2月号
新生兵庫 講演会 「100歳までいかに豊かに生きるか」 建築家・安藤忠雄さんが語る
2018年11月15日、新生兵庫をつくる会を発起人とする講演会が神戸国際会館・こくさいホールで開催されました。会場には来賓をはじめ、講演を聴こうと多くの人たちが集まりました。
冒頭のあいさつで井戸敏三知事は、多くの災害が起きた2018年を振り返り、日頃からの備えの大切さを訴え、阪神・淡路大震災から24年を迎えるにあたり、経験を「忘れない、伝える、生かす、備える」決意を改めて語りました。さらに、兵庫の県政が始まって150年という節目の年、東京一極集中は止まらない状況だが、地方分権社会の確立が求められ、地方が自立できる経済構造が必要。五国からなる多様性を生かし、質の高い生活と先端的なイノベーション、交流を重視しながら、すこやか兵庫を目指そうと話しました。
続いて安藤忠雄さんの講演は、いつもと変わらない〝歯に衣着せぬ安藤節〟で聴く人たちに、100歳まで豊かに生きる勇気と知恵を与えてくれました。内容の一部をご紹介します。
日本は本当に豊かな国なのか?
日本は経済大国で、今も企業の利益は上がっているといわれています。しかし全てが東京一極集中で、企業は内部留保ばかりで社員には利益を回さない。日本の国は本当に豊かになっているのだろうかと思います。私は建築に携わっていますが、日本の技術のレベルの高さは世界でも有数で、現場ではみんなが一生懸命働いています。けれど全然元気がない。最近、仕事をする機会が多いイタリアのベニスやボローニャでは働く人たちは皆元気!国の経済は行き詰っているといわれていますが、個人は元気。日本は大企業は豊かだけれど、個人の心は豊かではない。そう思います。
それぞれの街がそれぞれの魅力をもって地域を作り上げていかなくてはいけない時代です。この地域にしかできない会社を作ったら、神戸、大阪、京都の大学を卒業した人が地元にとどまり、もしかしたら東京の大学を出た人が神戸にやってくるかもしれません。魅力のあるまちには人が集まるはずです。
目標がある限り、60歳、70歳、100歳になっても頑張れる
皆さん20代のころ、夢に描いていた人生があったはずです。そのまま100歳までいかないと駄目です。いかに100歳まで豊かに生きるか?サミュエル・ウルマンは「理想を掲げ、目標を持って生きる限り青春だ」と言っています。今の日本人の多くはただ生きているだけで、目標がない。60歳、70歳になっても頑張って日本の国を支えるくらいの気概で、青春を生きなくてはいけません。女性は何歳になっても元気です。それはちゃんと自分をメンテナンスして、電池を入れ替えているからです。
今の30歳以下の若者は、朝ごはん食べない、昼は簡単、夜はコンビニですますと言った生活。これではパワーが出るはずもない。だから皆さんには、60歳をすぎたら電池を入れ替えて、まだまだ頑張ってもらわなくてはいけません。私は中学2年のとき、自宅の長屋を2階建てにするのに大工さんが一心不乱に働いている姿を見て、「これは面白いかもしれない」と思いました。若い人たちや子どもたちに、皆さんが一心不乱に働く姿を見せなくてはいけません。
思い通りにいかないのが人生。前さえ向いていればいい
人生思い通りにはいかないから…とおっしゃるかも知れません。でも、そんなことは初めから分かっていることです。私は学歴も社会的な基盤もない人間ですから、いつも一寸先は闇の中を走り続けて来ました。前を向いているだけで支えてくれる人たちがたくさんいて下さったおかげで今があります。
2009年にがんで胆のう、肝臓、十二指腸を全部取りました。何とか回復してひと安心と思った矢先の2014年、6月10日に、またがんが見つかり、今度は脾臓と膵臓を全部取らないといけないことが解り、既に決まっていた7月10日の京大の山中伸弥先生との対談を済ませた翌日、10時間の手術を受けました。いまは元気です。やることがある限り生きなければと思っているから元気なんです。どんなときも希望を失ってはいけません。
震災から前だけを見て立ち直った兵庫
兵庫はあの震災から貝原知事、井戸知事のリーダーシップの下、見事に復興しました。旧居留地の美しさは圧倒的なものがありますし、六甲山も美しい。皆さんもよくご存じの異人館は、建物というより、当時日本が憧れた生活文化そのものを造ったものですから、魅力に溢れています。私も北野のローズガーデンをはじめ、いくつかの建物を造らせてもらいましたが、それを大切に守ってくれている人たちがいます。兵庫県全体を見ても淡路島があり姫路城があり、もっと全体をリンクしてうまく盛り上げていけば、日本でも類のない魅力的な地域になると思うんです。なのに、午後8時ごろになったら店がほとんど閉まっている(笑)。みんなでもっと街全体のことを考えなくてはいけない。努力が足りないと思います。
持続力と想像力と勇気を持った子どもを育てるために
希望の持てる社会をつくるためにはどうすればいいか?まず、判断力と想像力と勇気のある子どもを育てなくてはいけません。そのために何ができるか?今のお父さんやお母さんは子どもに勉強をさせ過ぎです。放課後は塾でスケジュールがいっぱい!こんなことでは駄目です。お父さんとお母さんが勉強嫌いなのに、子どもにやらせようとしても無理。私が子どものころは学校で宿題を済ませたら、後は何して遊ぶか?これだけでしたね。魚釣りするか、トンボとりをするか、喧嘩をするか…。成績は600人中、5番をキープしていました、下からですよ(笑)。それでも勉強一番の子とは仲良し。何故かと言えば、喧嘩が一番だったからです。皆さんもぜひ、お孫さんには「勉強はもういいから勇気を持って自由に生きろ」と言ってあげてください。
街づくりは大切。でも人を育てることはもっと大切
ほとんどの親は子どもに絵を見せたり、音楽を聴かせたりすることもなく、ひたすら塾に行かせています。兵庫県では芸術文化センターや美術館が頑張っているのですから、そういう所にお子さん・お孫さんを連れて行ってください。芸術や音楽や映画等々、浅く広くいろいろなことに興味を持って生きていかなくては。ところが、文化に興味がない人が多い。それで生きていけますか?恐らく子どもたちにもっと多彩なことを体験させたら、全く違う育ち方をしてくれると思いますよ。
親が手を差し延べるほど、弱い子に育ちます。自立心や、責任感を持った子どもを育てないと社会は成り立ちません。街づくりも大切、でもその前に人を育てることはもっと大切だと思います。
「青いりんご」を忘れずに、100歳まで青年でいよう!
瀬戸内海の直島という小さな島に現代アートの美術館をはじめ関連するいくつかの建築を造りました。実はお話を聞いたとき、あまり乗り気ではなかったんです。「電車や船を乗り継がないと行けない島に人が来るわけがない」と思っていましたからね。ところが、当時ベネッセの社長だった福武總一郎さんが、「絶対に人は来る!」と言うんです。その意志と勇気と持続力には感服しました。直島を世界有数の芸術文化の島に育てたのは、ひとえに福武さんの信念です。今では3年に1回開かれる瀬戸内芸術祭の中心となっています。
兵庫県立美術館に、増築棟をつくっています。そこに、青いりんごのオブジェを設置しました。「青いりんご」は10代、20代のころの熱意の象徴です。60代になって忘れかけても、県立美術館に来て「青いりんご」を触ったら熱意がよみがえってきて、100歳まででも青春を生きられるはずです。楽しく生きていくためには肉体的体力だけでなく知的体力が必要。あと、どんな時でも希望を持ち続けることが肝心です。兵庫、大阪、京都、それぞれ個性のある関西の街には希望がある。私はそう信じています。