4月号
縁の下の力持ち 第26回 神戸大学医学部附属病院 呼吸器センター
専門医がチームで支える呼吸器疾患の診断と治療
肺がんや肺炎、アレルギー、細菌感染など、呼吸器疾患は高齢化をはじめさまざまな環境因子の影響で増加しています。「呼吸器センター」では呼吸器外科・内科の先生が多分野の先生方と協力しチームで診断と治療にあたっています。
―呼吸器疾患の患者さんは増えているのですか。
総合的に見て増加傾向にあります。悪性疾患の代表的なものは肺がん、良性疾患のCOPDといわれる慢性閉塞性肺疾患、そこから肺がんを併発するケースなど、疾患の認知度が上がってきたこともあり患者さんの数は増えています。また社会の高齢化に伴って間質性肺炎や、感染症の一種である非結核性抗酸菌症の患者さんも増えています。ぜんそくをはじめ、梅雨から夏にかけて室内で発生するカビによる過敏性肺炎、冬には加湿器肺と呼ばれる症状など、アレルギー疾患も若干増えてきていますし、2月号でお話しした睡眠時無呼吸症候群もあります。
―呼吸器センターとは。
呼吸器の専門分野は幅が広く、患者さんの増加により需要が高まっているにもかかわらず、専門とする医師の数が少ないのが現状です。長年、呼吸器外科・内科は協力しながら診療してきました。また、呼吸器に限ったことではないのですが、診断や治療方針の決定には多分野の先生方との連携は欠かせません。放射線診断科、病理診断科をはじめとする先生方にも集まっていただき話し合いをしてきたカンファレンスを継承しつつ、呼吸器外科・内科の連携をさらに強化し、「多職種での議論︵MDD)」によるチーム医療を推進する体制を「呼吸器センター」と名付けています。
―どんなふうに連携しておられるのですか。
さまざまな要素が絡んでいる呼吸器疾患の診断の中でも特に難しいのがX線やCT、MRIなどの画像読影です。呼吸器科医が独断で読影するわけではなく、放射線診断科とのダブルチェックを行っています。それでも診断がつきにくい場合は気管支鏡を使って肺の組織の一部を切り取る肺生検を行い、病理専門医が所見を出します。間質性肺炎に関しては外科医が胸腔鏡を使う手術で肺の一部を取り病理診断するケースもあります。最終的に呼吸器科医、放射線診断科医、病理医が集まり議論しながら診断し、手術、放射線治療、化学療法などの治療方針を決定します。
―どういったタイミングで呼吸器科を受診したらよいのでしょうか。
せき、たん、今までとは様子が違う息切れ。こういった症状が2週間以上続き、なおかつ改善されないのならば、まずかかりつけ医に相談し、必要に応じて呼吸器科を紹介してもらうといいと思います。また検診で受けた胸部レントゲンで画像に異常が認められても精密検査の結果が「異常なし」ならば安心です。しかし、中には重大な病気が隠れていて治療につながることもあります。最近は女性の肺腺がんが増加傾向にあり、はっきりした理由は分かっていないのが懸念材料です。検診で異常を指摘されたら、ぜひとも精密検査は受けていただきたいと思います。
―専門医を育成する立場でもある西村先生が指導に当たって心掛けておられることは。
呼吸器系に関しては、ひと通り対応ができる専門医を育てたいと思っています。「肺に影があると言われた」と来院されて、医師から「これは肺がんではないので専門外の私には分かりません」と言われてしまっては、患者さんはどうしたらいいのか分からなくなってしまいます。ストレスや緊張が原因でせきが続いている患者さんもおられますが、「検査で異常がないので、他の科に行ってください」と言うだけでは困ります。私自身「理系男子」として医学の道に進みましたが、国語力やコミュニケーション力が要求される職業だと痛感してきました。だからといってマニュアル化して上手に話しても人間味のない医者になってしまいます。
日々、難しさを感じながら後進の育成に当たっています。