10月号
世界の民芸猫ざんまい 第四回
「我輩は 黒猫 である」 猫好きの国芳センセイ
中右 瑛
最近の猫ブームは吾輩も驚き桃の木だ。各地の美術館で「猫ねこネコ展」が開催され、大盛況だという。東京の展覧会企画社から「貴コレクションに、ネコはありませんか?」との問い合わせの電話があり、ご主人さまは「ねこ展」に関心を示し始めた。
「猫好きなら、猫浮世絵を集めなされ!」
猫神様からご主人さまに、お告げがあったという。
「写楽一枚分のオアシで、猫コレクションが出来るかもね!」 と猫神様が煽り立てる。最近の猫ブームに乗り遅れはせぬかと、ご主人さまはこころ穏やかでない。先ずは、自分のコレクションをひっくり返しては、浮世絵に猫がいないかどうかを探索し始めている。猫の浮世絵を特に集めているわけでもないので、猫がいるわけがない。しかし「あった!」「あった!」と、まるで新発見でもしたように、子供のように燥いでいる。どうやら百匹ほどの猫を発見したらしい。幕末ごろ、猫ブームがあって、美人画に猫を添えた浮世絵が思いのほか多いのである。特に一勇斎国芳の作品に多く見つけたという。
国芳センセイは今、世界的に注目され最も旬の浮世絵師で、ダイナミックな構図、豪快な筆さばき、奇想天外なアイデアマンで、加えて反骨精神旺盛にして、風刺画、武者絵、妖怪絵、風景画、美人画、遊び絵など、なんでもござれの、万能の絵師である。みなはん方は、大ガイコツの絵でお馴染みでござろう。人気度は世界の北斎に次ぐほどの絵師である。
このセンセイ、猫が最も好きだったようで、すこぶる猫が多い。沢山な猫を飼い、仕事中でも懐に子猫を二匹入れて、絵を描く。猫が死んだら回向院に葬り、家には猫の仏壇があり、戒名を付け、過去帳もある。吾輩はじめ猫族にとって最も有り難く、頼もしい存在で、猫の絵が多いのも領ける。吾輩はセンセイと崇め奉っている。
■中右瑛(なかう・えい)
抽象画家。浮世絵・夢二エッセイスト。1934年生まれ、神戸市在住。行動美術展において奨励賞、新人賞、会友賞、行動美術賞受賞。浮世絵内山賞、半どん現代美術賞、兵庫県文化賞、神戸市文化賞、地域文化功労者文部科学大臣表彰など受賞。現在、行動美術協会会員、国際浮世絵学会常任理事。著書多数。