11月号
神戸市歯科医師会インタビュー こうべ市歯科センターで地域に貢献|(社)神戸市歯科医師会
─こうべ市歯科センターの前身の神戸市立心身障害者歯科診療所が開設された経緯は。
杉村 昔は心身に障害をお持ちで一般の歯医者さんでの治療が困難な方の多くは、治療を諦めていたと思われます。また、社会の風潮として障害をお持ちの方の受け入れに消極的な時代でもありました。
しかし、社会的な状況も少しずつ変化し、障害をお持ちの方が社会進出される方が増えてくるにつれ、きちっりとした医療を受けたいというニーズも出てくるようになりました。ご本人や保護者、関係各方面から歯科治療を受ける権利について声が上がり、その声が神戸市行政を動かしたのではないかと思うのですが、神戸市歯科医師会が協力するかたちで昭和53年11月に神戸市立心身障害者歯科診療所が開設されました。
開設当時は保護者教室だけでしたが、翌年の1月から神戸市の委託を受けるかたちで神戸市歯科医師会が全面的に協力し、開業医が交代で診察する週2回の診療がはじまり、その後、週4日、1日3時間の診療体制が確立されて平成15年度末まで続きました。それを引き継ぐかたちで移転し、平成16年4月にこうべ市歯科センターが新設されました。
─こうべ市歯科センターと神戸市立心身障害者歯科診療所の違いは何ですか。
山下 治療を理解できずに口をあけられない方などは、一般の歯科医院ではなかなか治療が難しく、そのような方に対しては、全身麻酔や静脈麻酔を用いて歯科治療をおこないます。
旧診療所では、全身麻酔などの必要性がある場合は中央市民病院または西市民病院に治療を依頼していました。しかし、新センターでは、全身麻酔を用いた治療も全てセンターで完結することができ、全身麻酔での治療も日帰りが可能です。
杉村 以前は全身麻酔の歯科治療を受けるためには、原則2泊3日の入院が必要とハードルが高く、応急処置だけで根本的な治療を断念されるケースもありました。日帰り治療が可能になったことによりたくさんの方にきっちりとした治療ができるようになったと思いますし、それを実現することが、当センターの開設の目的でもあります。
ちなみに、運営形態も異なっています。旧診療所は神戸市立でしたが、新センターは神戸市の指定管理者制度における第一号で、神戸市歯科医師会が指定管理者として運営しています。
─どのような医療機器を備えていますか。
山下 通常の治療をおこないますので、治療に関する機器は一般的な歯科医院と大きな違いはありませんが、全身麻酔のための麻酔器や心電図などをチェックする生体監視モニターなどが充実しています。血圧が高い方、脳卒中後の麻痺がある方なども対象ですので血圧などを測定しながらの治療に対応できる機器も揃えています。車いすに対応できる治療椅子も装備しています。
─どれくらいの利用者数がありますか。
山下 診療は年間延べ約4,500例、全身麻酔に関しては、年間約400例で新規の患者さんの数は年間200名弱です。障害者の歯科診療施設で常勤医が勤務する施設は少ないのですが、当センターは常勤医が月曜日から金曜日まで診察していますので、利用者数は多いと思います。
杉村 他の市町からも紹介で患者さんが来られます。また、当センターは全身麻酔をおこなう障害者歯科治療施設のさきがけですので、同様の施設のモデルケースとなっています。
─どのような障害をお持ちの患者さんに対応していますか。
杉村 旧診療所では知的障害をお持ちの方、肢体不自由の方がほとんどでした。新センターになってからももちろんそのような方も多いのですが、それ以外にも中途障害、心疾患や脳卒中後の後遺症で通常のように仰向けで治療ができない方ですとか、特別に生体の情報を監視しながら治療をおこなう必要がある方にも対応しています。また、全身麻酔や静脈麻酔で治療がおこなえるようになったので、高齢者の方、認知症の方の処置も可能になりました。
─障害者に専門の治療がなぜ必要があるのでしょうか。
山下 障害者の治療に関しては、障害の背景や環境を理解した上で対応する必要があります。例えば、自閉症や情緒障害の児童の患者さんの場合であれば、ちょっとしたきっかけでパニックをおこしたりします。通常のように診察の椅子に座ることすらできないわけです。そのようなことに少しずつ慣れていくようにトレーニングしていくことも必要です。
しかし、一般の歯科医院ですと時間的な制約などがあり、そのような対応ができないのです。日本障害者歯科学会という組織では、認定医や指導医の制度があり、当センターでも多数の認定医が診療にあたっています。
また、常勤3名は日本歯科麻酔学会の専門医あるいは認定医です。歯科麻酔医は日帰り全身麻酔を安全におこなう上で必要不可欠であり、当センターを受診される方で前述のように全身管理下での治療が必要な方に対して重要な役割をもっています。
杉村 治療の内容に関しては、健常者であっても障害をお持ちの方であっても変わりません。しかし、治療を受けていただくための行動調整法、環境づくりが難しく、それが障害者歯科の一番のテーマなのです。障害の内容はもちろん、同じ障害でも個人差がありますし、おかれている背景・環境も異なりますので、患者さん一人ひとりに合った行動調整法で治療する必要があります。
全身麻酔もその行動調整法のひとつですが、あくまでも目的は治療とその後の口の中の健康維持ですので、そのためには、それぞれの患者さんに応じた方法を考えなければなりません。
─どのようにすれば受診できますか。
山下 原則、紹介状が必要です。かかりつけの歯医者さんからの紹介が一番多いですね。歯科医院や医療機関以外でも、通所施設や保健所からのご紹介でも受け付けています。また、かかりつけの内科医からの情報提供が必要な場合もあります。
─最後に、PRを。
山下 特に障害をもつお子さんなどは長い目で見ていかに将来的に通常の治療を受けていただけるようになるかを考えています。全身麻酔下での治療に加えて〝歯医者さんに慣れる練習〟も積極的におこなっています。
杉村 当センターでは、日本歯科麻酔学会専門医が全ての方に安心・安全な歯科治療サービスを提供しています。神戸市の理解もあり、このような施設やシステムを設けることができましたが、ハンディキャップをお持ちの方が歯科医療機関を受診することに関して大きな障壁を取り除いたことの社会的意義は大きいのではないでしょうか。
今後も治療や予防のみならず、さまざまな相談や通所施設での口腔衛生指導などを通じて障害をお持ちの方々の支援をおこなっていきたいと考えております。
こうべ市歯科センター
開設者/神戸市
管理者/社団法人 神戸市歯科医師会
センター所長/杉村 智行
診療日時/毎週月曜日~金曜日
午前9時~12時
午後1時~5時
場 所/神戸市長田区二葉町5丁目1-1-201
『アスタくにづか5番館』2F
電話 078-612-8020
FAX 078-612-8021
http://www.kobe418.jp/shogai.htm