1月号
連載 ミツバチの話 ⑥
天敵スズメバチ
藤井内科クリニック 藤井 芳夫
ミツバチは家畜
守らなければならない
ミツバチのことを色々書いてきたが、ミツバチは家畜であるので守らなければならない。ミツバチの天敵は同じ蜂の仲間のスズメバチである。日本ミツバチはある程度はスズメバチに対応することができる。蜂球と呼ばれる方法で、一、二匹のスズメバチなら集団で囲み、オシクラ饅頭で、中にスズメバチを閉じ込め蒸殺するのだ。
一方、西洋ミツバチはその様な対抗手段をもたないため、養蜂家が守らなければ全滅する。日本ミツバチが多くの場合野生であるのに対し、本邦では野生化した西洋ミツバチの報告がない点からも理解できると思う。スズメバチは攻撃的で、刺されると生命に危険が及ぶことがあるのは周知の通りであるが、今回は養蜂の視点からスズメバチ対策について述べる。
スズメバチ撃退法
スズメバチは何種類かある。やってくるのは主にオオスズメバチとキイロスズメバチであるが、オオスズメバチの方がさらに攻撃的である。当方では5月から7月まで採蜜するが、その期間、スズメバチはほとんど来訪しない。8月の半ば過ぎから、9月、10月、11月とミツバチを襲いに来る。養蜂を始めて6年目になるが、このスズメバチ対策の如何によって、翌年のハチミツの収穫量が左右されると言っても過言ではない。最初の1年か2年目のころは巣箱の入口(巣門)の部分を狭くし、スズメバチが容易に侵入できないようにし、巣門の前にスズメバチ捕獲器を取り付け、さらに粘着シートのネズミ捕りを巣箱の上に置いて防御していた。
スズメバチはいきなり集団では襲ってこない。まず偵察がやって来て色々情報を集め、一旦本部に戻ってから大挙して押し寄せるのである。一度に20匹ほどで来られると対処していなかったら2時間ほどで全滅だ。巣箱の入口はミツバチしか通れない広さにしているので、数の多いミツバチも簡単には巣に入ることが出来ず、巣門はミツバチでごった返している。そこに偵察のスズメバチがやってくると、ミツバチは弱いくせに巣を守るため果敢にもスズメバチめがけて突進していく。迎え撃つスズメバチは突進してくるミツバチをいとも簡単にかみ殺すが、多勢に無勢でミツバチに追われてスズメバチ捕獲器の中に逃げ込む。捕獲器はミツバチが通れてスズメバチは通れない金網で出来ており、二階建て構造になっている。蜂のように昆虫は高いほうへ登っていく性格があるのでこれを利用する。二階は外には出られない仕組みになっているので、二階に上がったが最期、スズメバチは捕獲される。8月を過ぎると沢山のスズメバチが捕獲器の中にトラップされる。
さらに様子を見に来たスズメバチが巣箱上の粘着シートに着地した途端、そのネバネバがくっついて身動きが出来なくなり、もがきながらも助けを呼ぶフェロモンを出す。あるいは攻撃フェロモンを出すとも言われているが、仲間のスズメバチが舞い降りてきて、またまた捕獲されることになる。この方法で有効なのはオオスズメバチである。キイロスズメバチは仲間を助けには来ない。
もうひとつの方法として、ペットボトルに砂糖水を入れエビオス錠など酵母菌を加えると発酵しスズメバチが寄ってくる。入るに容易で、出るのに困難な窓を作ると簡易捕獲器が出来上がる。それを巣箱の周りにつるしておけば、ペットボトル一杯のスズメバチを捕ることができる。市販されているハチトリもあり、これは劇とれだ。殺虫剤を使うとスズメバチだけでなくミツバチもやられてしまい、ハチミツも駄目になるので、このような方法で対処するのである。しかし、油断するとあっという間に巣箱の前に犠牲になったミツバチの山ができる。
バドミントンのラケットでスズメバチを叩き落す
そこで現在は、8つの巣箱をすっぽり覆うニワトリ小屋のような金網の小屋を作っている。この金網はミツバチが通れてスズメバチは通れない。金網で覆うとミツバチはかなりストレスを感じて?いるようだが、スズメバチの餌になるよりはましである。しかし、スズメバチは小屋の周りを飛び回り、外勤から帰ってきたミツバチを空中でたやすく捕まえ、大きな顎であっという間に肉団子にしてさらっていく。巣に帰ってくるミツバチは花蜜と花粉を一杯積んでいるので、動作が鈍くゆっくりと飛んでいるからである。スズメバチはただ生きるためにミツバチを襲っているだけなのであるが、それを黙って見ている訳にはいかない。
実は、百円ショップで買ってきたバドミントンのラケットで、この忌々しいスズメバチを叩き落すのである。スズメバチはミツバチを狙ってゆっくりと飛んでホバリングしている。スズメバチはまさか自分が狙われているとは思っていないので、こちらに対しては無警戒である。そこで軽くスナップを利かして叩き落すのである。叩き落したスズメバチで気絶しているものは、翅をそっと掴んでネズミ捕りの粘着シートの上に乗せる。しばらくすると仲間のスズメバチが「おい、どうした?」とかで集まって来てネズミ捕りの上に降り立ったが最期、ネバネバに御用となるのである。
私は学生の時、バドミントン部に属していたので、私にとってはいい運動でストレス解消になる。もちろんエピペンというアドレナリン注射は用意しているが使ったことはない。しかし、読者の皆様は決して真似をしないでほしい。スズメバチ退治は役所か業者に依頼すること。刺されると大変なことになります。
藤井 芳夫
藤井内科クリニック