7月号
元町映画館 vol.7|ひとりで世界を見つめていたあの日
こちらあみ子
人気アニメーション映画や特撮ヒーロー映画など子ども向けの作品が多いシネコンと比べて、ミニシアターはその世代向きの作品がないと思われがちだ。でも、ティーンエイジャーが主人公の作品は世界で数多く作られ、ミニシアターで良質な作品を多数紹介してきた。この夏は邦画より、パンチの効いた作品が届いた。芥川賞受賞作家、今村夏子のデビュー作を映画化した、『こちらあみ子』だ。
あみ子は自分の気持ちに素直な小学生。母の書道教室に通う、のり君に憧れている。生まれてくる赤ちゃんとスパイごっこをしたかったが、入院した母が赤ちゃんを連れて帰ってくることはなかった。その後、良かれと思ってしたことが母を傷つけ、家族の歯車が狂いはじめる。中学生になると自分だけに見える世界も現れ、のり君とも距離ができてしまうが、それでもあみ子は気持ちを露わにするのだ。内なるマグマを持ったあみ子の叫びや歌声は、海に面した広島の町にこだますぐらい力強い。その真っ直ぐさがほろ苦さになり、胸の奥を刺激する。周りとすれ違う中、ひとりで世界を見つめ、いつも何かを求めているあみ子の眼差しが、いつまでも心の中に残った。
(江口由美)
■『こちらあみ子』(2022年 日本 104分)
監督・脚本:森井勇佑
原作:今村夏子「こちらあみ子」ちくま文庫
出演:大沢一菜、井浦新、尾野真千子他
配給:アークエンタテインメント
元町映画館にて
7月16日(土)より29日(金)まで上映
<その他の注目作>
7月16日より教育と学問に対する政治の介入に鋭く切り込むドキュメンタリー映画『教育と愛国』を3週間上映します。7月末から1週間は、地域の子ども(小学生から高校生)たちに向けた特別上映「夏休みの映画館」を開催。上映後のオンライントークやワークショップも合わせてお楽しみください!
元町映画館
神戸市中央区元町通4-1-12
66席+1(車椅子)
TEL.078-366-2636
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