9月号
家づくり 〝だけじゃない〟平尾工務店 「食の安全」を目指して
人と環境にやさしい自然素材を使用した家づくりで注目を集める平尾工務店だが、
その視線の先には「安心できる暮らし」がある。〝住〟の枠を超えた〝食〟への取り組みを紹介しよう。
野菜のふるさとが工場?
加東市天神にある平尾工務店の本社からほど近い、丘の上の一角。屋根の上に太陽光パネルが載った建物に入ると、ガラス窓を隔てた向こう側に「畑」が広がっていた。
ここは平尾工務店アグリ事業部が手がける植物工場「アグリらぼ」。栽培室の中には棚がズラリと並び、そのパネル上に緑の葉がひょっこり顔を出している。「育てているのはフリルレタスです。育つと葉の大きさが揃い、使いやすいんですよ。養分を含んだ水を土の代わりにする水耕栽培で、LEDの光を浴びてぐんぐん育ちます」とアグリ事業部の鷹尾賢一さん。しかもLEDの電源は太陽光も電源に使用したエコな電力だ。一般的な露地栽培よりも早く成長し、約40日で出荷できる大きさになるという。光を当てる時間や温度をコントロールすることによって、成長に最適な環境を整える。心なしか、レタスたちも心地よさそうだ。
栽培室内は外と完全に遮へいされ、クリーンな状態。ゆえに雑菌や害虫、空気中の汚染物質が付かず清潔。露地物に比べ腐敗しにくく、日持ちがすることもメリットだ。そんな箱入りならぬ部屋入りの「お嬢様育ち」だが、芯は驚くほどしっかりしている。細胞や繊維に元気があるからなのだろう、食べるとみずみずしくてシャキシャキ感が強い。火を通しても心地良い食感は失われないので、レタスしゃぶしゃぶやレタスチャーハンなどいろいろな料理にも重宝しそう。
工場ゆえに自然環境に左右されないため災害に強く、安定した出荷が可能。しかも、常に好適な環境で育てるため、言わばいつでも「旬」で、レタスの市場価格が上がる端境期の出荷など計画的に栽培できる。収穫後は速やかに鮮度保持フィルムでパックし、出荷までのスピードも迅速なので、新鮮なまま出荷できるのも強みだ。現在は自社のオンラインショップでの直売のほか、道の駅とうじょう「コスモスの館」・JAみのり「ふれすこ社店」など近隣の農産物直売所、ゴルフ場などに出荷しており、月一度、神戸の「木心の家 自然派ライフギャラリー」での直売もおこなっている。新たに神戸や滋賀県のレストランから引き合いがあるなど、飲食店への販路も拡がっている。
試行錯誤の上に創業以来のものづくりの技と創造力を結集、栽培設備を自社開発して生産量を2年間で5倍向上させ、現在は月産1万2千株程度の生産能力を有している。将来を見据え、アイスプラントなど新たな野菜の栽培や、一定した品質を武器に全国のハンバーガーショップやサンドウィッチ店などへの販路拡大にも取り組んでおり、さらに規模を拡大した工場での栽培も検討中だ。
和気藹々のダイニング
とれたてのレタスの一部は、本社にある社員食堂のキッチンへ。ここでは若い調理スタッフと社長夫人が自慢の腕を振るっている。
平尾工務店の朝は、一杯のスムージーからはじまる。現場に向かう社員も、内勤のスタッフも、ビタミンと食物繊維がギュッと詰まったスムージーをゴクリと飲み、元気よくそれぞれの持ち場へ向かう。アグリらぼのレタスはクセが少ないから、たっぷり使っても完熟バナナと合わせるだけで飲みやすいとか。
そして昼は、手づくりのランチ。レタスはもちろん定番。木心ファームでとれた野菜のほか、社員たちが家庭菜園で採れた野菜を持ち寄ってくれることもあり、いつも旬の野菜たっぷりでヘルシーかつボリューミーなメニューだ。
日替わりでメニューが変わるが、人気ベスト3は春巻き、照り焼きチキン丼、カツカレー。タコライスや人気喫茶店からヒントを得たピザトーストなどもあり、バラエティ豊かなラインナップだが、なんと1食300円。この価格で盛りだくさんのランチがいただけるなんてうらやましい!
夜にはお弁当も用意。独身の若い社員だけでなく、美味しいのでわが家の食卓にと持ち帰るケースも多いとか。
安全作業はまず健康な体と精神から。社員の健康を気遣い、女性スタッフの家事軽減も狙って始まった社員食堂だが、「一緒に食事をすることで、コミュニケーションが向上するという良い結果も生まれています」と平尾博之社長。食事中はできるだけ仕事の話をしないようにしているそうで、ランチタイムは笑顔がこぼれる和やかなムードだ。
そうさせているひとつの要素は、社員食堂の空間。フランク・ロイド・ライトの思想を受け継ぐオーガニックハウス「ユーソニアシリーズ」のモデルハウスも兼ねており、居心地の良さは折り紙付きだ。
「PM2・5などの汚染物質や原発事故、放射性物質がニュースを賑わせているいま、自然環境への期待が薄れています。私どもはこれまで、建物に自然素材を使い、空気環境など〝住の安全〟に注力してきましたが、〝食の安全〟も同じレベルで考えています。一方で建設市場は縮小し、今後建物余りの時代が来るでしょう。植物工場は遊休施設活用にも繋がります。〝住〟も〝食〟も同じコンセプトで、より安心できる暮らしの提案ができれば良いですね」と平尾社長。
〝住〟と〝食〟がより有機的に結びつく社会へ向けて、平尾工務店は時代の一歩先を歩んでいる。