9月号
さきどり、秋のマーケティング情報 富士通テン
カーエレクトロニクスの可能性を追求
神戸が誇る地元企業の一つ「富士通テン」。ものづくりの拠点・神戸から世界に向けて新しい技術を発信している。進化を続けるカーナビ・ECLIPSE(イクリプス)のこと、富士通テンの今、これからなどお話しいただいた。
ー新製品のイクリプス「クルマ でDS」の魅力とは。
山口 カーナビに入っている専用地図とDSが無線で繋がります。位置情報も繋がっているので、DSの地図もナビ画面と同じように動きます。DSの地図には、ご当地クイズや観光案内などの情報が入っていて、ご当地キャラがクイズを出したり、観光案内をしてくれて、楽しいBGMとともに車のスピーカーから聞えてきます。DSがナビリモコンにもなって、周辺検索や目的地設定もできます。お子さんが主役になりますので、車内が会話で盛り上がり、渋滞や長距離のドライブも退屈しない上に、家族のコミュニケーションが深まります。
ースマートフォンでも楽しめるのですね。
山口 スマホと連繋して様々な目的地を設定できるアプリケーションが出てきていますし、当社もiPhone向けに独自のアプリを無料で提供しています。例えば、TwitDriveは気に入ったお店やスポット情報を投稿して皆で共有するアプリです。地図上につぶやき地点が表示されるので、「ここに行く」を押すだけで目的地に設定することもできます。
ースマホのカメラを利用することも出来るのですね。
山口 Driviewというアプリで、iPhoneのカメラで撮った車の前方の映像をナビ画面の横に表示します。その実写映像に、次の案内(ターン)地点までの距離や曲がる方向を表示するので、ルートをより直感的に把握できます。
オーディオ、ナビを一体化
ーテンはカーオーディオ、カーステレオのメーカーというイメージでしたが、山口さんが入社された1981年当時は。
山口 当時はまだ、カーオーディオの時代でしたね。私は、車の製造時に取り付けられるライン純正と呼ばれるカーオーディオの機構設計に携わっていました。
ーカーナビが登場してきたのはいつ頃ですか。
山口 1980年代後半です。カーナビが社会に登場する契機になったのは、地図が電子化されたことと、そのデータを格納する媒体として、CD-ROMが普及したことです。当社は1994年に富士通のパソコン・マーティーを車載用に転換したマルチメディアプレーヤー「カーマーティー」でカーナビを実現しました。今のブランド「イクリプス」は、95年に国内に投入したブランドで、「他の追随を許さず、全てを凌駕するすさまじい炎」をイメージしてネーミングしています。全ての機能を一台に集約する「マルチ・イン・ワン」をコンセプトにしてスタートしました。
ーイクリプスの特徴を教えて下さい。
山口 それまでのカーナビは、ディスプレイと本体が別になっていましたが、当社の長年の車載集約技術を駆使して、97年にオーディオ・ビジュアル・ナビゲーションを一体化した「AVN」を商品化しました。車内にピッタリ取り付くことから、他社も参入し、自動車メーカーも純正に採用するなど、現在主流のカーナビの基盤を作ったといえます。
車の中でも情報は自由自在
ー今では「あって当たり前」のカーナビですが、これからどう進化していくのでしょうか。
山口 カーナビが進化するというよりは、リアルタイムで鮮度が高く、更に一人ひとりが欲しいと思う情報をどのように車の中に画像・映像、音声などで出してあげるか、といったところがトレンドになると思います。例えば、スマホ経由で得られる情報だけでなく、ビッグデータをクラウドで提供するとか、運転の状況に応じて最適な情報を提供したり手に入れたり、道案内だけでは無く、もっと外と繋がっていくでしょう。
ー車の基本である安心・安全についての商品開発について教えて下さい。
山口 車に携わる企業として、カーオーディオやナビなどのエンタメ分野とともに、安全と安心は当社の重要な事業です。代表的な商品では「ミリ波レーダー」があります。他社に先駆けて、約40年も前から開発しています。前を走る車や後ろからくる車との相対速度や距離を測り、ブレーキなどと連動させるデバイスで、今は高級車に搭載されていますが、今後はもっとコストを下げて、一般車にも普及させたいですね。
ー時代を先取りした研究開発が多いのですが世界初もありますね。
山口 当社は技術開発力の高いメーカーですから、これまでも数々の世界初を連発しています。1983年には世界で初めて車載用CDプレーヤを自動車メーカーに納めましたし、89年には、車の中でコンサートホールやライブハウスを再現できる「DSP(デシタル・サウンド・プロセッサー)」を出しました。2005年には、一つの画面で運転席ではナビが、助手席ではテレビが見られるという、世界初の「DUAL AVN」を出しましたが、これは売れなかった(笑)。最近では2010年に、車両の前後左右にカメラを付けて、様々な視点から立体的な俯瞰映像で周囲が確認できる「マルチアングルビジョン」を自動車メーカーに納入を開始しました。将来的にはレーダーなどと組み合わせて、より安全で安心な運転支援ができるようになっていくと思います。
マーケティングに必要なことはスピードアップ!
ー新商品の企画・開発やマーケティングで重要なこととは。
山口 以前のマーケティングは、一方に私たちが持つ技術があり、一方に市場があり、その市場の潜在ニーズをリサーチしながら企画開発を進めるものでした。
ところが2010年以降は、スマホが将来どうなるのか、クラウドがどうなるのか、インフラがどうなるのか、それらが車にどういう影響を与えるのかというところからマーケティングが始まります。これからは仮説を立てながら、スピードを上げて開発していく時代です。これは若い人に期待するところです。
ー期待される若者像はありますか。
山口 思い入れがあって、尖っている。自分のやりたいことでは妥協しないが、間違っていたらブラッシュアップして方向転換できる。つまり、ある意味で尖っているが、ある意味では柔軟な人。それがスピードに付いていくということだと思います。
ー製造部門は神戸を離れましたが、これからも本社機能や研究開発拠点は神戸に置きますか。
山口 新しい企画開発や生産技術開発は神戸にあります。これからも、ものづくりの中心であることには変わりありません。
ー海外にも多くの拠点がありますね。
山口 マーケットを海外にも求める時代です。設計、製造、サービスまでを現地でできるようになるのが理想でしょうね。
ースパコン「京」を作った富士通との技術連携も盛んですか。
山口 実は近年まで富士通とのつながりはそんなに大きく無かったのですが、車もICTの時代になって、親会社である富士通や富士通研究所など、富士通グループとの連繋が不可欠になってきています。当社は、ICTの富士通、車のトヨタという親会社を持つ、カーエレクトロニクス業界でも極めて稀な、そして大変有利なポジションにいると思っています。今後、益々連携を深めて、より良い車社会の実現に貢献したいですね。
ー今後、新たな事業は。
山口 冷凍食品を手掛けたり、ウナギの養殖をしたり?それはないですね(笑)。車から離れて、新規事業を展開するということはないでしょうね。「車の中で社会が広がる、世界が広がる」。このコンセプトの中で富士通テンの力を発揮していくと思います。
ー神戸の企業としてこれからも力を発揮してください。
インタビュー 本誌・森岡一孝
山口 隆夫(やまぐち たかお)
富士通テン株式会社
執行役員 CI技術本部長
長崎県出身。鳥取大学工学部生産機械工学科卒業後、1981年、富士通テン株式会社入社。2007年、CI本部商品企画統括部長。2010年、富士通テン執行役員、CI技術本部長就任。