7月号
「神戸灘動物病院」オープン
動物に負担をかけない優しい医療を提供
「神戸灘動物病院」オープン
株式会社 ベックジャパン 代表取締役社長 金井 孝夫さん
東京都内で3つの動物病院を運営し、動物に優しい医療を提供しているVe.C. JAPAN。4つ目の病院開業に神戸の地を選んだ。灘区高徳町にオープンした「神戸灘動物病院」について、株式会社ベックジャパンの金井孝夫社長にお話を伺った。
―Ve.C. JAPANについてご紹介ください。
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(CCC)が代官山T-SITEプロジェクトをスタートするに当たって、プレミアムエイジの人が楽しめるコンテンツを集めました。その中の一つが、ペットとの生活提案となれば医療も含めて全てがそろうコンテンツ。これをGREEN DOGを運営する株式会社カラーズが担いました。私は当時、動物医療業界で電子カルテに特化した会社で仕事をしながら、クライアントの先生の経営相談、独立開業のお手伝いなども行っていました。動物病院運営のノウハウを持っていましたので、カラーズがGREEN DOG代官山店と併せて開業する動物病院計画に外部コンサルとして参画しました。2012年代官山店がオープンした段階で直接携わることになり、カラーズの担当部門を分社化して2013年4月、株式会社ベックジャパン(Ve.C.)を起業しました。
―Ve.C.が運営する動物病院の強みは?
「診療と経営の分離」を掲げ、獣医師は診療に専念し、Ve.C.が経営に関する全てを担っています。獣医師たちが発信する思いを受け止めて、そこに投資することで責任感が生まれます。これがVe.C.動物病院グループの大きな強みです。
―4つ目の動物病院が神戸灘動物病院ですね。
私が参画した時点で、CCCのペット事業をカラーズが引き継いでいましたので東京ミッドタウンクリニックと代官山動物病院をマネジメントすることになりました。2016年には自由が丘動物医療センターをオープンし、今年2月、角谷悠介獣医師を院長に神戸灘動物病院を開業しました。
―角谷先生との出会いは?
Ve.C.動物病院グループ総院長の朴永泰獣医師が出会いのきっかけを作ってくれました。朴先生は「動物に優しい獣医療を実現するために、『腹腔鏡手術』を当たり前の選択肢として提示できるようにしたい」という思いをお持ちです。自由が丘動物医療センターに来てから存分に研究・臨床を重ね、博士取得後も動物の体への負担の少ない「腹腔鏡手術」を飼い主の選択肢のひとつとして一般的なものとしていくために、現場での執刀だけではなく最新の海外事例の研究や論文の執筆なども行っています。
―神戸を選んだ理由は?
私が高校3年生の夏、サッカーのインターハイで試合直前に大けがをして出場できず、悔しい思いでベンチにいました。それが神戸での試合でした。一方、角谷は「兵庫県の実家に帰りたい」と希望していました。私は開業する場所は「条件」と「人の思い」があればいいと思っています。新在家のGREEN DOG SQUAREが近いこの地で、私の〝悔しい〟思いと角谷の〝帰りたい〟思いが一致したわけです(笑)。
―コミュニケーションデザインとは?
高度な医療器具や施設が整っていても、一番大切なのはそれを使いこなす「人」です。そして人と人のコミュニケーションです。獣医師とペットのオーナー様、またグルーマー・トレーナーなど関連スタッフとのコミュニケーションはもちろん、獣医師同士は病院の垣根を越えてつながるコミュニケーションの環境を目指しています。これが獣医師の質の向上につながり、ひいては日本全国一律に質の高い動物医療を受けられる環境が整うと考えています。幸いコロナ禍があり、リモートでもコミュニケーションが可能な環境が整ってきて、今後は良い方向に向かうと期待しています。
―動物医療について日本のレベルは高いのですか。
日本の飼い主さんはペットが「一日でも長く生きてほしい」と願っていますから、長生きする動物医療に関するデータを蓄積しているのは日本の強みと考えています。例えば海外では「苦しそうで少しでも豊かな生活が難しい」と判断したときは安楽死を選択することも少なくありませんが、日本人はなかなかそういった決断はできないですね。外科手術においては先進国と言われるアメリカにおいても低侵襲手術が一般的に選択されることは少ないことからも、私たちは動物の負担をできるだけ軽くしてあげたいと考えています。腹腔鏡手術を取り入れて低侵襲治療の研究を重ねて論文で発表し、日本の動物医療の良さを世界にも知ってもらうため、会社のビジョンを「From Japan to the world.」と掲げました。
―将来を担う人材育成が重要ですね。
人材育成の方法として、3年後の自分がどう在りたいのかを自分で決める「セルフリーダーシップ」を実行しています。ゴールに向けて何をしなくてはいけないのかを個々に決めてもらい、私たちが夢の実現を応援します。もう一つは、外部の病院にも出て行き、当院でやっていることが本当に正しいのかを客観的に見られる目を育てることです。
―今後のビジョンをお聞かせください。
「From Japan to the World」を「From the World to Japan」、つまり世界の人たちが受けたいと思う動物医療を提供するところまで目指したいと思いますが、神戸灘動物病院においては、GREEN DOG SQUAREスタッフと連携しながら、将来的には電子カルテを共有し動物たちの健康管理体制を強めていきたいと考えています。
どんな動物のどんな病気も治してあげたい
神戸灘動物病院 院長 獣医師 角谷 悠介さん
―角谷先生は地元のご出身なのですね。
私は兵庫県明石市で生まれ、育ちました。恩師の先生の「せっかく獣医師になるのなら、いつか兵庫県に戻ってきて動物に恩返しをしなさい」という言葉がずっと心に残っています。金井さんにお会いして東京へ行くことになったときも、この思いをお話ししました。機会を頂いて帰って来ることができ嬉しく思っています。優しさと人情味あふれる神戸の人たちに囲まれて心温まる毎日を過ごしています。
―どんな病院づくりを目指していますか。
動物にとってはなにか怖い思いをするので行きたくないのが動物病院です。ペットが嫌がるところへは飼い主さんも行きたくなくなり、病気の発見が遅れてしまうことがあります。「来たくなる病院」は理想ですがなかなか難しいですね。そこで私たちが目指すのは、なるべく動物たちに負担をかけず、動物と飼い主さんがイヤにならない医療、つまり低侵襲の診断と治療の提供です。その一つの手段が腹腔鏡です。
―診療対象の動物と病気は?
私が眼科専門、もう一人の獣医師は歯科専門ですが、「どんな動物のどんな病気でも治してあげたい」という獣医師としての思いがあり、ジェネラリスト(総合診療医)であり続けたいと思っています。診療対象は主に犬と猫ですが、ウサギやフェレットなどエキゾチックアニマルと呼ばれる動物も受け入れ一般的な治療はさせていただきます。私たちの知識や技術では難しいと判断した場合は、専門の病院をご紹介させていただくこともあります。動物に負担が生じないよう、この地域の病院と連携を取りながら診療に努めています。
―どんな雰囲気づくりを心がけていますか。
入って来やすい雰囲気づくりを意識しています。気軽に立ち寄っていろいろ話をするうちに、飼い主さんが正しい情報を入手して病気の早期発見につなげてもらえたら嬉しいですね。治療はもちろんですが、病気にならないようにする予防医療も大事にしています。私たち獣医師には話しにくいことや不十分な点は、受付となる「ごはんの窓口」のスタッフが対応してくれています。「ごはんの窓口」スタッフは栄養学に詳しいため、頼りにしています。