2018年
11月号
11月号
世界の民芸猫ざんまい 第六回
「我輩は 黒猫 である」 国芳の遊び心のアイデア
中右 瑛
猫好きの国芳センセイがアイデアマンぶりを発揮したのは、楽しい「文字絵」の遊びだ。
人と猫との単なる交流、生活ぶりを絵に表すだけではなくて、視覚のマジックを応用したものや新しい造型を創造したものなど、アッと驚かすアイデア、摩訶不思議なフォルムなど、アレ?これは不思議という「造形遊びの世界」が展開する。先ず文字を書き、その文字の中に猫やナマズ、フグ等をはめ込んで、楽しい絵に仕上げた。こうした「文字絵」遊びは子供たちにも大人気で、文字を覚える機会でもあり、教科本みたいなものとして親しまれた。
猫の「文字絵」をごろうじろ(挿図②)。文字のなかに猫とフグを巧妙にはめ込んで「ふぐ」という文字を形成している。文字「ふ」の中には三匹の猫と二匹のフグ。「ぐ」(旧文字・具)には七匹の猫。題簽は「猫の当字」となりフグが二匹泳いでいる。猫たちは思い思いのポーズ、表情を示している。
もう一つパロデイ絵をご覧に入れよう(挿図①)。擬人化された「猫の百面相」の表情は楽しい。各々猫の顔は役者の似顔絵となっている。当時、「天保の改革」により美人画や役者絵はご法度にもかかわらず、役者絵を刊行し、幕府のお咎めに、
「これは役者絵ではありません。猫たちのジャレ絵でござんす」
と、言い逃れた。したたかな反逆ぶりが表れている。
■中右瑛(なかう・えい)
抽象画家。浮世絵・夢二エッセイスト。1934年生まれ、神戸市在住。行動美術展において奨励賞、新人賞、会友賞、行動美術賞受賞。浮世絵内山賞、半どん現代美術賞、兵庫県文化賞、神戸市文化賞、地域文化功労者文部科学大臣表彰など受賞。現在、行動美術協会会員、国際浮世絵学会常任理事。著書多数。