12月号
私のKOBEデザイン2 魅力ある街で心地よく暮らす“神戸移住”のすすめ
古くて使われていないなどの理由で神戸とその周辺に埋もれている、おもむきのある物件情報を収集・紹介し、移住促進計画を実行する「神戸R不動産」。ここに至る経緯と現在、そして今後への展望をお聞きした。
街づくりへの興味
私はサッカー一筋、大学でも体育会系サッカー部。3回生になったころ、このまま自然な流れにのって就職していいのか?と考え始めました。でも一体自分が何に興味があるのか分からない。そんなとき出会ったのが環境問題を取り上げた「成長の限界」、たしか…このままでは50年後に地球はつぶれてしまう、そんな内容が感覚論ではなく論理的に示されていました。それ以前に、海外へ行く機会もあり、「日本の街は雑然として見かけが美しくない」「海外の街はコミュニティーがしっかりしている」というイメージも持っていました。そんな経緯があり、街づくりに興味を持つようになり、日本中の小学校の校庭を芝生に変える仕事ができたらいいなあなどと漠然と思い描いていました。
アメリカで学んだこと
経済学ではない分野をアメリカの大学で勉強し直そうと考えたとき、「無理矢理でも大学院に進まなくては意味がない」というアドバイスをいただき、従うことにしました。英語もほとんど喋れず初めはかなりしんどかったのですが、結果的には良かったと思っています。カリフォルニア大学アーバン校に新設された都市計画プログラムで、街づくりに関していろいろな角度から複合的に考え、論理的に文章を書くトレーニングをものすごくしました。また、全く違った環境で育ち違った視点でものごとを見る、人種を越えた友達の存在も大きかったですね。お金には興味はない、社会に奉仕できる仕事がしたいという彼らの思いは、それまで出会ったことのないものでした。
森ビルでの仕事経験
卒業後、一度は〝造る側〟の経験をしようと、当時非常にチャレンジングな仕事をしていた森ビルに就職しました。世界中から様々な分野の一流の人たちが集まり、その知恵を集結させた六本木ヒルズ建設プロジェクトの中で、主に海外のコンサルタントからの提案を取りまとめて形にする仕事。と言っても、まだ新入社員でしたから取り次ぎ役でしかなかったのですが、彼らの熱意や提案力を身近に見て新鮮な感動がありました。
R不動産との出会い
一方で「再開発という手法だけが正しいのか?既存のものから動かしていく手法はないのか?」。若かった私はそんな思いを持っていました。その頃、森ビルの同僚を介し、今の東京R不動産の創業メンバーたち(当時は、別の不動産会社の社員)と交流を持つようになりました。新しいビルがどんどんできる一方でヤマのようにできる使われない箱、つまり空きビルをリサイクルする流れを作らなければいけないと、2002年に彼らの一人が中心になって「Rプロジェクト」という本を自費出版しました。私は当時住んでいたロサンゼルスで取材の手伝いをし、再利用されているいくつかの物件が誌上で紹介されました。数年を経て、大阪基盤の不動産企画開発会社でホテル再生など複数のプロジェクトに関わっていた頃、本屋で見つけたのが「FROM OREGON WITH DIY」です。ポートランドという街の魅力に触れ、独立を考え始めたときに改めて頭に浮かんできたのがR不動産でした。
神戸で治まった〝引っ越し病〟
実は、私は約10年間で25回の引っ越しをしました。シェアハウス、友達や彼女の家に居候なども含めですが(笑)。何でもやってみないと分からない、街は住んでみないと分からないと思っていましたから。大阪で仕事をしているときに「神戸に一度住んでみよう」と物件を探し、見つけたのが北野にある古い外国人マンション。家賃が意外とお手頃、住んでみると妙に気持ちいい。仕事を終えて坂道を上って帰ると空気が良くて、住宅街として成熟していて、週末も楽しめる街。「こんな素敵な暮らしがあるんだ!」と思ったとき、〝引っ越し病〟が治まっていました。4年間暮らし、この街に住み続け、オフィスを置こうと決めました。
〝グッとくる〟物件を発掘
物件を探すにあたっては、「古くて、趣がある」などと希望してもそのニュアンスが不動産屋さんに伝わらない、もどかしい思いを経験しました。一人ひとりが本当に欲しい物件に出会うためのマッチングが必要だと考えました。
R不動産が紹介する物件には明確な判断基準はないのですが、全国のR不動産は同じベクトルを向いています。グッと胸に迫る〝シズル感〟があるかどうか、感覚的なものです。強いて言えば、一つのキャッチコピーと一つのメインカットに使えるほどのスゴイ個性があるかというのが基準でしょうか。神戸とその周辺の物件には、海を見おろす、山の中、坂の上、異国情緒などいろいろな個性がありますが、例えば、私が神戸で初めて住んだマンションは、間取りや景色が個性的で海外生活の経験がある人ならきっと心地よく過ごせます。外国人コミュニティーが山の手から六甲アイランドに流れ、こういった物件が空き家になっているケースが多くありながらあまり知られていないのが現状です。
移住促進計画
外部から人が入ってくる流れを作らなければ街は活性化できません。観光という方法もありますが、神戸・阪神間は居住都市として世界一も目指せる魅力を持っています。3人家族10組が365日来てくれたら、年間1万人の観光客以上の消費が生まれるはず。R不動産のインフラを使い、移住という流れを作れないかと考え、準備期間を経て2011年に神戸R不動産(※)を本格スタートさせました。当初は絵本作家さんやIT系プログラマーなどフリーランスでクリエイティブな仕事をする人が家族で移住してくるケースが多かったのですが、最近は価値観を変えてみたい、東京一極集中から逃れたいなどという移住者が増えてきています。当初の想定をはるかに上回り、首都圏からだけでも約30組の移住者がやって来ました。人が人を呼び、経済活動の流れもついてきます。
街の生活を実体験してみよう!
昨年は、「神戸移住のための地図」を作成し、東京R不動産なども介して1万5千部を配布しました。神戸の山と海の位置関係を立体的に表現した生活地図です。観光地ではなく、生活したら利用できる場所や遊びに行ける場所などを紹介しています。今年9月には、「全国のR不動産 面白くローカルに住むためのガイド」が出版され、またWEBサイト「real local‐リアルローカル」を公開しました。全国の移住者たちがどんな感覚で生活しているかをはじめ、コミュニティーやイベント、仕事の情報なども掲載しています。
移住するにあたっては、旅を重ねることから始めて、実際の生活を体験してみて、知り合いを作り関係を深めながら時間をかけて引っ越すケースがもっとも理想的だと思います。私たちは生活体験のホスト役や一時的に住みながら働くワークレジデンスの受け入れなど〝寄生木〟機能を果たしていきたいと考えています。
※「Real Kobe Estate/神戸R不動産」=「東京R不動産」提携のもと、新しい視点での不動産を発見し紹介していくサイト。運営及び、サイト上の不動産物件の仲介は㈲Lusie(宅建業免許番号:兵庫県知事(1)第11438号)が行なっている
神戸R不動産
http://www.realkobeestate.jp
Lusie Inc.
代表取締役 小泉 寛明さん
1973年兵庫県生まれ。関西学院大学経済学部卒。カリフォルニア大学アーバイン校ソーシャルエコロジー学部都市計画修士号。1999年森ビル株式会社に入社、六本木ヒルズの立ち上げ業務に従事。2010年神戸にてLusie Inc.の代表取締役に就任。