2月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第九十二回
第11回ロコモキャラバンin神戸について
~ロコモと認知症
兵庫県整形外科医会理事
西川整形外科リハビリクリニック院長
西川 哲夫 先生
─ロコモキャラバンとは何ですか。
西川 NPO法人全国ストップ・ザ・ロコモ協議会(SLOC)が主催し、ロコモについて知っていただきその予防法などについて学んでいただくために全国を回る活動です。一方毎年兵庫県整形外科医会では10月8日の骨と関節の日の前後に市民公開講座をおこなっていますが、2018年はSLOCと共催するという形で「ロコモキャラバンin神戸」を開催しました。「ロコモと認知症」をテーマに10月14日に神戸の兵庫県医師会館にて開催し、宮田医院院長の宮田重樹先生と東京医科歯科大学脳統合研究機能センター特任教授の朝田隆先生を講師として招聘しました。
─そもそもロコモとはどのようなものですか。
西川 ロコモとはロコモティブシンドロームの略称です。ロコモティブシンドロームは運動器症候群ともいい、骨や関節や筋肉などの運動器の機能が衰えることにより日常生活での自立度が低下し、介護が必要になったり寝たきりになったりする可能性の高い状態のことです。老化と大きく関係し、バランス能力の低下、筋力の低下、骨や関節の病気が主な原因です。
─宮田先生の講演はどのような内容でしたか。
西川 ロコモから寝たきりへ進む過程では運動不足だけでなく、骨が折れやすくなる骨粗しょう症や歩くと足腰が痛む脊柱管狭窄症などの運動器疾患が大きく関わっています。要支援になる要因は「転倒・骨折」「関節疾患」を合わせると32・4%にものぼり、運動器に基づく原因が大きいとのことでした。寝たきりになってからでは手遅れなのでロコモを予防することが重要であり、そのためにはロコモを予防するトレーニング「ロコトレ」が効果的とのことです。それにより「ロコモ3原則」、つまり「転ばない」「転んでも折れない」「折れてもまた歩ける」体をつくり、いつまでも自分の足で歩くためにおそれずに運動することが重要というお話でした。
─ロコトレとはどのようなトレーニングですか。
西川 ロコトレは日本整形外科学会がロコモを予防するために科学的な根拠に基づいて開発したもので、基本の運動は片脚立ちとスクワットです。片脚立ちは床につかない程度に片脚を上げるもので、バランス能力を養います。スクワットはいすに座るようにお尻を下げる運動で、下肢の筋力を鍛えます。詳しいやり方は図1の通りですが、いずれも1日3回ずつ毎日繰り返すことが重要で、食事の後などに習慣づけることをおすすめします。なお、ロコトレは筋力や瞬発力に関係する無酸素運動の要素が大きいですが、認知症予防には持久力をつける有酸素運動が有効ですので、ロコトレとウォーキングなどを組み合わせるのが理想的です。筋力低下は50代から進みますので、40代の方も早いうちから積極的に体を動かしましょう。
─朝田先生の講演はどのような内容でしたか。
西川 ロコモと認知症の関係についてお話しいただきました。高齢になって発症する認知症は遺伝の影響が少ない一方で、生活要因が大半であるため予防効果が期待でき、そのためには運動が一番良い方法ということです。しかし、運動は軽度認知障害でこそ効果的であり、認知症が進行してからでは手遅れになってしまうので、運動するのは億劫でも早足での犬の散歩、近所のゴミ拾いなど手軽なところからはじめることをすすめていました。ロコモになってしまうと足腰の痛みから出歩くことがなくなることから、ロコモになると認知症になる危険性が4倍以上に高まるといわれているそうです。また、転倒による骨折も運動ができなくなって認知症に繋がります。骨折予防のためにカルシウムと同時にその吸収を助けるビタミンDを摂取するなど、食事も重要になるとのことでした。認知症患者の8割弱は80歳以上で、その8割は女性というデータを紹介し、日本の認知症は女性問題という側面があるというお話も興味深いものでした。認知症とロコモと骨粗しょう症には密接な関係がありますが、女性は骨粗しょう症になりやすい傾向がありますので特に注意が必要です(図2)。
─自分がロコモティブシンドロームかどうかはチェックできますか。
西川 日本整形外科学会では7項目のロコモ判定チェック「ロコチェック」を掲げています。図3の項目のうち1つでも該当するものがあればロコモが疑われます。このほかにも高さ40センチのいすに座り片脚で立ち上がれないとか、大股で2歩歩いた歩幅を身長で割った数値が1・3未満であるなどでロコモ度を判定するテストもあります。腰や関節の痛み、筋力の衰え、ふらつきなどの自覚症状がある場合などはロコモの可能性がありますので、整形外科医の診察を受けることをおすすめします。
─兵庫県整形外科医会はロコモティブシンドロームに関し、どのような活動をおこなっていますか。
西川 長い人生いつまでも元気に過ごすためには、自立した生活を送れる期間、つまり健康寿命をのばすことが重要です。兵庫県の平均寿命は全都道府県中男性が18位、女性が25位ですが、ここ10年の寿命ののびは男性が11位、女性は何と3位と良好に推移しています。今後とも平均寿命、そして健康寿命をさらにのばせるよう、兵庫県整形外科医会は市民講座などの啓発活動などを継続していきます。また、ロコモの予防には子どもの時からの取り組みも大切です。現代っ子たちは「運動不足による運動能力の低下」と「運動のしすぎによるスポーツ障害」の二極化が深刻ですが、整形外科医が学校に出向いて運動器検診に積極的に関与する体制をつくり、この問題にも向き合っていきたいと考えています。