4月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第五十九回
地域医療連携におけるIT利用の課題と展望
─現在、医療のIT化はどのような分野で進んでいますか。
足立 医療のIT化はいわゆるレセコンによるレセプト(診療報酬明細書)作成業務から始まり、続いて院内指示、物流のオーダリングシステム、各種計測機器のデジタル化、とりわけCTに始まる画像情報の保存提供(PACS)から、電子カルテ化、病院内総合情報システム(HIS)へと発展してきました。診療所においてもひとサイクル遅れながら同様のシステム構築が進み、レセプトオンライン化も義務化され定着する中、新規開業医ではほとんどでレセプト一体型の電子カルテシステムやデジタル画像システムが導入されるようになっています。その上で、現在はその電子カルテ情報と画像情報等の病院・診療所を結ぶネットワーク化、いわゆる地域医療情報システムが各地区で取り組まれることになっており、ICT(情報通信技術)化と言えるものに替わってきています。
─今後、どのような分野でITの利用が期待されていますか。
足立 平成28年度からの診療報酬制度改定で、従来の画像電子化加算に次いでこれらICT連携情報提供活用に対する加算が認められたので、この領域での利用、すなわち電子紹介状に画像情報を添付した形などでのやり取りも増えてくる可能性があります。また、電子処方箋も認められる中で、「電子お薬手帳」による処方情報共有管理というスタイルも提起されてきています。さらに、在宅医療介護連携から「地域包括ケアシステム」への展開が図られる中、多職種が関わる現場でのICT化と連携が問われてくるでしょう。一方で患者側でのIT化、いわゆるIoT(Internet of Things)として、ウエアラブル計測端末とのデータ連携やヘルスケア領域での利用も考えられます。
─医療のIT化により、どのようなメリットがありますか。
足立 医療事務と院内情報伝達の迅速化をはじめとして、カルテ情報や各種検査情報のデジタル化保存やデータベース化による医師・患者双方への的確な還元は、提供医療の質的向上と安全管理にも資するものになるでしょう。また、地域医療連携での退院時情報等のデジタル化交信は、紙ベースよりも優れたデータ利用の可能性があり、治療の継続性・水準の均てん化に寄与すると思います。
─逆に、医療のIT化のデメリットや課題を教えてください。
足立 機微性の最も高い医療情報は、個人情報保護の中でも最も厳しく守られるべきもので、IT化によってこれが公開情報となったり、無断で第三者へ提供されたりする危険性が最大のデメリットです。患者にとって取り返しがつかないのはもちろん、医師側もそれによる責任追及のリスクを負うことになります。したがって上記のICT連携加算の前提としても、単なるIDパスワードではないHPKI(ヘルスケア公開鍵認証基盤)システムでの医師資格認証利用による情報交換と、その経路のセキュリティ管理が求められます。また、レセプト情報や健診情報などのナショナルデータベース化と医療施策還元についても、それが単なる医療費抑制や管理医療の目的に使われるのではなく、あくまでも国民皆保険制度の維持発展のためになるものであるべきです。現場での医師と患者の関係のために活きる、しっかり守られたPHR(パーソナルヘルスレコード)の形成に資するIT化こそが求められているのです。
─医師会は、医療のIT化にどのように取り組んでいますか
足立 日本医師会としては以上の歴史の中で、医療機関の基幹業務となるレセプトソフトをオープンソースで提供するORCAプロジェクトを基盤にそのIT戦略を進め、上記のHPKI認証局を運営し、医師資格証(図)の発行を進めてきました。兵庫県医師会もそれにいち早く応え、認証局のローカルサーバを設置し、県内での地域医療連携のIT化に対してセキュリティの高いネットワーク基盤の利用をお願いし、医師資格証の取得利用を呼びかけています。今後は、そのような機密性の高い医療情報を扱う縦の部分のみならず、医療介護連携の多職種でも利用できる横の広がりとして、かかりつけ医が核となってつないでいくソフト環境の整備をさらに進めていく予定です。