2023年
7月号

僕が大切にしたいことは Listenable ~聴いて楽しい~ 音楽|ジャズ・サックス奏者 小曽根 啓 さん

カテゴリ:文化・芸術・音楽, 文化人

ジャズ・ピアノ/オルガン奏者、小曽根実さんを父に、ジャズ・ピアニスト小曽根真さんを兄にもつジャズ・サックス奏者の小曽根啓さん。神戸を中心に活動してきた啓さん初のアルバムが今年完成しました。プロデュースとピアノは兄・真さん。兄弟の仲の良さが伝わる制作秘話などを伺いました。

初のリーダー・アルバム『Unison』(ユニゾン)を発表

Q.タイトルの由来が素敵ですね。
 兄との思いがけない出来事をそのままタイトルにしました。
 2年前、母の今際の際で、僕は「兄貴とアルバム作るからな。安心してな」と言いました。母はコクンとうなづいて、理解してくれたようでした。まもなく母は旅立って、その後、本当に最後のお別れの時、棺の中の眠る母に言いました。「ありがとう」。それが兄とのユニゾンでした。「ありがとう」。大事な言葉です。

Q.アルバム制作。真さんからは以前から誘われていたそうですね。
「曲を書け」とはよく言われていました。チック・コリアが、「音楽性を伸ばすには自分で楽曲を書かなくてはいけない」と話していたそうです。「いい演奏を残すのも音楽家の仕事。楽曲を残すのも音楽家の仕事」というのが兄の考えです。
 曲は作っていたんですよ。今回のアルバムに入っている5曲のうち、ほとんどが20年くらい前に作ったもの。話が具体的になって兄に聴かせたところ驚いてね。「5曲ともいい!」って。嬉しかったですよ、褒めてもらって(笑)。

Q.曲を作る上で意識していることは?
Listenable。シンプルに、聴いている人が楽しめる音楽。
これは父、兄、僕、共通です。「らしいな」と思うそれぞれの個性はあるけど、メロディを大切にするのは3人一緒。父の考えがそうでした。
 僕にとって父はやっぱり偉大で、抜群のセンスがあって、音楽はここ(胸を指して)ってことは、父から学びました。

サックスを選んだ理由

Q.楽器はピアノからですか?
全然(笑)。楽器に興味がなくて、中学時代は剣道部。父も特に音楽を教えようとはしなかった。
小学校のブラスバンドでトランペットをやったけど、卒業式で『およげ!たいやきくん』のソロを任されて、失敗して、トラウマ(笑)。もうやらない!やめた!(笑)。
中学の頃、カーペンターズが好きになって、自分でも演奏したくなって、またトランペットを練習しました。友だちと2人でね。この時はちゃんと吹けるようになりましたよ。
高校生になって吹奏楽部に入部、ここでようやくサックスを手にします。今でも覚えてる。階段の踊り場で吹いてた先輩のサックスがかっこよくてね。その頃って渡辺貞夫さん(サックス奏者)がよくCMに出ていて、『カリフォルニア・シャワー』が流行っていて。サックスは大人の楽器って感じでした。

Q.吹奏楽からどうしてジャズに?
部員が少なくて吹奏楽にならなかったから、ビックバンドに変えたらどうかと。吹奏楽は楽器の種類が必要だけど、ビックバンドは少人数でもできるからね。
きっかけは父です。父が審査員をしていた音楽祭に「いろんなジャンルの団体が出演するから聴きにおいで」って。そこで村野工業高校(現・彩星工科高等学校)ビックバンドの演奏を聴いたわけです。揃いのベストを着て、ジャズ仕様の譜面台、カウント・ベイシーのナンバーがかっこよくてね。顧問はもちろん、村野工業高校の日下雄介先生はじめ、他校の先生にも相談したり。仲間と長田のマクドナルドで話し合ったり。それで次の年にはめでたく音楽祭に参加、大会では準優勝。いい思い出です。

Q.ビッグバンドに感じたジャズのかっこよさとは?
アドリブ。なぜそんなことができるのか。どうやったらできるのか。これは今でも僕の課題。僕には趣味がいくつもあるけど、“アドリブができるようになること” は、永遠に続く究極の趣味だと思う。

アルバム発売の記念ライブは、神戸と東京の大切な場所で

Q.神戸での記念ライブは、ジャズ・レストラン『ソネ』で。演奏されてみていかがでしたか?
子どもの頃からお世話になっているお店です。オーナーの曽根辰夫さんは、高校生だった僕に演奏する機会を与えてくれ、ライブの楽しさとか厳しさを教えてくれました。子どもの頃に体験して学んだことって大きいですから、ほんとに恩人。感謝しています。客席には学校の先生がいたり父の友人がいたり、たくさんの大人に見守ってもらいました。
なので、今回は『ソネ』で演奏したかった。それが叶って最高でした。ライブの最後、辰夫さんに一緒に演奏してもらいました。辰夫さんは父とも一緒に演奏していた尊敬するベーシストでもあります。変わらずかっこよかった。ほんと最高の夜でした。

Q.東京『BODY&SOUL』でのライブはいかがでした?
父と兄がお世話になっている歴史あるお店です。オーナーの関京子さんは父と母の葬儀にも駆けつけてくださり、僕も昔から知っているような感覚になりました。父を感じられる場所で演奏できて、最高でした。
いい話があってね。僕と息子は辰年なんです。義父も辰年で、息子が生まれた時に「“三辰” だ、縁起がいい!」と喜んでくれた。『ソネ』の辰夫さんも辰年で、縁起がいいなと思っていたら、なんと、『BODY&SOUL』の関さんも辰年だった。このアルバムは縁起がいいんですよ(笑)

レコーディング。その瞬間だけの奇跡みたいな音を残したかった

Q.レコーディングはどうでしたか?
中村健吾さん(ベース)、高橋信之介さん(ドラムス)と僕ら兄弟。「楽しかった!」が1番にきます。超一流の技術者と機材に囲まれ、兄は細かいところまで助けてくれ、とても勉強になりました。その幸せな空間に長い時間いたいなと思ったけど、実際はほとんどがワンテイクです。リハーサルとも違う、ライブとも違う、その日、その瞬間の音を大事にしたかった。それがジャズの面白さなので。

Q.オリジナル曲。タイトルに込めた思いは?
『エッグ・オン・ザ・ルーフ』。子どもの頃の悪戯から命名しました。真夏、炎天下ですよ、瓦に卵を落として目玉焼きを作った。何故そんなことをしたのか、理由は兄に聞いてください(笑)。『アクエリアス』は自分でも好きなバラードです。みずがめ座ですね。1人、星を見ながら聴いてみてください。1日の終わりに穏やかな気分になってくれたら嬉しいな。『マダム・レオ』。これはいい曲ができたなと思ってね、妻へのプレゼント。普段あまりプレゼントしないので。喜んでくれてるんじゃないかな。

Q.最後は『ゴージャス』(ミッチェル・フォアマン作曲)ですね。
随分前に兄に教えてもらった曲。兄はゲイリー・バートン(ヴィブラフォン奏者)に教えてもらったそうです。当時は自分が演奏する絵が描けなかったけど、今回、このメンバーで演奏したいと思いました。
今回は、曲の終わり方がすごく気に入っていて。高橋信之介くんの提案で、ユニゾンになっています。最後の1音まで大事にしたいという気持ちを汲んでくれた信之介くんには感謝です。

Q.この秋には、リニューアルオープンする神戸朝日ホールでのライブを予定されています。
やっぱりリスナブルなジャズを届けたいですね。スウィングしたいな。
オリジナルももちろん。メンバーが変わるとどんな感じになるのか、僕も楽しみです。アルバムを聴いてくださった方の感想を見ていると、作曲した僕と違う感じ方をしていることもあって、改めて音楽は面白いなと思っています。作る人、演奏する人、聴く人、それぞれ自由に楽しんだらいい。ただひとつ、音楽にハートは大事。これはみな共通。

公演情報
『小曽根啓カルテット Special Concert』
■日 時 10月15日(日)16:00開演
■出 演 小曽根啓(Sax)、時安吉宏(B)、
堀智彦(Pf)、引田裕路(Ds)
■会 場 神戸朝日ホール
■問合せ 株式会社Mitt 
     03-6265-3201(平日12:00~17:00)
https://www.kobe-asahihall.jp/events/eid-201/

小曽根おぞね ひろし

1964年、神戸市生まれ。高校時代よりサックスを始める。1982年、バークリー音楽院に留学。卒業後、神戸に戻り、オゾネミュージックスクール講師として後進の育成にあたる。1993、94年、小曽根真率いるニューポート・ジャズ・オーケストラの大阪/福岡ブルーノート・ツアーに参加。2012、13年、小曽根真TRIO&QUARTETでブランフォード・マルサリス、クリスチャン・マクブライド、ジェフ“テイン”ワッツと共演。2013年よりKOBE JAZZ FESTIVAL出演。

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