1月号
西宮の云われについて|神様に愛された地、夙川
廣田神社宮司 西井 璋 さん
「西宮」の起源は、京の都から西にある重要な神社「廣田神社」の別称に由来します。
広い田んぼを有した廣田神社の荘園は、便利で自然環境に恵まれた「住みたい街・西宮」へと受け継がれています。
神宮皇后凱旋の帰途、天照大御神荒御魂を祀る
廣田神社は、神戸の生田神社、長田神社と共に神功皇后摂政元年(201)に創建されました。1800年以上の歴史をもつ3社とも「田」が付きます。豊作を導く「田褒(たほめ)」という言葉があるように田んぼがもつ意味は大きく、現在の芦屋、西宮、尼崎西部にまでわたる「廣田」は広い大きな田んぼ、生き生きした田んぼが「生田」、長い田んぼが「長田」という意味合いがあるのだと私は考えています。
御祭神の天照大御神荒御魂(あまてらすおおみかみあらみたま)は、神功皇后が建国初の海外遠征に大勝利を収めて瀬戸内海を通り難波宮に凱旋する途中、船が動かなくなり西宮の港に入ったところ、天照大御神荒御魂のおつげによりこの地に祀られたといわれています。昔の西宮は大きな入り江がある良港で、交通の要衝でもあったようです。大和朝廷としても押さえておくべき地であり、荒御魂を祀ることで、「ここは大和朝廷の直轄」と世に知らせる意図もあったのではないでしょうか。
廣田神社の栄誉と苦難の歴史
元々は、神宮皇后が甲を埋めたという言い伝えもある「甲山」の麓あたりだったようです。次第に人々が暮らす里へと下りてきたのですが、御手洗川が度々氾濫し何度も水害に遭ったため、享保9年(1724)に御社殿の位置を動かしています。
明治4年(1871)に日本各地の神社が格付けされた際には、兵庫県唯一最高位である「官弊大社」に列せられました。官幣を一般に分かりやすくいえば、天皇家からお供えが届く神社ということです。
第二次世界大戦中には軍人さんたちが武運長久を願いお参りするようになりました。ところが終戦を迎え軍国主義が否定されると、見向きもされない不遇な時期が続きました。最近はまた見直されるようになり、阪神タイガースの優勝祈願は皆さんよくご存じのことと思います。大阪タイガース当時からお参りに来られてよく優勝していたのですが、困ったことに、私が宮司になった翌年の優勝以来低迷しています。お参りに来られたら、ついでで構いませんので優勝祈願をしていただければと思います(笑)。
御社殿の変遷と11の摂社・末社
廣田神社の春日造(かすがづくり)の御社殿は、昭和20年(1945)8月6日の空襲で焼失してしまいました。現在の御社殿は、昭和28年(1953)の伊勢神宮遷宮で建て替えられた荒祭宮(あらまつりのみや)の御殿を譲り受け、昭和38年(1963)、伊勢神宮と同じく神明造で再建されたものです。昭和56年(1981)に不慮の火災により本殿は焼けてしまいましたが、3年後に新たに竣工しています。境外摂社・末社には、遠く六甲山頂の六甲山神社から、近隣では、えびすさんでお馴染みの西宮神社境内の南宮神社をはじめ、名次神社、若宮神社、愛宕神社、風神社など11社あります。珍しいところでは、尼崎の殿様の別荘地だった岡田山にある岡田神社。昭和8年(1933)に神戸女学院が移転してくる際に、神功皇后にまつわる神社でもあり、官幣大社の摂社を動かすわけにはいかないと、キャンパスのど真ん中でお祀りすることになったと聞いています。
住みたい街・西宮の魅力
私は西宮神社に勤め、1800年祭の手伝いに廣田神社に来たのがご縁で宮司を務めることになりました。西宮に来た時には、山も海もあり、気候が良くていい所だなあと思いましたね。生まれ育ったのが岡山県の山の中ですから海には憧れがあり、若い頃には友だちとディンギーに乗り、その後は24フィートのヨットでしばしば今津のヨットハーバーから出航して、須磨の辺りまでセーリングを楽しみました。甲山がとてもきれいに見え、「なるほど!神功皇后もこの神秘的な美しさに惹かれたんだなあ」と納得しましたね。
廣田神社は兵庫県指定天然記念物「コバノミツバツツジ」の名所です。六甲山に自生するツツジがなぜ群生していたのかは定かではありませんが、西宮神社の日記には正徳6年(1716)、既にこの境内にあったという記録が残っています。廣田の氏子さんたちはこの時期に日程を分けてお花見をして、境内に臨時の交番もできるほどの賑わいだったようです。昭和の初めごろ、植物学者の牧野富太郎さんがやってきて、「ただ三つ葉 千万人を おびき寄せ」と芳名帳に句を残しておられます。戦後は大きく育った他の木に隠れてしまいましたが、何とかしようと保存会を作り、地元の人たちが頑張っています。4月上旬には約5万3千平方メートルの境内一帯に約2万株の薄紫色の花が咲き誇ります。皆さんよくご存じのように夙川は桜の名所で春になると賑わいますが、ぜひ廣田神社のコバノミツバツツジのお花見も楽しんでください。