10月号
フェリーさんふらわあで行く 佐伯 延岡 東九州伊勢えび海道
旬を迎えた伊勢えび、清澄な海の絶景
城下町の情緒を訪ね東九州、佐伯・延岡へ
味も姿も「海の王様」
黒潮からの流れと瀬戸内からの潮が交わる豊後水道は、国内屈指の好漁場として知られているが、その南部にあたる大分県佐伯市から宮崎県延岡市にかけてのリアス式海岸、日豊リアスには「海の王様」が住んでいるという。
それは伊勢えび。いかつい赤備えの鎧のような体に、大きく伸びた髭。昔から縁起物として親しまれてきたことは言うまでもない。
ここの伊勢えびは、入り組んだ海岸の湾口部に多く生息。貝などの餌に恵まれ、程良い波や潮にもまれているため、身の締まりがよく旨味が強いのが特徴だ。
刺身を実際に食してみると驚く。身が舌に吸い付き、そこから甘みと旨味が強烈に放たれる。そのインパクトは、かに以上かもしれない。醤油がいらないくらい味が濃いが、とろり甘口の九州のさしみ醤油とも相性が良く、甘さのハーモニーが旨味を引き立てる。シコシコとした食感も小気味よく、噛むほどに旨味が口いっぱいに広がる。
火を通すと、その食感は劇的に変化する。炭火で豪快に焼けば、ぷりぷり、否、ぶりぶりっと。歯ごたえはもはや快感。刺身同様、甘みと旨味が豊かで、かぼすを少し搾って食べると風味が増す。頭部の味噌は濃厚で旨味が上品、身に絡めて食べれば味の深みが増し、至福すら感じる。
伊勢えび汁もまた、その味を満喫するには欠かせない。えびの髄から出た出汁はあっさりしながらふくよかに舌を包むような旨味があり、九州ならではの甘口の味噌と絶妙にマッチ。最後の一滴まで旨さが貫かれている。
そして、産地で食べるのはやっぱり美味しい。それは、気分的な問題だけではない。まず、新鮮そのものであること。えび特有の臭みなど全くないし、身の持つポテンシャルが高い。調理は食べる直前。ついさっきまで目の前の海に、調理前には生け簀にいた訳で、それが可能なのは産地の利だ。次に、料理人たちが伊勢えびを熟知していること。今回取材したお店は網元さんのお店と、漁港にある漁師の通うお店だったが、地元の人は素材の持ち味を知り尽くしている。さらに、肩肘張らずに食べられること。都会で伊勢えびとなると高級なお店ばかりだが、地元では庶民的なムードで、料理も洗練よりも豪快というスタイル。手づかみで大胆に食べるもよし、かぶりつくもよし、リラックスしながら味わうことに集中できる。
伊勢えびのシーズンは秋。9月から11月にかけて、佐伯・延岡両市では「東九州伊勢えび海道・伊勢えび祭り」を開催、スタンプラリーやフォトコンテストなどイベントが盛りだくさんだ。風光明媚な海岸線は「日本風景街道」にも選ばれており、ドライブすれば爽快、道の駅も点在し充実している。美しい味だけでなく、美しい景色とも出会える。
蒲江おさかな村(龍栄丸)
網元直営のお店。蒲江沖の定置網で獲れた伊勢えびを、年間を通じ予約なしで味わえる。100グラム1300円の量り売りで、刺身や炭火焼きなど好みの料理に調理してくれる。海を眺めながら舌鼓を。
TEL.0972-42-0788
佐伯市蒲江大字猪串浦153-1
11時~17時(水曜休)
民宿・お食事処 臨港
地元の漁師が通う店。伊勢えびコース(6000円~)は刺身と伊勢えび汁のほか、目の前の北浦漁港で揚がった旬の地魚を満喫。宿泊は1泊2食10000円~で伊勢えびが堪能できてリーズナブル。
TEL.0982-45-3571
延岡市北浦町市振29-14
11時~14時/18時~20時(不定休)
※要予約
時を旅する2つの城下町
楽しみは伊勢えびだけではない。佐伯と延岡はともに歴史ある城下町で、ぶらり散策に好適だ。
佐伯の街は昔の面影を色濃く残している。佐伯城三の丸櫓門から養賢寺にかけての約500mは、かつて武家屋敷が立ち並んでいた山側に白壁の土塀が続き「日本の道百選」にも選ばれている。途中には佐伯ゆかりの文豪、国木田独歩の記念館がある。その建物はかつての殿様の別荘「お浜御殿」を移築したもので、独歩もここで下宿していたという。茶室「汲心亭」や観光交流館など適度に休憩できるスペースがあるのも嬉しい。
櫓門の前にはこの春、佐伯市歴史資料館がオープン。その敷地内の「毛利家御居間」は、殿様の暮らしの一端を今に伝えている。
観光ガイドさんと街を歩けば、街に佇む井戸の逸話を聞いたり、藩主・毛利家代々の墓所を訪ねたり、より深く歴史を実感することができる。個人申込の場合無料。詳しくは佐伯市観光協会まで。
一方、延岡の見どころはお城。その見事な石垣には「千人殺しの石垣」と穏やかではない名が付けられているが、これは一部の石を外すと石垣が一気に崩れ、千人の敵を殺すことができるからだとか。
延岡城の西の丸にあたる場所にある「内藤記念館」は、藩主を務めた内藤家より寄贈された世界的な能面のコレクションを所蔵している。古くは能の草創期、室町時代のものも。「天下一」の称号を持つ能面作家は桃山~江戸初期の7名とされているが、そのうち6名の作品が揃っている。もともと延岡は能が盛んで、代々の藩主は神事能を毎年開催してきたそうだが、今も「のべおか天下一薪能」を千人殺しの石垣の前で毎年秋(今年は10月10日)に開催しており、その期間に合わせて貴重な能面の展示がおこなわれている(今年は10月18日まで)。
東九州道の開業でアクセスがよりスムーズになった佐伯・延岡には、伊勢えびのほかにもグルメ満載。美しいリアスの景観や歴史の街も旅情をかき立て、きっと思い出に残る旅路となるだろう。さあ、神戸からさんふらわあで、伊勢えび海道へ出かけよう!