9月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.2
形成外科分野足病医学部門 辻 依子先生に聞きました
私たちの歩行を日々支えている「足」。そのトラブル「足病」は健康寿命をも大きく左右します。神大病院に開設された専門部門の辻依子先生にお話を伺いました。
―足病医学とは。
昔、靴を履く文化があるヨーロッパでは貴族たちの足を専門にケアする付き人がいたそうです。その後、足トラブルに特化した靴職人さんがドイツからヨーロッパ全土へ、そして靴を履く習慣のある世界の国へと広まりました。次第に役割が分化し、医療的処置に特化する足病医学が確立されました。西洋医学が取り入れられたころの日本では靴を履かなかったので足病は除外されたのでしょうね。以来100年以上、学ぶ機会がないまま現在に至っています。
―今や靴を履く日本も、例外ではなくなったわけですね。
治療と並行して、研究や教育も担っていこうと「足病医学部門」が開設されました。しかし、指導に当たるべき足病専門医が日本にはいません。私は形成外科医として長年、糖尿病患者さんの足病治療に携わってきましたので、恩師の寺師先生から声をかけていただき、今年4月からその任を担っています。
―日本独自の足病医ですね。どんな役割を担うのですか。
足病の陰にはいろいろなバックグラウンドが潜んでいます。多くの診療科の専門医や看護師をはじめ、血流を回復させるためには循環器内科や放射線科、手術後にはリハビリテーション科、さらに歩行を補助する装具を作る義肢装具士、退院後の生活のためには支援センターや社会福祉士など、幅広い連携と協力が必要です。まだ開設したばかりなのでその都度、個別にお願いしている状態です。全てをまとめてチームで治療に当たる体制をつくるのが当面の役割だと思っています。
―リスクが高いバックグラウンドが糖尿病ですか。
糖尿病の患者さん全ての足病が重症化するというわけではありません。動脈硬化が進み血液が回らなくなると心筋梗塞や脳梗塞が起きるのと同じように、足の先にも血液が回らなくなり末梢動脈疾患が起きます。足が冷える、しびれるという症状が出て、歩くと痛み、次第に耐えられないほど痛み始めます。糖尿病で末梢神経障害を併発している場合、痛みを感じないままに進行し、受診したときには手遅れで壊疽になった部分を切断せざるをえないケースが多いのです。
―私たちにできることは。
爪が分厚くなったり白くなったりしていないか、靴が履きづらくなっていないか、足裏にマメやタコができていないかなど1日1回は明るい所でご自身の足をチェックすることです。そして糖尿病や自己免疫疾患などの持病がある場合、異常に気付いたら主治医に相談してください。持病がなくても、年齢とともに血管が傷み痛みに気付きにくくなります。周りに高齢の方がおられたら、足の状態を見てあげてください。歩けなくなると心臓が弱ります。健康寿命のためにも歩行機能は大切です。
―ちょっとした足のトラブルで病院には行きにくいです。
何科を受診したらいいのかも分からないのが現状でしょうね。すぐに相談できる医療体制を作らなくてはいけませんね。私たちの責務です。
辻 先生にしつもん
Q. 辻先生はなぜお医者さんになったのですか。
A. 実験が好きで「検査技師さんになろうかな」と思っていたのですが、親から「医学部を目指したら?」と勧められたことがきっかけでした。ところが本気で医学を志したら「そんな大変な仕事はやめたほうがいい」と(笑)。最終的に応援してくれました。
Q. 心に残っている旅の話はありますか。
A. 2012年に寺師先生や医局員と行ったアメリカです。足の学会への参加が目的だったのですが、観光もすることができました。写真でしか見たことがない雄大な渓谷やリンカーン像を見学したり、と非常に楽しかったのですが、時差ボケがひどく、ほとんど寝られなかったのが一番の思い出です。