2013年
4月号

湊川神社 楠公武者行列を楽しもう

カテゴリ:文化人, 観光

湊川神社
宮司
垣田 宗彦さん

「楠公さん」として親しまれている湊川神社。いよいよあと一ヶ月と迫った「楠公武者行列」について、また湊川神社の歴史や今後について垣田宮司にお話しいただきました。

神戸市民が待ち望んだ楠公武者行列
私が宮司になって初めての楠公武者行列が、6年ぶりに5月26日に行われます。全89役で総勢800人、全長1㎞の大行列には、前回、前々回に続き楠木正成公は井戸知事に扮していただきます。鎧・甲冑だけで約30キロもありますからなかなか大変な役ですが、今回もご快諾いただきました。その他、副将・正季役には、俳優のあおい輝彦さん、菊水旗の騎馬武者には元阪神タイガースの濱中治さん、騎馬女房には落語家の桂あやめさんという多彩な顔ぶれです。その他一般公募していますが、やはり甲冑を付けた兵士や騎馬武者は人気ですね。二度目、三度目の応募の方もおられ、私ももちろん馬上にて神輿をお護りします。午前10時に湊川神社を出発し、楠町からメルカロード宇治川を経て湊川公園に進み、御旅所祭を行った後、午後1時同公園を出発、新開地商店街からハーバーランドへ南下し、乙仲通りを東へ進み大丸前から元町商店街を経て、午後4時に湊川神社に戻る全行程8㎞にも及ぶコースで行いますので、南北朝の歴史絵巻をたっぷりと楽しんでいただけると思います。
湊川神社は、明治5年、楠木正成公が殉節された5月25日をもって創建されました。明治7年には神輿渡御が行なわれ、大楠公を大将とする騎馬武者がこれに供奉したのが楠公武者行列の始まりです。京都の葵祭や時代祭、祇園祭などと同じく歴史的なお祭で御神幸ですから本来ならば、毎年行わなくてはならないものです。昭和40年までは毎年行われ、楠公武者行列はみなと神戸の華、神戸の夏の風物詩とも言われていました。しかしながら道路事情などで主に警備費に莫大な費用がかかりますので、平成14年に復活してからは5年毎に実施しています。実は昨年を予定していましたが、東日本大震災への義捐金を優先すべきと、1年延期しました。地域の皆さま、地元の企業さまにもご協力いただき、たとえ5年毎でもずっと継続してゆくことが、神戸ゆかりの偉人・楠木正成公と神戸の歴史への再認識を高めるきっかけとなり、神戸の更なる活性化に繋がることと信じています。
境内に大楠公の御殉節地と御墓所
湊川神社の長方形の境内地は、西北角に大楠公が弟・正季卿と刺し違えて殉節された地、その対角線上の東南角に御墓所があります。神社の境内に戦没地やお墓があるというのは非常に珍しいことです。神社は古事記や日本書紀など神話の神様を祀っているのがそのほとんどですが、楠木正成公という歴史上の偉人を神様として祀っているのがこの湊川神社の大きな特徴で、また国家皇室の忠臣を祀る旧別格官幣社の第一号として創建されました。
御墓所の傍らには、水戸黄門さまとして親しまれている徳川光圀公の銅像があります。大日本史を編さんされた光圀公が、大楠公をお慕いして墓碑「嗚呼忠臣楠子之墓」を建立され、大楠公の御盛徳を天下に顕彰されました。この御功績を追慕して昭和30年に光圀公の銅像が建立されました。
宝物殿には「段威腹巻」と「法華経奥書」という国の重要文化財2点が収められています。他に、横山大観より奉納された「大楠公像」の絵や前田青邨による大楠公の馬上の絵をはじめ、刀剣や武具など約400点も収蔵されています。
一年を通して賑わう楠公さん
湊川神社には、年間を通じて4つの大祭があります。豊作を祈る「祈年祭」、豊作を祝う秋の「新嘗祭」、武者行列が行なわれるのが5月25日の「楠公祭」、そして5月25日を新暦に換算した7月12日に行われる最も重要な祭「例祭」です。当初は武者行列も7月13日に行われていました。ところが明治のこの季節は大雨が降ったり、疫病が流行ったりと季節的にあまり良くなく、楠公武者行列の御神幸を、私祭として5月25日に戻しました。神戸に衣替えの季節到来を知らせるお祭になっています。
明治以降、日本では初詣という習慣が盛んになりました。当社でもお正月が一年で最も参拝者が多い時期です。今年も三が日で95万人にお参りいただきました。正門前からの参拝者の列が北の神戸市立中央体育館辺りまで続き、お参りできるまでに1時間半ほどかかるにもかかわらず、皆さん粛々とお参りいただき、信仰心に裏付けされた日本人の礼節と文化というのは凄いものだと改めて思いました。
「夏まつり」も氏子の皆さまが楽しみにされているお祭の一つです。ご本殿の東側には明治9年から天神様をお祀りする天満神社があり、そのお社の例祭、菊水天神祭が100年以上続いています。子供神輿が町内を巡行したり、鮎つかみを行ったりと子供のための楽しい行事をたくさん行っています。又、夜には櫓を囲んでの踊りで盛り上がり、近年ではもっと楽しんでもらおうと仮装で踊る「バサラ踊り」も行っています。
11月の七五三にも当社には期間中5千人の晴れ着の子供達のお参りがあり、境内はとても華やかです。特に「男の子は楠公さんにお参りする」というのが神戸のならわし、と昔の方はよくおっしゃいます。楠公さんにちなんで鎧兜の衣装も用意しており大変人気があります。
皆さんに親しまれる〝楠公さん〟に!
私の実家は、小野市の垣田神社の社家。奈良時代以前から続く神社で、代々宮司の家系です。三男の私が神職になるはずもないのですが、祖父母が付けた宗彦という名前のせいなのか、何故か小さい時から神職になるという自覚がありました。湊川神社前々代の吉田宮司と私の父が親しく、東京の國學院大學卒業後、湊川神社に奉職し、以来33年が経ちました。子供のころから楠公武者行列を、「わー、すごいなあ」と見ていたのですが、その神社にまさか自分が奉職するとは思ってもおらず、大変感慨深いですね。
御祭神の楠木正成公は、智・仁・勇の三徳を備えた武将であり優れた人格者です。多くの人に慕われ、特に幕末の志士達は楠公精神を心の拠所としました。坂本龍馬や勝海舟もお参りし、吉田松陰は四度もお参りをしています。
その後、神社が創建されてからも忠誠と正義、至誠の楠公精神は国民の鑑となりました。今の日本人が誇るべき礼節や信義を重んじる心は楠公精神に繋がるものなのです。
楠木正成公が日本の歴史の中で誇るべき人であり日本人の心の礎であるということ、又、神戸ゆかりの偉人であることを改めて皆さんに広く知っていただくのが、私が宮司就任の際に抱いた目標です。又、湊川神社は、都心の中にある緑溢れる清浄と癒しの空間です。皆さんに親しまれ、人々が集う神社にしたいと思っています。

楠公武者行列巡行路


昭和10年に行われた大楠公600年大祭の御神幸



垣田 宗彦(かきた むねひこ)

湊川神社宮司
1957年神戸市に生まれる。1980年國學院大學文学部神道学科卒業。1980年湊川神社奉職。1981年湊川神社権禰宜。2003年同禰宜、2008年楠公会館支配人。2009年湊川神社権宮司。2012年宮司に就任、現在に至る。神宮評議員、神社本廳参与。

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