3月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.52 神戸大学医学部附属病院 脳神経外科 木村 英仁先生に聞きました。
―脳は何でできていて、どんな構造なのですか。
脳は、「神経細胞」とそこから伸びる信号を伝達するための繊維である軸索、そして脳の形を維持する「グリア細胞」で構成され、さらに栄養を運ぶための血管が網の目のように巡っています。脳の表面の「脳回」と呼ばれる隆起した部分と、「脳溝」という陥没した部分がいわゆる「脳のしわ」を形作っています。脳回と脳溝の配置は、人によって大きな違いはなく、それぞれの部位に名前が付いていて、運動、言語、記憶、視覚、嗅覚といった機能を司っています。さらに、外側から「硬膜」「くも膜」「軟膜」という3層の髄膜に覆われて頭蓋骨の中に収まり、くも膜下腔を満たす「髄液」がクッションとなり柔らかい脳を外部の衝撃から守っています。
―脳神経外科で扱う疾患は?
大まかに、頭蓋骨の中や脊髄に起きて手術を必要とする病気、例えば、脳腫瘍や頭の中の血管の病気、そして脊髄の病気、また機能的脳神経外科という顔のピクつきや手足のふるえ、痙攣を止める手術もしています。また怪我で頭の中に出血したり、脳が傷ついたりして外科手術が必要となることもあります。
―脳腫瘍とは、脳のどこにできるどんな腫瘍ですか。
脳の中にできる腫瘍のほかにも、脳を包んでいる髄膜の一つ、硬膜にできる髄膜腫や、脳から出た神経にできる神経鞘腫など、脳の外でも頭蓋骨の中であれば「脳腫瘍」と呼んでいます。手術で切り取って完治が可能な髄膜腫のような良性のものから、膠芽腫のように根を張って脳の中に浸潤していくため取り切るのが難しいものまであります。
―できる場所によって自覚症状も違うのですか。
圧迫される脳の領域や神経によって、言葉が出ない、ろれつが回らない、手足が動かない、認識ができないなど、症状はさまざまです。骨で囲まれた閉鎖空間である頭蓋骨の中に腫瘍ができて大きくなると、脳が腫れてきて頭蓋内圧が上がり、頭痛や嘔吐という症状が現れます。そのまま適切に対処しないと、やがて意識が朦朧として場合によっては命に関わることもあります。慢性的な頭痛をお持ちの方のほとんどは片頭痛や緊張性頭痛という病気で、基本的には心配はないのですが、中には脳の病気をお持ちの方もおられます。よくならない、むしろ悪くなっているような方は、一度近くの脳神経外科のクリニックで、脳のCTやMRIを撮ってもらうといいかもしれません。
―開頭手術とは?
頭蓋骨を一部外すことを開頭といいます。頭皮を切り、その下にある筋肉を切開して頭蓋骨に穴を開け、穴と穴をつなぐように骨を切り、必要な大きさで頭蓋骨を外すと、脳を包んでいる白い硬膜が露出され、その硬膜を切ると脳が露出します。少し位置がずれただけでも病変に到達できないので、どの部分をどの範囲、どの程度開頭するかを手術前に慎重に十分検討します。手術が終われば、硬膜を元通りに縫合して、外した骨片を開頭部に戻して、チタン製のプレートを使ってスクリューで動かないように固定します。
―脳腫瘍の治療は外科手術で取るというのが基本ですか。
腫瘍の種類とできている場所、範囲によって方針を決め、患者さんの病状を悪くしない範囲でなるべく摘出するのが原則です。良性腫瘍であれば、取り残しても大きくならないこともあり、仮に大きくなってもガンマナイフ治療という1日で終わる放射線治療で対応できる場合もあります。悪性腫瘍で、外科手術で取りきれない場合は、化学療法や放射線療法、最近では分子標的薬という特別な薬も使い、なんとか患者さんに元気になってもらえるような治療を行なっています。放射線や化学療法がよく効くとされている一部の腫瘍は、なるべく手術で摘出するということはせず、頭に穴をあけて専用の針を入れ、ひとかけらの組織を採取する生検術のみで診断するので、患者さんの手術の負担は比較的少ないとされています。
―頭の中の血管の病気にはどのような病気がありますか。
脳の血管が詰まる脳梗塞、脳動脈瘤が破れて起こるくも膜下出血、高血圧が原因でおこることが多い脳出血などがあります。脳梗塞のほとんどは細い血管が詰まるラクナ梗塞と呼ばれるもので、内科や脳神経内科の先生が治療をされます。太い血管が急に詰まって意識障害や半身不随を急に起こしてしまった患者さんには脳神経外科医が、詰まった血管から血栓を摘出し血流を再開させるカテーテル治療をし、再発を予防するために、頭皮の動脈を脳の表面の血管に吻合するバイパス術も行っています。くも膜下出血を起こした破裂脳動脈瘤には、開頭してチタン性のクリップを動脈瘤の頸部にかけて再破裂を予防するクリッピング術や、カテーテルで動脈瘤の中にコイルを詰めたり、金属でできた網状の筒・ステントを血管に置いたりする手術で出血を予防します。
―頭蓋底外科とは?
頭蓋底とは頭蓋骨の底の骨で、視神経や顔面を動かす神経、顔面の感覚神経、聴力の神経、飲み込む神経、眼球を動かす神経などさまざまな神経が貫通し、近くにはこれらを出す脳幹が存在します。この領域の手術を行う分野が頭蓋底外科で、比較的小さな開頭で脳幹と骨の間の限られた隙間を通って脳の深部の手術をします。専門的な知識と技術が必要な領域とされます。
―脊髄や脊椎も脳神経外科の治療領域なのですか。
脳からの情報を伝達する神経の束が脳幹から腰までつながっていて、首から下の脊髄にできた病気も脳神経外科の領域です。脊髄の中の腫瘍だけではなく、その周りにできた髄膜腫や神経鞘腫も手術をします。脊髄を包んで保護している構造物には脊椎や椎間板があり、これらの変形等で脊髄やそこから出ている神経が圧迫されて症状がでる場合は、整形外科の先生も手術を行って圧迫を解除します。
―なぜ、脳や脊髄に腫瘍ができるのですか。予防法は?
根本的な原因はわかっていません。遺伝子がなんらかの原因で変異して細胞が勝手に増殖し始め、隣の細胞を押しつぶしながら細胞分裂して大きくなるのが良性腫瘍です。分裂して増やした細胞を正常細胞の間に浸潤させて根をはわせたり、血液や髄液に乗せて違う場所へ飛ばしたりするのが悪性腫瘍と、概ね言えると思います。悪性腫瘍とほぼ同じ性質をもつ「癌」には、アルコールやたばこなどの影響が言われているものもありますが、脳腫瘍の場合は分かっていないのが現状です。生活習慣では予防の方法がなく、最近は、脳ドックなどで、たまたま撮ったMRIで硬膜や脳内の小さな腫瘍が無症状の段階で見つかるケースも増えてきていますので、病変が小さなうちに見つけることが理想的だと思います。

木村先生にしつもん
Q. 木村先生は、なぜ医学の道を志されたのですか。
A.親の影響もありますが、中高生のころには、人を治療する医師という仕事に強い憧れを抱くようになり、これが医学の道を志す動機だったと思います。
Q. 脳神経外科を専門にされた理由は?
A.学生時代の解剖実習で、脳実習という、脳の解剖だけを行う期間があるんです。その時に、脳の局所解剖だけではなく機能局在なども勉強するのですが、ここまで分かっているのか!と驚くと同時に、分かっていないこともいっぱいあるということを知り、脳に魅せられるようになりました。 もともと手術がしたいと思っていたので外科系を志望していましたが、この解剖実習で、脳の手術を行う脳神経外科を将来の進路として強く意識するようになったと思います。
Q. 患者さんに接するにあたって心掛けておられることは?
A.様々な病気がありますが、脳神経外科を受診される患者さんは、やはり命に関わるんじゃないか、後遺症がでるのではないかという強い不安感を持って受診される方が少なくありません。まずは、患者さんのお話、訴えをよく拝聴し、なるべく安心して治療に臨んでいただけるように病気のご説明をしています。手術をすぐに必要としない経過観察可能な方もおられるので、過度な不安を払拭いただくことが大切だと考えています。
Q. ご自身の健康法やリフレッシュ法があれば教えてください。
A.健康法は、しいていえば食べ過ぎないこと。リフレッシュ法としてはアコースティックギターで指トレーニングをすることと、わんこと戯れることです。












