7月号
安藤忠雄の世界を見て、感じ、その秘密を学ぶ
「Ando Gallery」 兵庫県立美術館にオープン
世界的建築家の安藤忠雄氏が手掛けた兵庫県立美術館は2001年、復興のシンボルとしてオープンした。開設していた安藤氏の作品展示スペースを充実させ、さらに活性化を図ろうという計画が持ち上がった。神戸の海と山を結ぶ空間利用の提案を受けた安藤氏自身の設計により第2展示棟「Ando Gallery」が完成し、オープンを前に5月22日、記念式典が開催された。
井戸敏三兵庫県知事は、「今回の建造物は既存の免震構造の建物の上に、増築するという難題。専門的なことは私には分かりませんが、安藤さんにお任せし、こんなに素晴らしい第2展示棟が完成したことを嬉しく思っています」と話した。安藤建築の秘密を学べる建物と多くの物品の寄贈に対して安藤忠雄氏への謝意を表し、感謝状と記念品が贈呈された。これに応え、「美術館を運営しながらの工事は大きな音を出してはいけない、階段で資材を運ぶなど厳しい条件下、工事を担当した技術者の皆さんは大変だったと思う」と施工を担当した大林組の現場での苦労をねぎらった。常日頃、日本における東京一極集中を危惧する安藤氏は、「兵庫県の神戸にあるここにしかない唯一の場所に、大人も子どもも老人も、みんな集まって科学や芸術を考えてほしい」と締めくくった。さらに蓑豊館長は、「全く違和感なく新たな空間が創られた」と絶賛し、「今後何十年、何百年とたくさんの人が集う場所になるだろう」と大きな期待を語った。
式典に先立って開催された安藤氏の講演会には、会場のミュージアムホールに入り切らない多数の聴講希望者が集った。日本人に必要なのは創造力、持続力、そして子どもたちに考える力を付けることであるとし、今回の開館にあわせてサムエル・ウルマンの詩にちなんで、正面の「海デッキ」に設置された「青いりんご」のオブジェに込めた青春への熱い思いを語った。
海から山へと連続する空間
安藤氏の軌跡と未来を展示
2・3階部分にあたる第2展示棟は、吹き抜けの大きな空間が山のデッキへと続き、「青いりんご」が置かれた海に向かうテラスへ外部通路で直結している。館内には、安藤氏の原点となった「住吉の長屋」をはじめ、「地中美術館」「光の教会」など代表作や、県内で手掛けてきた作品を模型やパネルで紹介。阪神・淡路大震災を目の当たりにした安藤氏の自筆のメモやスケッチ、復興の記録なども展示されている。歴史的建造物を現代美術館として再生した「プンタ・デラ・ドガーナ」のほか、国内外で現在進行中のプロジェクト「ブルス・ドゥ・コメルス」「子ども本の森 中之島」なども展示され、「生涯青春」を体現する安藤氏の未来への展望まで全てを見て感じ取ることができる。「Ando Gallery」は5月23日にオープンし、無料で開放されている。