10月号
対談/進化する名門私立中学校 第2回 神戸女学院中学部
自ら学ぶ姿勢と好奇心をもって、自由にのびのびと
神戸女学院中学部・高等学部 部長 林 真理子
日能研関西本部 代表 小松原 健裕
名門私立中学へ多くの塾生を合格させている日能研関西。
代表の小松原健裕さんと関西の名門校校長の対談。
第2回目は神戸女学院中学部・林真理子部長にご登場いただきました。
恵まれた環境と自由な雰囲気
小松原 神戸女学院はヴォーリズによる建物や庭園が美しいだけでなく、学舎内の空間が優雅ですね。ヴォーリズ夫人も卒業生だそうですね。
林 本校音楽部を卒業されて英語にも堪能だった一柳満喜子さんを、朝ドラで話題になった広岡浅子さんがヴォーリズ氏に通訳として紹介されたと聞いています。お二人の結婚には障害が多かったのですが、浅子さんの助言で解決したとか。やはり卒業生で『負けんとき』の作者・玉岡かおるさんから伺いました。
小松原 恵まれた環境の中で、生徒さんたちが明るく闊達、とにかく楽しそうです。学校環境の中高生へ与える影響は少なくないため、日能研でも、この環境と雰囲気に憧れて進学を希望する子がとても多いです。
林 学舎の美しさはもちろん、小高い丘の上にあり四季折々の自然も豊かです。11月のキャンパス見学会には、受験生に限らずもっと小さな子どもさんをご両親や祖父母様が連れて来られます。講堂横の廊下で「ハリー・ポッターのホグワーツみたい!」と感動したり、庭の花や虫に興味津々だったり…。制服がなく思い思いの服装をした在校生が案内しますので、自由な雰囲気が感じられるのではないでしょうか。
小松原 いろいろな学校を訪ね、新しくて綺麗な校舎を目にすることは多々ありますが、歴史があり美しいという校舎は希少価値があると思います。「本物に触れられる」この環境で6年間を過ごせるのは素晴らしいことですね。
「愛神愛隣」「自由と自治」
林 神戸女学院は141年前、2人のアメリカ人女性宣教師によって創立されました。当時の日本では、女性は伏し目がちに男性の後ろを歩くという風潮がありましたが、本学では相手の目を見て話し、しっかり背筋を伸ばして歩く自立心の強い女性を育成する建学の精神を貫いてきました。その後、軍部の規制下でも捨てることのなかったキリスト教精神による「愛神愛隣」と共に、「自由と自治」という言葉を大切に守ってきました。例えば本校では教員ではなく、ほとんど高2、高3生が呼びかけ、他の生徒が協力する形で規律が守られています。生徒たちは学年が進むにつれて、学院の伝統を継承する責任感をもつようになり、また下級生も憧れの上級生にならって規律を守らなくてはと思うようです。
小松原 中1から高3までが一緒にいるという中高一貫校の良さが表れていますね。高3にもなると反抗期も通り過ぎ、落ち着いて指導できるのでしょうね。反抗期真っ只中にいる子どもたちは、先生の言うことは聞けなくても、先輩の言うことなら素直に受け入れられるのだと思います。
「4科目+体育」受験の意味
小松原 神戸女学院の入試問題は全て難しいのですが、中でも国語は難問です。社会を含めた4科目に加え、体育があることは大きな特徴です。
林 国語の入試問題はしっかり文章を読ませ論述させる問題が多いですが、これは読解力が全ての学問の基礎だという考えに基づくものです。暗記の多い社会は負担が大きいと思うのですが、女子の場合は社会一般に関する基本的知識をもって中学に入ってくると、その後学習の様々な面でよい影響があります。体育実技は120年以上続いており、「身体・精神・霊魂のバランスの取れた人格を形成する」という建学の精神に基づくものです。運動が得意かどうかではなく、苦手種目も最後まで全力で取り組む姿勢を重視しています。もちろんハンディをもっておられる子どもさんへの配慮も怠っていません。幼い受験生ですから、何かの科目で失敗しても気持ちを切り替えて挽回する余地を与えてあげることも大切だと思いますね。
小松原 確かに、4科目の方が受験本番で力を発揮しやすいですね。女子は苦手を自分で決めつけてしまう傾向がありますが、実際はそんなことはないんです。ちょっと失敗しても、4科目とも点数は取れるとポジティブに考えて受験に臨めるようにもっていく工夫がいります。女子にやる気を出させるには、全員に満遍なく声をかけること。男子は声が掛からなければ「ラッキー!」と思うようですが(笑)。男子、女子それぞれの接し方、教え方は気遣いが必要ですね。
林 特に性差がはっきりしてくる思春期の男女には心や体の面はもちろん、勉強の面でも違いが出てきます。この時期には男女別に教育を受けるほうが、伸びが大きいと言われています。共学校で教べんをとった私の経験から個人的に思うのは、共学校ではしんどい仕事、力の要る仕事は「男子がやる」と考える傾向にありますが、女子しかいないと自分たちでやるしかない(笑)。ジェンダーの枠組みにとらわれず、のびのびと力を付けているように思います。
自ら学び取り、社会に役立てる
林 私の専門は英語ですので、スピーチやシナリオリーディングのコンテストなどでいろいろな学校の生徒さんを見る機会があります。完璧に暗記し、正しい発音だけれど「心」が入っていなければ、「よく練習できましたね」で終わってしまいますが、全身全霊で発表内容を表現している場合は、発音が完璧でなくても人の心を打ちます。学校での学習も同じです。自分が主体となり心から学び取ろうという姿勢をもち、さらに学び取ったものを教室の外へ出て社会参画というかたちで発展させていく力が、卒業後の社会での活躍につながるものです。
小松原 神戸女学院中高で学び、大学受験で大きな成果を挙げ、卒業後も活躍している女性はたくさんいます。でも、決して進学実績を公表なさいませんね。
林 本校では大学受験に特化した指導はしていませんし、偏差値に応じて受験する大学を絞り込ませることもしていません。もちろん進路指導はしますが、生徒たちは何がしたくて、そのためにどんなキャリアに就きたいかというしっかりとした考えをもっていますから、どんな道を選び、何を学ぶのかは本人次第。受験において私たちは伴走者としてサポートするというスタンスをとっています。合格するのはあくまでも本人の努力であって、学校の実績ではありません。生徒たちが、卒業後どんな人生を歩み、キリスト教精神に基づいて社会や他者に奉仕できるかを重視しています。
小松原 日能研から神戸女学院中学部に進んだ子どもたちが、大学に進学して生き生きと好きなことを学び、社会に出て活躍している様子を目の当たりにすると、ついついもっと広くアピールしたいと思ってしまいます(笑)。
林 学年約140人のうち、日能研さんからは毎年約40人が入学してきます。みんなとても優秀で、好奇心をもっていろいろなことに挑戦していますね。全国高校生英語ディベート大会で優勝したメンバーのうち2人が日能研出身です。そのうちの一人は、東大のスピーチコンテストで大人たちを相手に全国3位になり、バトミントン部員としても試合で活躍しました。もう一人は、女子ヨーロッパ数学オリンピックでも世界大会に出場しましたし、ピアノもとっても上手で、文化祭のクラシックコンサートで活躍しました。
小松原 私どもは、受験は単なる通過点であり志望校に入学するところが始まりだと考えています。小学生で基本的な知識を勉強して中学校へ進むのですが、神戸女学院では自由な雰囲気の中、普段の生活を楽しみながら興味のあることに突き進んでいる様子がよく分かります。お互いに認め合いながら伸びていける指導をしていただくことは、子どもたちにとって幸せなことだと思います。
林 与えられたことを機械的に受け取るだけでは成長できません。小学生は「なぜだろう?」という疑問をもっても、探究を進めるには制限がありますが、中高生になると調べたり実験したりする力が付いてきますからグンと伸びると思いますね。女子も選択肢がとても広がり、理数系の学部に進んだり、日本中、世界中どこへでも進学することができます。親御さんも「女の子だから駄目」などという考えはもっておられないようです。
小松原 目先の成果をアピールするのではなく、中高女子一貫教育の良さと、長い目で見た成果を広く知ってもらえるように私どもも協力させていただきたいと思います。
林 真理子(はやし まりこ)
神戸女学院中学部・高等学部 部長
神戸生まれ。神戸女学院の中学部・高等学部・大学 文学部英文学科卒業。2002年、アメリカのバーモント州にある大学院School for International Trainingで英語教授法のMA取得。神戸市立高等学校で英語科教諭として勤務後、母校の神戸女学院中学部・高等学部へ移り、英語科教諭として勤務。著書に、中公新書ラクレ・教えて!校長先生シリーズ「『才色兼備』が育つ神戸女学院の教え」(共著)ほか
小松原 健裕(こまつばら たけひろ)
株式会社 日能研関西 代表
甲陽学院高校、慶応義塾大学と中高大を私学で学ぶ。同大学法学部卒業後、日本IBMに入社。主に金融機関システムの提案に携わる。事業承継のため日能研関西に入社。授業担当科目は算数。京都本部長、副代表を経て、代表に就任。日能研関西本部業務全般に加え、日能研グループとの連携、私学教育の振興にも携わる