つ関西学院、広島女学院、聖和大学・短大、パルモア学院と啓明女学院は1998年に提携を結び、特に関西学院とは結びつきが強くなりました。そのころ関西学院は総合学院構想に取り組んでいましたが院内校は上ヶ原にある中学・高校だけ。そこで関西学院大学につながる中等教育の幹を太くするとの思いで2002年、男女共学「啓明学院中学校」、05年「啓明学院高等学校」が開校することになりました。
小松原 父から聞いた話によると、当時、地下鉄沿線に子どもが増え日能研から関西学院への入学希望も増えていました。しかし上ヶ原まで通うのは遠い。そこへ、継続校として啓明学院が誕生したので日能研として全力で応援した、と父から聞いております。
安福 第1回入試では保護者の皆さんには半信半疑なところもありましたが、小松原先生には「関学教育をしっかりやってくれる学校です」と真剣に応援いただきたくさんの受験生を送っていただいたようです。
関西学院「不退転の決意」を担った尾崎八郎先生
小松原 校長として関西学院から尾崎八郎先生がやって来られたのですね。
安福 私も驚きました。単に〝第二中高〟で生徒を集めようというのではなく、関西学院の教育を広めていこうという不退転の決意を感じました。
小松原 関学OBで日能研保護者の中にもたくさんの尾崎先生ファンがおられます。正直、「関西学院の独特な教育を女子にもできるのか?」という声もありましたが、尾崎先生だからできたと言っても過言ではないでしょうね。安福先生の中学時代の恩師だそうですね。
安福 中学時代は特に担任でもなく授業で歴史を教えて頂いた関係でしたが、私が教師になってからはたくさんのことを相談にのってもらい、教師として育てていただきました。
小松原 その先生から声がかかったのですね。
安福 共学になるということで、25年の女子教育経験がある私が呼ばれお話をし、絶対にないと思いながら、「私で手伝えることがあったら声をかけてください」などと軽く口にしてしまった1年後、「手伝って欲しいんや。来てくれないか」と…結果的にこういうことに(笑)。
小松原 関学中高とはひと味違う独自の教育をされていますね。
安福 尾崎先生は「関学中高の亜流にするつもりはない。関学スピリッツを持ちながら、啓明らしい子どもたちを育てたい」という考えを持っておられました。関学中高で培ったプログラムを取り入れながら、啓明らしいチャレンジをし続けてきました。例えば、啓明は完全6年一貫としています。青島キャンプでは関学は大学生がリーダーになりますが、啓明では高3生がリーダーになり中学生の面倒をみます。関学で継続的にやってこられた読書教育を発展させ、独自の読書教育をつくり上げました。
大学に入ってから「いかに学ぶか」を厳しく教育する
小松原 国際教育への取り組みも早くから始めていますね。
安福 ごく普通の日本の学校ですが、国際校の実力を持つ学校にするという目標があります。帰国生の受け入れで学校内には空気のように国際色があり、一般の生徒たちも大きな刺激を受けています。大学生、そして社会に出て、世界で通用する国際人になりうる種まきをしています。関学大では、模擬国連や海外ボランティアなど国際交流プログラムに啓明卒業生が積極的に参加しているのは嬉しいことだと思っています。
小松原 大学継続校は入試がないことをどう活かすかがポイントだと考えています。啓明学院はどのような点を意識した教育をされていますか。
安福 おっしゃる通り、大学継続校はともすれば、甘えたでひ弱な子を育ててしまうという落とし穴があるということも認識しています。そこで、「いかにして大学に入るか」ではなく「大学に入ってからいかに学ぶか」を教育としています。受験勉強より啓明の勉強のほうが「しんどい」、そんな学びです。そのために大事にしているのが独自の読書プログラムで、その一つが、専門書をきちんと読み文献研究をし、最終的に論文を仕上げる授業です。
優しい心とたくましい力を持ちあわせた人に育ってほしい
小松原 小学校5、6年でジュニアアドベンチャーキャンプに参加して、啓明を目標にする子どもも多いですね。
安福 「プレテスト」ならぬ啓明は「プレキャンプ」(笑)。バーチャルな世界で生きている今の子どもたちに、生身の人間同士がぶつかり合う経験をさせることは大切です。世界の人たちの多様性を認め合いながら人間関係を築く力を付けるという意味でもキャンプは有意義だと思っています。
小松原 今後についてのお考えをお聞かせください。
安福 時代の要請に応えると同時に、今まで続けてきた教育をきちんと継続することも大事にしていきます。子どもたちには、他人の痛みを思いやれる優しい心と、その痛みを解決してあげられるたくましい力を持った人に育ってほしいですね。そのために新しいプログラムも含めて展開していきたいと思っています。
小松原 多様性を受け入れながら、自分の意見を持つ教育を続けておられる啓明学院に、今後も期待しています。
安福 朗(やすふく あきら)
啓明学院中学校・高等学校 校長
1954年神戸市生まれ。関西学院中学部、高等部から関西学院大学経済学部へ進み10年一貫教育を受ける。1977年松陰女子中学校高等学校に社会科教員として勤務。2002年啓明学院中学校がスタートする年に教頭として着任。以後、副校長を経て2015年より現職
小松原 健裕(こまつばら たけひろ)
株式会社 日能研関西 代表
甲陽学院高校、慶応義塾大学と中高大を私学で学ぶ。同大学法学部卒業後、日本IBMに入社。主に金融機関システムの提案に携わる。事業承継のため日能研関西に入社。授業担当科目は算数。京都本部長、副代表を経て、代表に就任。日能研関西本部業務全般に加え、日能研グループとの連携、私学教育の振興にも携わる