10月号
美しい心を育む 品格ある建築
W・M・ヴォーリズ設計による 神戸女学院 岡田山キャンパス
背後に六甲山の山々、前方に文化教育都市西宮の街並み、かなたに大阪湾を一望する岡田山という自然豊かな里山そのままが神戸女学院キャンパスです。敷地内の約3割が森で、庭園部分を含めるとほぼ半分が緑に覆われ、600種の野生植物と90種もの野鳥が生息します。絶滅危惧種に指定される西宮固有の野生クロメダカを保護している噴水池もあり、校内を歩くだけで四季折々表情を変える自然に親しめる環境です。
この緑あふれる広大な敷地に点在するスパニッシュミッション様式の優雅な学舎は、伝道者かつ建築家であったウィリアム・メレル・ヴォーリズ博士の設計によるものです。ヴォーリズは大正末期から昭和初期にかけて住宅をはじめ、教会や学校、商業施設など1500を超える建築を日本全国に残しています。その中でも、妻・一柳満喜子の母校・神戸女学院の設計には、特別な思いを込めたと言われています。ヴォーリズが目指したのは、「美しい心を育むための品格ある建築」。この「学舎が教育する」という考えの下、神戸女学院のキリスト教精神に基づくリベラルアーツ教育が行われてきました。
岡田山キャンパス創建時からのヴォーリズ建築のうち現存する12棟が、2014年に「重要文化財 神戸女学院」という名称で国の重要文化財に指定されました。キャンパスほぼ全体が重要文化財という環境は全国でも他に例を見ず、生徒・学生に与える影響は計り知れないものだといえます。
美しく優雅な建物には、ここを学舎として学ぶ者に向けられたヴォーリズのきめ細かな配慮がなされています。後ろ斜面壁を自然の防音壁として利用した音楽館、全面北向きの大窓が本を保護して夕方でも十分に光が差し込む図書館、舞台のある階段教室を備えた文学館など、あちらこちらに見受けられます。同時に、学舎内で発見するヴォーリズの楽しい遊び心が、生徒・学生たちへの温かい愛情を感じさせてくれます。
このヴォーリズのかけがえのない賜物は大切に管理・保存され、第二次世界大戦と阪神・淡路大震災という二つの大禍をくぐりぬけてきました。今なお神戸女学院の学び舎として、憧れとリスペクトを一身に受けながら岡田山で歴史を刻み続けています。