2021年
12月号
12月号
映画をかんがえる | vol.09 | 井筒 和幸
1970年代のアメリカの映画たちはほんとに愉しいものばかりだ。見直す度に時を忘れて、というか、時を奪われてしまう。同時にアメリカが忌まわしきベトナム戦争に疲弊しきっていた時代も甦ってくる。まあ仕方がない。日本では中国との国交正常化とやらでパンダのぬいぐるみが街で売られ、一方、石油が足りなくなると噂が広がり、関西のスーパーマーケットでトイレットペーパーの買い占め騒動が起き、何とも落ち着かない時代だった。新築したばかりの超高層ビルで大火災が起きて修羅場と化す『タワーリング・インフェルノ』や豪華客船が転覆する『ポセイドン・アドベンチャー』など、誰が生き残って誰が死ぬかを見世物にした大味のパニック物も流行っていた。パニックに人は何を求めて、それを見て何を顧みていたのだろうか。『日本沈没』というパニック邦画もあった。経済成長が止まってしまうと何か新しいことを生み出さないと地球の自転まで止まってしまうかのように、世の中の大人たちは何か焦っているように思った。
PROFILE
井筒 和幸
1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD、2021年11月25日発売。