5月号
第40回土門拳賞 受賞おめでとう! 大竹英洋さん インタビュー
大自然のリアルを凝縮した一冊が「写真界の直木賞」に輝く!
リアリズムを追求し写真を美術の域にまで高めた日本を代表する写真家のひとり、土門拳(1909~1990)。彼の業績を顕彰して創設された国内でも屈指の権威を誇る写真賞、土門拳賞に、神戸在住で本誌連載でもおなじみの大竹英洋さんの写真集『ノースウッズ―生命を与える大地―』が選ばれた。受賞した感想や自身の作品、今後についてなどお話を伺った。
─受賞おめでとうございます。
大竹 ありがとうございます。賞という形のあるものをもらうことよりも、これまで応援してくれた人たちが喜んでくれたことに感動しました。『神戸っ子』に紹介してくださった垂水の中村しのぶ先生が「家族のことのように嬉しい」とおっしゃってくださったり、講演や写真展に呼んでくれた全国の人たちが我が事のように喜んでくれたのが何より嬉しいですね。
─受賞の一報はどこで知ったのですか。
大竹 内定通知があったのは2月で、ちょうど北海道のウポポイ(民族共生象徴空間)を訪れていました。風が強く湖も凍てつく寒い北の大地の風景の中で受賞を知り、背筋が伸びる思いでしたね。受賞作は最初の写真集ですし、自分としてはまだまだ新人の気持ち。「これぞオオカミのポートレート」という写真がまだ撮れていないし、土門拳賞なんて候補に挙がるとしても何十年も先だと思っていたので、今後がとても大事だなと。
─土門拳氏は写真もさることながら名文家でもあったのですが、文章も選考対象なのですか。
大竹 基本は写真作品を対象としているのですが、選考委員に必ず1人は作家が入り、文章と写真との関係は必ず議論に上がるそうです。ただ、土門拳賞には写真だけの力で評価すべきという意見もあり、一理あると思います。凄い写真はキャプションがなくても、1枚の力でアッと言葉を失ってしまうものです。僕もそれを目指し、写真の力を高めたいという思いはいつも持っています。
─土門拳氏の作品をどのように見ていますか。
大竹 写真1枚に込められた鬼気迫る集中力、シャッターをどこで切るのか、何を撮るのかという観察力、一瞬を逃さないよう研ぎ澄まされた感覚など、撮るまでのプロセスがあるからこそ、力強いのではないのかなと思います。撮る前後に考えたことを含めて、写真に全部写るのでしょうね。
─受賞記念の特別展が開催されるそうですが。
大竹 4月27日~5月10日に東京、5月27日~6月9日に大阪のニコンプラザで開催します。その後、10月6日から12月22日までは山形県酒田市の土門拳記念館です。撮る時にもプリントの大きさを考えているので、ぜひ現場で体験していただきたいなと。動物や風景の写真だけでなく、先住民の写真も多く展示する予定です。厳しい環境の中で自然から恵みを得て生きてきた彼らの暮らしや世界観も、写真を通じて感じていただきたいですね。
─なぜオオカミを追い求めるのですか。
大竹 もともとジャーナリスト志望で、大学でワンダーフォーゲル部に入り自然に興味を持ち、伝えるなら自然のことだと思うようになりました。そこで初めてカメラを手にし、何をテーマにするか悩んでいた大学4年の秋、夢にオオカミが現れたんです。その直後にアメリカの写真家、ジム・ブランデンバーグのオオカミの写真集と出会い、弟子入りを志願して会いに行きました。結局、弟子にはなれなかったのですが交流は続き、受賞作の序文をお願いしたら快諾してくれて。
─オオカミと出会うのは難しいのではないでしょうか。
大竹 現地に行けばオオカミの足跡やフンはそこら中にあるんですが、会えないんです。彼らは警戒心が強く、人間には見られたくないと思って生きているので。ですから20年通い続けて、会えたのは10回くらい。そのうち半分は、僕の姿を見ただけですっ飛んでしまう。怖くないのかとよく言われますが、童話の『赤ずきん』のイメージとは逆で、人を無闇に襲うことはまずありません。写真集の中でオオカミの写真は3点発表しています。そのうちの1点、2015年に地上から撮影した時は一番近づけたのですけれど、それでも150m以上あったのではないかと思います。この時はオオカミがよく来るという猟師小屋に1か月住み込んで撮影し、最初のうちは出てきましたが、そのうち気配を察知したのでしょう、二度とこの距離で出てきてはくれませんでした。
─オオカミ以外に撮ってみたい動物はありますか。
大竹 会えていない動物はいっぱいいます。例えばクズリ。アナグマの仲間でかなり凶暴みたいですけれど、夜行性で警戒心が強いのでなかなか会えず、1枚も撮れていません。ピューマもいることはわかっていますが、知人で出会ったことがある人はいません。出会ったらどうなるかわからないですけれど(笑)。フクロウも、小型のフクロウがあまり撮れていなくて。フクロウって種類によって食べものも利用する巣も好みが全然違うんですね。そうすると、森によって住んでいるフクロウが異なり、逆にフクロウを通すと森がいろいろ見えてくるんです。
─今後の展望をお聞かせください。
大竹 ライフワークとしてノースウッズに通っていますが、まだまだ終わっていません。オオカミもまだだし、先住民の暮らしももっと撮りたい。海外に行くと、日本の良さも見えてきますので、日本の自然も撮影したいという思いもないわけじゃないですが、ライフワークとして並行してとなると簡単ではないですね。南極も、アラスカも、アフリカにも憧れはありますが、ひとつのテーマを持って撮影するとなるとそれだけ人生が必要です。でもそれを悲観している訳じゃなく、逆に面白いなと。1度の人生でぜんぶ見きれるような狭さだったら、地球はつまらないと思うんです。僕は僕で自分で見つけたノースウッズという場所を舞台として仕事をして、そこの世界を写真を通じて感じてもらいたいと思っています。憧れの場所があることは、人生を豊かにしてくれます。僕の写真を通じて、ノースウッズがみんなの憧れの場所になったとしたら…それ以上に表現者として「やりがい」のある仕事はありません。
第40回 土門拳賞受賞作品展 大竹英洋 写真展 ノースウッズ 生命を与える大地
4月27日(火)~5月10日(月)
ニコンプラザ東京
THE GALLERY
東京都新宿区西新宿1-6-1
新宿エルタワー28階
新宿駅下車、西口すぐ
10:30~18:30(最終日は~15:00)
日曜・5月3日~5日休館
6月1日(木)~6月9日(水)
ニコンプラザ大阪
THE GALLERY
大阪市中央区博労町3-5-1
御堂筋グランタワー17階
心斎橋駅下車、徒歩約5分
10:30~17:30(最終日は~15:00)
日曜休館
※当初、5月27日(木)からの開催を予定いたしておりましたが、
非常事態宣言の延長により31日までは休館が決定しましたため、
6月1日からのスタートとなります。
※緊急事態宣言の影響により時短となり、10:30-17:30となっております。
ご注意ください。
10月6日(水)〜12月22日(水)
土門拳記念館
〒998-0055
山形県酒田市飯森山2-13
9:00〜17:00(入館は16:30まで)
11月末まで無休、12月は月曜休館